第71話 魔煙
文字数 2,021文字
「やっぱり、いるんじゃないですかー」
スタシアナはそう言って、リベラートを睨みつけた。
「あらあら、スタシアナさん。そんなに怖い顔をしていては、可愛らしい顔が台無しですよ」
リベラートはそう言って薄く笑った。その様子にスタシアナは、むーといった顔をしている。
「リベラート、久しぶりね。何か随分な物言いのような気がするわね」
エリンがそう言うとリベラートはたった今、初めてエリンの存在に気がついたような顔をしてみせた。
「あら、エリンさんもいたのね。相変わらずスタシアナさんと仲がいいみたいで。そうね。一緒に堕天使なんかになってしまうぐらいだものね」
相変わらず自分たちへの物言いには棘があるとエリンは思う。前からこのリベラートと自分は気が合わないとエリンは思っていた。
「あら、随分な言い方じゃなくて? それで何かあなたに迷惑をかけたのかしら?」
「かけてるじゃない! 天使なのに魔族なんかと一緒にいて。しかも、仲間の天使を何人も消してしまうだなんて……なんて恐ろしい……。」
リベラートはそう言って悲しげに柳眉を寄せてみせた。
……何か、いらっとする。
以前からリベラートはそうだった。感情表現が極端に芝居がかっていて、エリンの癇に触るのだった。
「あれは天使たちがクアトロたちを虐めるからですよー」
スタシアナが悪びれることもなく呑気にそう言葉を返した。だが、そんな理由で同族である天使たちをスタシアナは殺したのだ。捕らえられるのも当然だったし、こうして糾弾されるのも分からなくもなかった。
だけれどもとエリンは思った。自分が手を下さなかっただけで、あの時にエリン自身も魔族の皆が傷つけられるのを黙って見過ごすことはできなかったし、何よりもこのリベラートの物言いが疳に触るのだとエリンは思う。
「あら、エリンさんまでそんなに怖い顔をしちゃって、どうしたのかしら?」
その言葉にエリンが一歩、前へと進み出た。
「リベリベ、あまりエリンを怒らせない方がいいんですよー。エリンは怒ると怖いんですからねー」
「は? 噂のへろへろ光弾でも見せてくれるのかしら」
リベラートがそう言って甲高い笑い声を上げた。
あ、何か本当に頭にきた。
エリンはそう心の中で呟いた。
「絶対障壁。絶対障壁。絶対障壁。絶対障壁。絶対障壁!」
「何の真似かしら? そんな障壁で四方を囲って……」
リベラートは顔に余裕の笑みを浮かべながらそう言った。リベラートが言うように、彼女を含めて三十人程の天使たちがエリンの作り出した魔法の壁によって四方、天井と余すところなく塞がれて閉じ込められた格好となっている。
「何かしら。閉じ込めたつもりなのかしら? こんな障壁なんて……」
「……魔煙」
エリンがそう呟いた。その言葉を聞いて、瞬時にリベラートの血相が変わる。
リベラーとは両手を翳して手の平から光弾を数回、見えない壁に向かって放つが全てを弾かれてしまう。
「そんなへろへろ魔法じゃエリンの障壁は破れないんですよー」
エリンの横でスタシアナが淡々とした口調で言う。
それを聞こえたからなのか、リベラートが青ざめた顔で首を左右に振った。
リベラートたちが閉じ込められている中央付近で禍々しまでの色をした紫色の雲が突如、湧きあがった。
「魔神が住む世界の奥深くにある大森林。その更に奥にある毒池から湧き上がる毒素でしてよ。魔族への仕打ち、そしてスタシアナ姉様に手を出そうとしたことを後悔なさい」
エリンが冷然と言い放った。その直後、天使たちが次々と呻き声を立てる間もなく倒れていく。
リベラートは絶望的な顔で次々と倒れていく同胞を見る。そして、何かを叫ぼうとしたのだろうか。
しかし、口を大きく開けた瞬間、そのまま倒れ込んで動かなくなる。
エリンはリベラートが倒れ込むのを見て大きく息を吐き出した。
やってしまったと思う。頭にきたとはいえ、これだけの数の同胞を手にかけたのだ。もう、ただでは済まないだろう。二度と天上には戻れないし、下手をすれば同胞からこれから先、永遠に追われ続けるかもしれなかった。
「こらあ、エリン!」
そんな暗澹たる気分だった所にスタシアナの怒声が飛んだ。
「そんな馬鹿みたいな顔をしてないで、早く行くんですよー。」
「スタシアナさん、馬鹿なみたいな顔は流石に失礼ですよ」
エリンを不憫に思ったのかトルネオが口を挟んでくる。
「大丈夫です。エリンは少しも悪くないんですよー。さあ、さっさとミネルの所に行きますよ。あんなリベリべみたいな小物をやっつけても話にならないんですよー」
「あ、はい……」
エリンがスタシアナの言葉に慌てて頷いた時だった。エリンたちの目の前にある空間が大きく歪み始めた。
「これはまた大規模な空間転移ですね……」
トルネオがどこか呑気な口調で言う。
「こっちから行く手間が省けたんですよー」
スタシアナの嬉しそうな声が聞こえる。エリンは生唾を一つだけ飲み込んだ。
これは……。
スタシアナはそう言って、リベラートを睨みつけた。
「あらあら、スタシアナさん。そんなに怖い顔をしていては、可愛らしい顔が台無しですよ」
リベラートはそう言って薄く笑った。その様子にスタシアナは、むーといった顔をしている。
「リベラート、久しぶりね。何か随分な物言いのような気がするわね」
エリンがそう言うとリベラートはたった今、初めてエリンの存在に気がついたような顔をしてみせた。
「あら、エリンさんもいたのね。相変わらずスタシアナさんと仲がいいみたいで。そうね。一緒に堕天使なんかになってしまうぐらいだものね」
相変わらず自分たちへの物言いには棘があるとエリンは思う。前からこのリベラートと自分は気が合わないとエリンは思っていた。
「あら、随分な言い方じゃなくて? それで何かあなたに迷惑をかけたのかしら?」
「かけてるじゃない! 天使なのに魔族なんかと一緒にいて。しかも、仲間の天使を何人も消してしまうだなんて……なんて恐ろしい……。」
リベラートはそう言って悲しげに柳眉を寄せてみせた。
……何か、いらっとする。
以前からリベラートはそうだった。感情表現が極端に芝居がかっていて、エリンの癇に触るのだった。
「あれは天使たちがクアトロたちを虐めるからですよー」
スタシアナが悪びれることもなく呑気にそう言葉を返した。だが、そんな理由で同族である天使たちをスタシアナは殺したのだ。捕らえられるのも当然だったし、こうして糾弾されるのも分からなくもなかった。
だけれどもとエリンは思った。自分が手を下さなかっただけで、あの時にエリン自身も魔族の皆が傷つけられるのを黙って見過ごすことはできなかったし、何よりもこのリベラートの物言いが疳に触るのだとエリンは思う。
「あら、エリンさんまでそんなに怖い顔をしちゃって、どうしたのかしら?」
その言葉にエリンが一歩、前へと進み出た。
「リベリベ、あまりエリンを怒らせない方がいいんですよー。エリンは怒ると怖いんですからねー」
「は? 噂のへろへろ光弾でも見せてくれるのかしら」
リベラートがそう言って甲高い笑い声を上げた。
あ、何か本当に頭にきた。
エリンはそう心の中で呟いた。
「絶対障壁。絶対障壁。絶対障壁。絶対障壁。絶対障壁!」
「何の真似かしら? そんな障壁で四方を囲って……」
リベラートは顔に余裕の笑みを浮かべながらそう言った。リベラートが言うように、彼女を含めて三十人程の天使たちがエリンの作り出した魔法の壁によって四方、天井と余すところなく塞がれて閉じ込められた格好となっている。
「何かしら。閉じ込めたつもりなのかしら? こんな障壁なんて……」
「……魔煙」
エリンがそう呟いた。その言葉を聞いて、瞬時にリベラートの血相が変わる。
リベラーとは両手を翳して手の平から光弾を数回、見えない壁に向かって放つが全てを弾かれてしまう。
「そんなへろへろ魔法じゃエリンの障壁は破れないんですよー」
エリンの横でスタシアナが淡々とした口調で言う。
それを聞こえたからなのか、リベラートが青ざめた顔で首を左右に振った。
リベラートたちが閉じ込められている中央付近で禍々しまでの色をした紫色の雲が突如、湧きあがった。
「魔神が住む世界の奥深くにある大森林。その更に奥にある毒池から湧き上がる毒素でしてよ。魔族への仕打ち、そしてスタシアナ姉様に手を出そうとしたことを後悔なさい」
エリンが冷然と言い放った。その直後、天使たちが次々と呻き声を立てる間もなく倒れていく。
リベラートは絶望的な顔で次々と倒れていく同胞を見る。そして、何かを叫ぼうとしたのだろうか。
しかし、口を大きく開けた瞬間、そのまま倒れ込んで動かなくなる。
エリンはリベラートが倒れ込むのを見て大きく息を吐き出した。
やってしまったと思う。頭にきたとはいえ、これだけの数の同胞を手にかけたのだ。もう、ただでは済まないだろう。二度と天上には戻れないし、下手をすれば同胞からこれから先、永遠に追われ続けるかもしれなかった。
「こらあ、エリン!」
そんな暗澹たる気分だった所にスタシアナの怒声が飛んだ。
「そんな馬鹿みたいな顔をしてないで、早く行くんですよー。」
「スタシアナさん、馬鹿なみたいな顔は流石に失礼ですよ」
エリンを不憫に思ったのかトルネオが口を挟んでくる。
「大丈夫です。エリンは少しも悪くないんですよー。さあ、さっさとミネルの所に行きますよ。あんなリベリべみたいな小物をやっつけても話にならないんですよー」
「あ、はい……」
エリンがスタシアナの言葉に慌てて頷いた時だった。エリンたちの目の前にある空間が大きく歪み始めた。
「これはまた大規模な空間転移ですね……」
トルネオがどこか呑気な口調で言う。
「こっちから行く手間が省けたんですよー」
スタシアナの嬉しそうな声が聞こえる。エリンは生唾を一つだけ飲み込んだ。
これは……。