第79話 栄枯盛衰
文字数 1,574文字
「ほ、本当だ。この神殿の地下に神がいるということ以外は何も知らん。それよりもういいだろう? 俺が知っていることは全部話した。早く手当をしてくれ。このままでは本当に死んでしまう」
ヴァンエディオから不穏な空気を感じ取ったのか魔人が早口でそうまくしたてた。
どうやら本当にこれ以上は知らないのだろう。クアトロはアストリアに魔人の手当をするように促した後、ヴァンエディオに視線を向けた。
「で、どうする、ヴァンエディオ。神殿にある神の居場所とやらをこれから皆で探すか?」
「いえ、直に天使やら魔人やらがまた現れるでしょう。その中にはより事情を知っている者もいるかと」
それは確かにそうなのだがとクアトロは思う一方で、天使や魔人の数が多ければそう簡単な話にはならないのではないかとも思う。
「それでは、クアトロ様、世界の理を覆すための最終決戦といきましょうか」
ヴァンエディオはそう言って口角を持ち上げたのだった。
「……さてと、ここに来るのは何百年ぶりでしょうか。それとも、千年、二千年ぶりでしたかね」
転移を終えたトルネオはそう独りごちた。
トルネオが転移してきた場所は白一面の壁で覆われている広い部屋だった。部屋にはいくつもの机が並べられ、その上には大小様々な画面や操作盤が並べられていた。
「ここは何も変わらないですね。かつて沢山の者がここにいたことを除けば……栄枯盛衰ですかね」
再びトルネオそう独りごちた。勿論、どこからも返事などはない。
生命の理から脱しようとした者たちの哀れな末路なのだろうかとトルネオはふと思った。ならば、不死者となった自分も同じことが言えるのではないだろうか。
「……おや、柄にもなく少しだけ感傷的になりましたかね」
トルネオは顎の骨をかくかく鳴らしながら乾いた笑い声を上げた。
「……まあ、ここに来るのも久しぶりですからね。無理もないということにしておきましょうか。さて、それよりスタシアナさんとエリンさんです。何とかしないとマルネロさんあたりに燃やされてしまうでしょうから。何てったってマルネロさん、もの凄く恐いですからね……」
トルネオは再度、そうして独白すると目の前の操作板に両手を置くのだった。
その夜、一人で神殿の外に出たアストリアは崩れかかった外壁に腰かけて夜空を見上げていた。夜空には幾多もの星々が煌めいていて、そうして見ていると手を伸ばせば届きそうな気がしてくるのが不思議だった。
アストリアはそっと片手を夜空に向けて伸ばした。心地よい風が駆け抜けてアストリアの明るい栗色の髪を僅かに揺らしていた。
自分を中心として想像もつかないような大きなことが渦巻いているのだとアストリアは思っていた。でも、それに抗う術が自分にはなくて、クアトロたちが傷つきながらそれに必死に抗ってくれていた。
いや、違うのだとアストリアは思った。クアトロたちだけではない。魔族の名も知らない将兵たちもそうだ。あの戦いでどれだけの魔族の皆が傷つき死んでしまっただろうか。
そう思うと、悲しみと自分の不甲斐なさが悔しくて涙が浮かんでくる。だが、泣いていても何の解決にもならないことをアストリアは知っていた。あの時、国を飛び出したように自分で踏み出さなければ何も始まらないのだ。
古代種のドラゴンは力を貸してはくれないのかしらとも思ったが、結局はそれも他人任せでしかないことにアストリアは気がつく。
本当に自分は泣きたくなるぐらいに無力なのだ。
「アストリア、ここにいたのか。心配したぞ」
気がつけばクアトロが自分の背後に立っていた。
「あ、ごめんなさい。少し考えごとをしていて……」
「そうか……」
クアトロはそう言って優しく笑って見せた。いつもそうなのだとアストリアは思う。クアトロはこうして優しく笑ってくれて自分のことをいつも守ってくれるのだと。
ヴァンエディオから不穏な空気を感じ取ったのか魔人が早口でそうまくしたてた。
どうやら本当にこれ以上は知らないのだろう。クアトロはアストリアに魔人の手当をするように促した後、ヴァンエディオに視線を向けた。
「で、どうする、ヴァンエディオ。神殿にある神の居場所とやらをこれから皆で探すか?」
「いえ、直に天使やら魔人やらがまた現れるでしょう。その中にはより事情を知っている者もいるかと」
それは確かにそうなのだがとクアトロは思う一方で、天使や魔人の数が多ければそう簡単な話にはならないのではないかとも思う。
「それでは、クアトロ様、世界の理を覆すための最終決戦といきましょうか」
ヴァンエディオはそう言って口角を持ち上げたのだった。
「……さてと、ここに来るのは何百年ぶりでしょうか。それとも、千年、二千年ぶりでしたかね」
転移を終えたトルネオはそう独りごちた。
トルネオが転移してきた場所は白一面の壁で覆われている広い部屋だった。部屋にはいくつもの机が並べられ、その上には大小様々な画面や操作盤が並べられていた。
「ここは何も変わらないですね。かつて沢山の者がここにいたことを除けば……栄枯盛衰ですかね」
再びトルネオそう独りごちた。勿論、どこからも返事などはない。
生命の理から脱しようとした者たちの哀れな末路なのだろうかとトルネオはふと思った。ならば、不死者となった自分も同じことが言えるのではないだろうか。
「……おや、柄にもなく少しだけ感傷的になりましたかね」
トルネオは顎の骨をかくかく鳴らしながら乾いた笑い声を上げた。
「……まあ、ここに来るのも久しぶりですからね。無理もないということにしておきましょうか。さて、それよりスタシアナさんとエリンさんです。何とかしないとマルネロさんあたりに燃やされてしまうでしょうから。何てったってマルネロさん、もの凄く恐いですからね……」
トルネオは再度、そうして独白すると目の前の操作板に両手を置くのだった。
その夜、一人で神殿の外に出たアストリアは崩れかかった外壁に腰かけて夜空を見上げていた。夜空には幾多もの星々が煌めいていて、そうして見ていると手を伸ばせば届きそうな気がしてくるのが不思議だった。
アストリアはそっと片手を夜空に向けて伸ばした。心地よい風が駆け抜けてアストリアの明るい栗色の髪を僅かに揺らしていた。
自分を中心として想像もつかないような大きなことが渦巻いているのだとアストリアは思っていた。でも、それに抗う術が自分にはなくて、クアトロたちが傷つきながらそれに必死に抗ってくれていた。
いや、違うのだとアストリアは思った。クアトロたちだけではない。魔族の名も知らない将兵たちもそうだ。あの戦いでどれだけの魔族の皆が傷つき死んでしまっただろうか。
そう思うと、悲しみと自分の不甲斐なさが悔しくて涙が浮かんでくる。だが、泣いていても何の解決にもならないことをアストリアは知っていた。あの時、国を飛び出したように自分で踏み出さなければ何も始まらないのだ。
古代種のドラゴンは力を貸してはくれないのかしらとも思ったが、結局はそれも他人任せでしかないことにアストリアは気がつく。
本当に自分は泣きたくなるぐらいに無力なのだ。
「アストリア、ここにいたのか。心配したぞ」
気がつけばクアトロが自分の背後に立っていた。
「あ、ごめんなさい。少し考えごとをしていて……」
「そうか……」
クアトロはそう言って優しく笑って見せた。いつもそうなのだとアストリアは思う。クアトロはこうして優しく笑ってくれて自分のことをいつも守ってくれるのだと。