第75話 不死者
文字数 1,743文字
「生き残っていた中で偉そうな奴を捕まえてきた。どうやら防御魔法を展開して助かったみたいだな。あの馬鹿げた魔法を防いだんだ。それだけ能力がある奴なんだろうよ。もっとも、片腕は吹き飛ばされたようだがな」
エネギオスが言うように魔人の右側にある二の腕から先は失われており、魔人は残る片手で止まらない血を止めようと押さえていた。
「こいつらがヴァンエディオを……」
今にも倒れてしまいそうな顔をしながらもそう呟くマルネロをエネギオスが押しとどめた。
「気持ちは分かるが、まあ待て、マルネロ。こいつには喋ってもらう必要がある」
そういうものかとクアトロは思い、鞘走らせた長剣を再び鞘に仕舞い込んだ。
「おら、知ってることを話せ。でないとそこの姉さんが、あっという間にお前を燃やしちまうぞ」
しかし、魔人は無言だった。その額に脂汗を浮かべながらも、口は固く結ばれたままだった。
「聞いても無駄よ。どうせ喋りはしないんだから、さっさと燃やすわよ」
魔力などもう残ってはいないはずなのにマルネロが物騒なことを言う。少しだけエネギオスは困った顔をして見せて、クアトロに視線を向けてきた。
そのエネギオスの両目が驚きからなのか、これ以上はない位に大きく見開いた。どうやらエネギオスの視線はクアトロではなくて、その背後に注がれているようだった。エネギオスがこんなにも驚く顔などあまり見たことがない。何事かとクアトロも背後を振り返る。
……びっくりした。
人生で一番びっくりしたかもしれない。もう今後の人生の中でこれ以上の衝撃などはないかもしれない……。
「おやおや、四将の筆頭ともあろうお方が随分と生ぬるいようですね」
そこには首のないヴァンエディオが立っていた。いや正確に言うと首のないヴァンエディオがその片手で自分の頭を持ちながら立っていた。
「え? え?」
マルネロは口をぱくぱくとさせている。
「ヴァンエディオ、お前、生きて……」
クアトロはそう呟いたが、胴体と頭が離れていて生きてるも何もないだろうと頭の片隅で思う。
「はい」
ヴァンエディオが何事もなかったかのようにそう言葉を返す。
「いやいや……はい、はおかしいだろう。その状態なのに何で生きてるんだ!」
クアトロは思わず声を荒げた。
「私は不死者ですから」
「へ?」
「え?」
「何だ?」
クアトロ、マルネロ、エネギオスが同時に声を発する。
「な、何だそれ? 聞いたことがないぞ」
クアトロがそう言うと、自分の片手に抱えられたヴァンエディオの顔にある口角が左右に持ち上がった。
「聞いたことがないのも当然です。言ったことはありませんからね。不死者ですので、首を落とされたぐらいでは死なないのですよ」
死なないのですよって不死者だから死んでるのでは?
そう思ったが、クアトロはその言葉を飲み込んだ。
「いやいや、そういう話じゃねえだろう」
エネギオスが呆れた声で言う。
「そうよ、私の涙を返しなさいよ!」
マルネロもそれに同意していた。
「そうだ、そうだ。大体、不死者のくせに何で骸骨じゃないんだ!」
クアトロがそう言うと、エネギオスが隣でそういうことじゃないといった顔をしている。
「ふむ。何で皆さんが怒っているのか分かりませんが、今はこの魔人から話を聞き出すのが先決のはずですね」
そんなヴァンエディオの言葉にマルネロが大きな溜息を吐いた。
「もういい。後は任せるわ。私はもう休むんだから!」
マルネロはそう言い放つとふらふらと神殿の中に消えて行った。神殿にはアストリアやダースがいるはずで、彼らに介抱して貰えば問題ないだろうとその後ろ姿を見ながらクアトロは思う。
「さてと……」
自分の手の平に載せられたヴァンエディオの口が再び開く。
「クアトロ様、敵対する相手から話を訊くとは、こういうことかと」
小さな灰色の球体が出現すると、その球体は魔人の片足を飲み込んだ。途端に魔人の口から大音量の絶叫が迸る。
「早く話した方がよいですよ。でなければゆっくりと順番に残る手足を失くして頂き、最後にはその首を失くして頂きますので……」
……鬼畜だ。外道だ。
……あの魔人が可哀そうになってくる。
……というか早く頭と体をくっつけろよ。気味が悪いんだけど。
そう心の中で呟くクアトロだった。
エネギオスが言うように魔人の右側にある二の腕から先は失われており、魔人は残る片手で止まらない血を止めようと押さえていた。
「こいつらがヴァンエディオを……」
今にも倒れてしまいそうな顔をしながらもそう呟くマルネロをエネギオスが押しとどめた。
「気持ちは分かるが、まあ待て、マルネロ。こいつには喋ってもらう必要がある」
そういうものかとクアトロは思い、鞘走らせた長剣を再び鞘に仕舞い込んだ。
「おら、知ってることを話せ。でないとそこの姉さんが、あっという間にお前を燃やしちまうぞ」
しかし、魔人は無言だった。その額に脂汗を浮かべながらも、口は固く結ばれたままだった。
「聞いても無駄よ。どうせ喋りはしないんだから、さっさと燃やすわよ」
魔力などもう残ってはいないはずなのにマルネロが物騒なことを言う。少しだけエネギオスは困った顔をして見せて、クアトロに視線を向けてきた。
そのエネギオスの両目が驚きからなのか、これ以上はない位に大きく見開いた。どうやらエネギオスの視線はクアトロではなくて、その背後に注がれているようだった。エネギオスがこんなにも驚く顔などあまり見たことがない。何事かとクアトロも背後を振り返る。
……びっくりした。
人生で一番びっくりしたかもしれない。もう今後の人生の中でこれ以上の衝撃などはないかもしれない……。
「おやおや、四将の筆頭ともあろうお方が随分と生ぬるいようですね」
そこには首のないヴァンエディオが立っていた。いや正確に言うと首のないヴァンエディオがその片手で自分の頭を持ちながら立っていた。
「え? え?」
マルネロは口をぱくぱくとさせている。
「ヴァンエディオ、お前、生きて……」
クアトロはそう呟いたが、胴体と頭が離れていて生きてるも何もないだろうと頭の片隅で思う。
「はい」
ヴァンエディオが何事もなかったかのようにそう言葉を返す。
「いやいや……はい、はおかしいだろう。その状態なのに何で生きてるんだ!」
クアトロは思わず声を荒げた。
「私は不死者ですから」
「へ?」
「え?」
「何だ?」
クアトロ、マルネロ、エネギオスが同時に声を発する。
「な、何だそれ? 聞いたことがないぞ」
クアトロがそう言うと、自分の片手に抱えられたヴァンエディオの顔にある口角が左右に持ち上がった。
「聞いたことがないのも当然です。言ったことはありませんからね。不死者ですので、首を落とされたぐらいでは死なないのですよ」
死なないのですよって不死者だから死んでるのでは?
そう思ったが、クアトロはその言葉を飲み込んだ。
「いやいや、そういう話じゃねえだろう」
エネギオスが呆れた声で言う。
「そうよ、私の涙を返しなさいよ!」
マルネロもそれに同意していた。
「そうだ、そうだ。大体、不死者のくせに何で骸骨じゃないんだ!」
クアトロがそう言うと、エネギオスが隣でそういうことじゃないといった顔をしている。
「ふむ。何で皆さんが怒っているのか分かりませんが、今はこの魔人から話を聞き出すのが先決のはずですね」
そんなヴァンエディオの言葉にマルネロが大きな溜息を吐いた。
「もういい。後は任せるわ。私はもう休むんだから!」
マルネロはそう言い放つとふらふらと神殿の中に消えて行った。神殿にはアストリアやダースがいるはずで、彼らに介抱して貰えば問題ないだろうとその後ろ姿を見ながらクアトロは思う。
「さてと……」
自分の手の平に載せられたヴァンエディオの口が再び開く。
「クアトロ様、敵対する相手から話を訊くとは、こういうことかと」
小さな灰色の球体が出現すると、その球体は魔人の片足を飲み込んだ。途端に魔人の口から大音量の絶叫が迸る。
「早く話した方がよいですよ。でなければゆっくりと順番に残る手足を失くして頂き、最後にはその首を失くして頂きますので……」
……鬼畜だ。外道だ。
……あの魔人が可哀そうになってくる。
……というか早く頭と体をくっつけろよ。気味が悪いんだけど。
そう心の中で呟くクアトロだった。