第76話 逃げるトルネオ
文字数 1,565文字
「偉大なる創造主、神の慈悲をその身で感じて消滅なさい! それがせめてもの慰めです! 神光!」
トルネオの視界で天使長ミネルが高らかに宣言した。その言葉と共に金色の球体がトルネオたちに向かって放たれる。
……いやいや、これはかなり不味い状況ですね。
トルネオは心の中で呟いた。
「ほえー? エリン、急ぐんですよー。早くしないとぼくたち消えちゃいますよー!」
スタシアナが両手をぱたぱたと上下に動かして、防御魔法を早く展開するようエリンを急かしていた。
「は、はいっ、スタシアナ姉様。絶対障壁!」
エリンの言葉と共にトルネオたちの前に見えざる壁が出現したようだった。巨大な金色の球体がその見えざる壁と激しく衝突した。
「ス、スタシアナ姉様、駄目……かもです」
エリンは早くも根を上げ始めていた。
「こ、こらあ、エリン、頑張るんですよー」
スタシアナは小さな手で握り拳を作るとエリンの頭をぽかぽかと叩き始めた。
どう見ても懸命に頑張っているエリンをスタシアナが見事なまでに邪魔をしている。
「い、痛い、痛いです。スタシアナ姉様!」
スタシアナにぽかぽかと頭を叩かれてエリンは既に半べそだ。
そんな騒ぎを横目で見ながら、さてどうしたものかとトルネオは思っていた。自分だけ空間転移の魔法で逃げ出すことは可能だったが、それでは後で皆に何を言われるか分かったものではない。
……ならば。
トルネオは両手を広げて空に向かって突き上げた。
「秘技……魚群ほねほね団!」
以前と少し名前が違う気もしたが、細かいことは気にしないでおくことにする。
トルネオの言葉と共にミネルの頭上からばらばらと骸骨群が降ってくる。
だが……。
「ふんっ!」
ミネルが頭上に向けて片手を振るとそこから金色の光が放たれた。その光に飲み込まれた骸骨たちは瞬く間に消え去っていく。
……あっという間ですね。鼻息で飛ばされたぐらいの消え去り方でしょうかね。
分かってはいましたが、やはりわたしと天使の相性は最悪なようで……。
トルネオは他人事のように心の中で呟いた。
「トルネオ、全然駄目じゃないですかー」
「トルネオー!」
こんな状況でもスタシアナはぷんすかと怒っている。
エリンは半泣きだ。
……ならば致し方ないですかね。
トルネオは溜息を吐いた。
「スタシアナさん、エリンさん、非常に残念なのですが、わたしはここで失礼致します。ではまた……」
転移する瞬間、可愛らしい声ながらも怒りのこもったスタシアナの声とエリンの泣き声をトルネオは聞いた気がした。
「……貴様らは何者だ? 何で魔族ごときがここまで強い?」
クアトロたちに捕らえられた魔人がそう尋ねてきた。そんなことは知るかとクアトロは思う。それに質問しているのはこちらの方なのだ。
「誰が質問していいと言いましたか?」
ヴァンエディオがそう冷徹に言った瞬間、魔人の口から絶叫が溢れ出た。どうやら灰色の球体に左腕にあった指の二本が飲み込まれたようだった。
「止めろ! もう止めてくれ!」
耐え切れずに魔人が泣き声混じりの悲鳴を上げる。
「何故、天使と魔人が行動を共にしているのでしょうか。あなた方は敵対しているのでは? 違いますか」
ヴァンエディオが先刻からの質問を繰り返す。
「分かった。話すからもう止めてくれ……」
魔人は泣き顔となりながら言葉を続けた。
「魔人と天使が敵対しているというのは……便宜上の話だ」
便宜上? 言っていることがまるで分からない。
クアトロはそう心の中で呟いた。横目でマルネロを見ると彼女は呆けた顔で口を開けている。
このマルネロの呆けた顔は、魔力がつきかけているからだけではないだろうとクアトロは思う。
……ああ、こいつもまるで分かっていないな。
クアトロはそう思うと、自然と自分の顔に笑みが浮かんでくるのを感じる。
トルネオの視界で天使長ミネルが高らかに宣言した。その言葉と共に金色の球体がトルネオたちに向かって放たれる。
……いやいや、これはかなり不味い状況ですね。
トルネオは心の中で呟いた。
「ほえー? エリン、急ぐんですよー。早くしないとぼくたち消えちゃいますよー!」
スタシアナが両手をぱたぱたと上下に動かして、防御魔法を早く展開するようエリンを急かしていた。
「は、はいっ、スタシアナ姉様。絶対障壁!」
エリンの言葉と共にトルネオたちの前に見えざる壁が出現したようだった。巨大な金色の球体がその見えざる壁と激しく衝突した。
「ス、スタシアナ姉様、駄目……かもです」
エリンは早くも根を上げ始めていた。
「こ、こらあ、エリン、頑張るんですよー」
スタシアナは小さな手で握り拳を作るとエリンの頭をぽかぽかと叩き始めた。
どう見ても懸命に頑張っているエリンをスタシアナが見事なまでに邪魔をしている。
「い、痛い、痛いです。スタシアナ姉様!」
スタシアナにぽかぽかと頭を叩かれてエリンは既に半べそだ。
そんな騒ぎを横目で見ながら、さてどうしたものかとトルネオは思っていた。自分だけ空間転移の魔法で逃げ出すことは可能だったが、それでは後で皆に何を言われるか分かったものではない。
……ならば。
トルネオは両手を広げて空に向かって突き上げた。
「秘技……魚群ほねほね団!」
以前と少し名前が違う気もしたが、細かいことは気にしないでおくことにする。
トルネオの言葉と共にミネルの頭上からばらばらと骸骨群が降ってくる。
だが……。
「ふんっ!」
ミネルが頭上に向けて片手を振るとそこから金色の光が放たれた。その光に飲み込まれた骸骨たちは瞬く間に消え去っていく。
……あっという間ですね。鼻息で飛ばされたぐらいの消え去り方でしょうかね。
分かってはいましたが、やはりわたしと天使の相性は最悪なようで……。
トルネオは他人事のように心の中で呟いた。
「トルネオ、全然駄目じゃないですかー」
「トルネオー!」
こんな状況でもスタシアナはぷんすかと怒っている。
エリンは半泣きだ。
……ならば致し方ないですかね。
トルネオは溜息を吐いた。
「スタシアナさん、エリンさん、非常に残念なのですが、わたしはここで失礼致します。ではまた……」
転移する瞬間、可愛らしい声ながらも怒りのこもったスタシアナの声とエリンの泣き声をトルネオは聞いた気がした。
「……貴様らは何者だ? 何で魔族ごときがここまで強い?」
クアトロたちに捕らえられた魔人がそう尋ねてきた。そんなことは知るかとクアトロは思う。それに質問しているのはこちらの方なのだ。
「誰が質問していいと言いましたか?」
ヴァンエディオがそう冷徹に言った瞬間、魔人の口から絶叫が溢れ出た。どうやら灰色の球体に左腕にあった指の二本が飲み込まれたようだった。
「止めろ! もう止めてくれ!」
耐え切れずに魔人が泣き声混じりの悲鳴を上げる。
「何故、天使と魔人が行動を共にしているのでしょうか。あなた方は敵対しているのでは? 違いますか」
ヴァンエディオが先刻からの質問を繰り返す。
「分かった。話すからもう止めてくれ……」
魔人は泣き顔となりながら言葉を続けた。
「魔人と天使が敵対しているというのは……便宜上の話だ」
便宜上? 言っていることがまるで分からない。
クアトロはそう心の中で呟いた。横目でマルネロを見ると彼女は呆けた顔で口を開けている。
このマルネロの呆けた顔は、魔力がつきかけているからだけではないだろうとクアトロは思う。
……ああ、こいつもまるで分かっていないな。
クアトロはそう思うと、自然と自分の顔に笑みが浮かんでくるのを感じる。