第50話 浮気しちゃ駄目よ
文字数 2,035文字
「でも、そのようなお方がどうして離脱を表明したのでしょうか?」
続けてアストリアがもっともな疑問を口にした。
「確かにそうだな。あの爺さんが何で今更、離脱を言い出したりするんだ?」
クアトロもアストリアに同意してヴァンエディオに疑問の目を向けた。
「魔人との件、自分に声がかからなかったことにお怒りのようです」
「……さあ、アストリア、ちょっと中庭で散歩でもしようか。今日は天気がいいんだぞ」
「え、ええ……」
「俺は王国軍の編成を練り直さないといけないな」
続いてエネギオスが思い出したように言う。
「え、えっと、私は……そう、魔法学院に行かないと……」
マルネロも慌てたように続けて言い始める。
「えーっ、皆、どこかに行っちゃうんですかー? じゃあぼくはトルネオとエリンとで遊ぼうかなー」
スタシアナもそのようなことを言い出す。
「……皆さん、まだ話は終わっていませんよ」
ヴァンエディオの言葉に玉座から腰を浮かせかけたクアトロだったが、仕方なく再び座り直した。
「あの爺さんを仲間外れにしたのは俺じゃない。将兵の編成はエネギオスとヴァンエディオの役目だったはずだ」
自分は関係ないぞという意味を多分に込めてクアトロはそう言ってみた。
「あ、お前、擦りつけやがったな」
エネギオスが反論する。
「人聞きの悪いことを言うな。俺は誰の責任か明確にしただけだ」
「てめえ……」
「まあ、待って下さい、エネギオスさん。クアトロ様の言うことも一理あります。確かに編成を決めたのは私とエネギオスさんですからね」
ヴァンエディオの同意も得て、そうだそうだと言わんばかりにクアトロは頷いた。そんなクアトロにエネギオスは反論する。
「そうは言ったって、もしあの爺さんを連れて行ってたら、魔人をぶっ倒してそのまま天上にまで攻め込んじまっていたぞ」
「そうね。バスガル候ならあり得たわね。魔人どころか天使ともやり合ってたんじゃないかしら」
マルネロもエネギオスの言葉に同意を示す。
「実際にどうだったかはともかく、ことの発端を作った私とエネギオスさんは外せないですね」
「外せないって何がだ?」
ヴァンエディオの言っていることが分からず、クアトロは疑問の言葉を口にした。
「バスガル候のところに行く一行からですよ」
ヴァンエディオの言葉にエネギオスの顔が引き攣る。
「クアトロ様は当然として、マルネロさんも申し訳ないですが、お付き合い下さい」
「えっ!」
「えーっ!」
クアトロとマルネロが同時に声を上げる。
「クアトロ様は国王なのですから当然です。臣下が反旗を翻したのですからね」
「私、私は関係ないじゃない」
マルネロが片手を必死に上げて疑問を口にする。
「マルネロさんには申し訳ないですが、マルネロさんはあの御仁のお気に入りです。その場にいた方が何かと都合がよいかと」
マルネロががっくりとばかりに頭を垂れた。
「あ、あの、離脱を表明した人物の所へ赴いて危険はないのでしょうか?」
アストリアがもっともな疑問で口を挟んできた。それにヴァンエディオは軽く頷いてみせた。
「大丈夫だと思います。理由が何であれ、いきなり我々を捕らえてといったことはしないでしょうね。やるならば正面からといった御仁ですので。それに今回は臍を曲げただけでしょうから」
「では、私も一緒に行きます」
アストリアから決意を込めたような言葉が飛び出した。
「アストリア様、危険では?」
早速、隣のダースがアストリアを諌める。
「ダース卿、私はこの国で今後も暮らしていくのです。ならば他人事ではありませんし、この国の様々な事象を学びたいのです」
「で、ですが……」
アストリアが珍しく妙な理屈を振り回してダースを説得しているなとクアトロは感じた。そうか、余程自分と一緒にいたいのかと結論づけたクアトロは少しだけ嬉しくなってくる。
「ダース、大丈夫だ。お前や俺たちもいるんだ」
「……わかりました」
クアトロの言葉にダースは頷いた。ダースの奴、何だかんだでいつもアストリアに押し切られる。そう思うとクアトロはおかしくなってくる。
そんなことを考えながら、次いでクアトロはスタシアナに赤い瞳を向けた。
「スタシアナはどうする?」
「えっと、ぼくは残りますね。魔人の骨でトルネオと優秀なスケルトン兵を作るんですよー」
スタシアナはにこにこしながらそんなことを口にする。
「お、おう、そうか……」
堕天使とはいえ、不浄の存在を嫌う天使がスケルトンなんぞを作ってよいものだろうかとクアトロは思う。もっともそれを言ってしまえば、不浄の存在であるトルネオと仲良くしてること自体が微妙な話なのだったが……。
「スタシアナ姉様が残るのなら、私も残るわ。クアトロ、浮気しちゃ駄目よ」
エリンがクアトロの片手を取ると、自分の両手で包み込みながらそう言う。
「お、おう……」
クアトロは少しだけ赤くなってそんなエリンに向けて頷いた。
こうして、王国からの離脱を表明したバスガル候の下へ行く顔ぶれが決定したのだった。
続けてアストリアがもっともな疑問を口にした。
「確かにそうだな。あの爺さんが何で今更、離脱を言い出したりするんだ?」
クアトロもアストリアに同意してヴァンエディオに疑問の目を向けた。
「魔人との件、自分に声がかからなかったことにお怒りのようです」
「……さあ、アストリア、ちょっと中庭で散歩でもしようか。今日は天気がいいんだぞ」
「え、ええ……」
「俺は王国軍の編成を練り直さないといけないな」
続いてエネギオスが思い出したように言う。
「え、えっと、私は……そう、魔法学院に行かないと……」
マルネロも慌てたように続けて言い始める。
「えーっ、皆、どこかに行っちゃうんですかー? じゃあぼくはトルネオとエリンとで遊ぼうかなー」
スタシアナもそのようなことを言い出す。
「……皆さん、まだ話は終わっていませんよ」
ヴァンエディオの言葉に玉座から腰を浮かせかけたクアトロだったが、仕方なく再び座り直した。
「あの爺さんを仲間外れにしたのは俺じゃない。将兵の編成はエネギオスとヴァンエディオの役目だったはずだ」
自分は関係ないぞという意味を多分に込めてクアトロはそう言ってみた。
「あ、お前、擦りつけやがったな」
エネギオスが反論する。
「人聞きの悪いことを言うな。俺は誰の責任か明確にしただけだ」
「てめえ……」
「まあ、待って下さい、エネギオスさん。クアトロ様の言うことも一理あります。確かに編成を決めたのは私とエネギオスさんですからね」
ヴァンエディオの同意も得て、そうだそうだと言わんばかりにクアトロは頷いた。そんなクアトロにエネギオスは反論する。
「そうは言ったって、もしあの爺さんを連れて行ってたら、魔人をぶっ倒してそのまま天上にまで攻め込んじまっていたぞ」
「そうね。バスガル候ならあり得たわね。魔人どころか天使ともやり合ってたんじゃないかしら」
マルネロもエネギオスの言葉に同意を示す。
「実際にどうだったかはともかく、ことの発端を作った私とエネギオスさんは外せないですね」
「外せないって何がだ?」
ヴァンエディオの言っていることが分からず、クアトロは疑問の言葉を口にした。
「バスガル候のところに行く一行からですよ」
ヴァンエディオの言葉にエネギオスの顔が引き攣る。
「クアトロ様は当然として、マルネロさんも申し訳ないですが、お付き合い下さい」
「えっ!」
「えーっ!」
クアトロとマルネロが同時に声を上げる。
「クアトロ様は国王なのですから当然です。臣下が反旗を翻したのですからね」
「私、私は関係ないじゃない」
マルネロが片手を必死に上げて疑問を口にする。
「マルネロさんには申し訳ないですが、マルネロさんはあの御仁のお気に入りです。その場にいた方が何かと都合がよいかと」
マルネロががっくりとばかりに頭を垂れた。
「あ、あの、離脱を表明した人物の所へ赴いて危険はないのでしょうか?」
アストリアがもっともな疑問で口を挟んできた。それにヴァンエディオは軽く頷いてみせた。
「大丈夫だと思います。理由が何であれ、いきなり我々を捕らえてといったことはしないでしょうね。やるならば正面からといった御仁ですので。それに今回は臍を曲げただけでしょうから」
「では、私も一緒に行きます」
アストリアから決意を込めたような言葉が飛び出した。
「アストリア様、危険では?」
早速、隣のダースがアストリアを諌める。
「ダース卿、私はこの国で今後も暮らしていくのです。ならば他人事ではありませんし、この国の様々な事象を学びたいのです」
「で、ですが……」
アストリアが珍しく妙な理屈を振り回してダースを説得しているなとクアトロは感じた。そうか、余程自分と一緒にいたいのかと結論づけたクアトロは少しだけ嬉しくなってくる。
「ダース、大丈夫だ。お前や俺たちもいるんだ」
「……わかりました」
クアトロの言葉にダースは頷いた。ダースの奴、何だかんだでいつもアストリアに押し切られる。そう思うとクアトロはおかしくなってくる。
そんなことを考えながら、次いでクアトロはスタシアナに赤い瞳を向けた。
「スタシアナはどうする?」
「えっと、ぼくは残りますね。魔人の骨でトルネオと優秀なスケルトン兵を作るんですよー」
スタシアナはにこにこしながらそんなことを口にする。
「お、おう、そうか……」
堕天使とはいえ、不浄の存在を嫌う天使がスケルトンなんぞを作ってよいものだろうかとクアトロは思う。もっともそれを言ってしまえば、不浄の存在であるトルネオと仲良くしてること自体が微妙な話なのだったが……。
「スタシアナ姉様が残るのなら、私も残るわ。クアトロ、浮気しちゃ駄目よ」
エリンがクアトロの片手を取ると、自分の両手で包み込みながらそう言う。
「お、おう……」
クアトロは少しだけ赤くなってそんなエリンに向けて頷いた。
こうして、王国からの離脱を表明したバスガル候の下へ行く顔ぶれが決定したのだった。