第66話 やっぱり使えないのです

文字数 2,249文字

 さてどうしたものかとクアトロは思っていた。クアトロの背後にはアストリア。その後ろにダースがいるだけの撤退劇だった。

 護衛をつけようかとも考えたが、逆に目立つこととなるのと足手まといにもなるとクアトロは判断したのだった。護衛がいようがいまいが、どちらにしても自分がアストリアを守るのだとクアトロは思っていた。

 ……ダースは、まあ……流れでな。
 そんな薄情なことを考えているクアトロでもあった。

「クアトロ、このまま王都へ戻るのは危険では?」

 ダースの言葉にクアトロは頷いた。王都にもどるのは流石に不味いだろうとクアトロも思っていた。

 ならばどうするかとクアトロが思っていた時だった。背後からついて来ていたアストリアが驚いたような声を上げた。

「クアトロさん、あれ……」

 クアトロもアストリアが指差す方に赤色の瞳を向けた。

 ……困った時のスモールゴブリンだな。
 クアトロはそう心の中で呟いた。

 クアトロたちの前に現れた二体のスモールゴブリンに導かれるまま、クアトロたちは森の中へと足を踏み入れていった。

 森の中をしばらく歩くと大きく開けた場所に出る。そこの中心にはやはりと言うべきか、古代種のドラゴンがいた。

「……乗れということみたいですね」

 アストリアがクアトロとダースに向かって言う。

 まあ、そういう流れになるだろうな。クアトロはそう心の中で呟くのであった。




 今、トルネオの目の前には鉄格子があった。背後ではエリンが泣き声混じりで騒いでいる。

「どうするんですか、スタシアナ姉様! あっさりと捕まって、こんな牢屋に入れられたじゃないですか」
「う、うるさいです。いつもエリンはうるさいんですよー!」

 スタシアナはそう言って、エリンの頭をぽかりと叩いた。

 エリンは涙目で薄い灰色の頭を押さえてうずくまる。
 そんなエリンを少しだけ不憫に思いながらも、トルネオは溜息を吐いた。

 どういう仕組みかは分からなかったが、どうやら魔法が封じられているようだった。魔法を封じられた三人はあっさりと天上で捕まって、問答無用でこの牢屋に放り込まれたのだ。

 やれやれ流石に困りましたね。魔法が使えないとなると打つ手がないかもですね。折角、天上に来たというのに捕まっていては全く意味がないですね。
 トルネオは心の中でそう呟いていた。

「うるさいエリンは放っておくのです。トルネオ、何とかならいんですかー?」

 スタシアナがトルネオにそう訊いてきた。

「まあ、ないことはないのですが……余興の宴会芸ですので……」
「えんかいげー?」

 スタシアナが小首を傾げている。

「さあ、いきますよ」

 その声と共にトルネオの体が、ばらばらと崩れ始めた。

「ひっ!」

 エリンが喉奥で悲鳴を漏らした。瞬く間に骨の小山が出来上がって、その頂上に骸骨の頭部が乗っかっている。

「さあ、スタシアナさん、エリンさん、このばらばらになった骨を鉄格子の間から外の廊下へ出して下さい」

 小山の頂きで頭だけになった骸骨がそう命じる。

「……エリン、任せたのですー」

 スタシアナが無慈悲にもエリンにそう言った。

「い、いやですよ、スタシアナ姉様。気持ち悪いですもの!」
「エリンはいつもうるさいのです。任せたと言ったら任せたんですよー!」

 スタシアナはそう言ってエリンの頭を再びぽかりと叩く。

 エリンは涙目でトルネオだった骨を掴むと、鉄格子の間から廊下へと運び出す。

「エリンさん、丁寧に扱って下さいよ。割れたり、折れたりしたら大変ですからね。あ、そこのローブも忘れずに」

 何かと細かく注文をつけるトルネオだった。

「いやあ、気持ち悪いー」

 半べそをかきながら、エリンは頭蓋骨以外の骨を鉄格子の外へと運び終えた。

「さあ、エリンさん、後はこの頭だけです。急いでくださいね」

 頭蓋骨の口がぱくぱくと動いてエリンにそう命じる。

「……」
「エリンさん?」

 トルネオが動きを止めたエリンに非難めいた口調でもう一度呼びかけた。

「……頭が大きくて鉄格子の間を通らなくてよ」
「えーっ?」
「えーっ?」

 トルネオとスタシアナが同時に驚きの声を上げた。

「……そうね。頭を砕けば通ってよ」

 エリンがそう言って小さな握り拳を振り上げた。

「ま、待って! 死んじゃう。頭を砕かれたらわたし、死んじゃいますから!」

 トルネオが悲鳴に似た口調で言う。

「……トルネオはやっぱり使えないのです」

 何もしていない自分のことは棚に上げて、スタシアナがそんなことを言っている。

「あ、頭はもういいので、服を外に出して下さい」

 トルネオが言うままにエリンが服を鉄格子の外に出すと、瞬く間に骨たちが組み上がり始めた。

 組み上がった骨は服を拾うと、それを体にまとった。

 鉄格子の向こう側に服をまとった首なしスケルトンが出現する。

「な、何かもの凄く怖いんだけど……」

 エリンが眉を顰める。

「その言葉、何気に傷つきますね……」

 鉄格子の内側にいる頭蓋骨がそんなことを言っている。

「ほえー。トルネオ、凄いのです。かっちょいいのです! 頭がなくてもちゃんと歩けるんですかー?」
「それは無理ですね。だって見えませんから……」

 そうもっともなことを言うと、頭がないトルネオの胴体が周囲にぶつかりながら進みはじめた。

「あっ、でも動いた。凄いですよ、トルネオ!」

 スタシアナは、ぴょんぴょんと跳ねながら無邪気に喜んでいる。

「……で、これが何かの解決になるのでしょうか?」
「え?」
「へ?」

 エリンの問いかけにスタシアナとトルネオは同時にそう言葉を返したのだった。
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