第82話 お元気なようで
文字数 1,602文字
「ドラゴン……か?」
クアトロが呟く。滑空してきた巨大な黒い影は古代種のドラゴンだった。自分たちの上空から不意に出現したドラゴンに、天使たちは瞬く間に大混乱に陥った。
古代種のドラゴンは天敵とも言うべき天使たちを前にして戦意が高揚しているのか、炎を吐き、噛みつき、引き裂き、薙ぎ払いと大暴れをしている。
「ほう……これはアストリア様のお力ですね。これで天使たちはこちらを構っている余裕などはないでしょうね。であれば後は……」
ヴァンエディオが地上に数多く現れた空間の揺らぎに視線を向けた。空間の揺らぎは収まりつつあって、魔人たちがその姿を見せ始めていた。その数は天使同様、数百を遥かに超えている。
「中々の数ですね。早いところエネギオスさんたちに戻ってきてもらわないと、流石に厳しいでしょうか……」
ヴァンエディオは感情が少しもこもっていないいつもの調子で淡々と言う。
仕方ないなとクアトロは思う。ここは最後の魔力を振り絞って……。
クアトロがそう決意した時だった。
魔人たちの左手に特別大きな空間の揺らぎが発生した。
……何か、嫌な予感しかしない。
その予感を裏づけるように、片手で化け物のよう大きな剣を振り回しながら出てくる者がいた。その者は出現し始めた魔人たちの一群に向かって一直線に突入していく。そして、その横顔は楽しげにも見える。
「……バスガル候」
クアトロは呟く。その顔は当然、呆れている。
「変わらずお元気なようで」
ヴァンエディオもそれを見て、珍しく苦笑を浮かべた。
大規模な空間転移だった。先頭に立って片手で大剣を振り回しているバスガルに続けとばかりに魔族の将兵が雪崩れ込んできた。
「なあ、ヴァンエディオ……あの爺さん、左手で大剣を振り回してるが、右手はどうしたんだ?」
雪崩れ込んできた魔族の将兵たちを見ながら、クアトロが素朴な疑問を口にした。
「さあ……ですが、お元気そうなので大丈夫かと」
まあよくは分からないが、あのバスガル候であれば大丈夫だろうとクアトロも結論づける。
空間転移で出現した魔人たちだったが、同じく空間転移で出現した魔族たちに横手から予期せぬ形で襲われることになって、こちらも上空の天使と同様に大混乱となっていた。
形勢が一気に傾いていた。上空では古代種のドラゴンが暴れ回っていて、天使たちは右往左往をしているだけ。地上ではバスガルを筆頭にして魔族の将兵が暴れ回っている。
天使にとっては古代種のドラゴンは最悪の相手であるといってよかった。古代種のドラゴンは魔法に対しては絶対的な耐性を持っている。戦闘の主体が魔法である非力な天使にとっては非常に分が悪い相手だった。
「魔族如きが舐めおって!」
気づくとミネルがクアトロたちの上空にいた。端正だった顔は醜悪な物に変わっていて、それは鬼の形相と言ってよかった。
「舐めているのは貴様らだろう? スタシアナとエリンの代償は、同じく貴様らの命で賄ってもらう。貴様ら天使はここで根絶やしだと言ったはずだ」
「舐めるなと言ったはず。魔族風情が!」
怒りがこもった声と共にミネルから金色の光がクアトロに向けて放たれた。
「……遅いな」
次の瞬間、クアトロの体はミネルの背後にあった。
「天使だけが飛べると思うなよ?」
クアトロは更に低い声で言葉を続けた。
「アストリアとエリンをあの姿にしたのは……貴様か?」
「だったらどうする!」
ミネルが振り向きざまに片手をクアトロに突き出した。突き出された手のひらには既に金色の光が集まりつつあった。
「……そうか」
クアトロの長剣が一閃した。ミネルは自分に何が起こったのか分からないようだった。クアトロに向かって差し出していたはずの片手が、気がつくと地上に落下していたのだ。
「……あ、あ?」
ミネルの顔が驚きと苦痛で大きく歪んだ。次の瞬間、ミネルの頭部は苦痛で大きく歪んだ顔のままで胴体と分離していた。
クアトロが呟く。滑空してきた巨大な黒い影は古代種のドラゴンだった。自分たちの上空から不意に出現したドラゴンに、天使たちは瞬く間に大混乱に陥った。
古代種のドラゴンは天敵とも言うべき天使たちを前にして戦意が高揚しているのか、炎を吐き、噛みつき、引き裂き、薙ぎ払いと大暴れをしている。
「ほう……これはアストリア様のお力ですね。これで天使たちはこちらを構っている余裕などはないでしょうね。であれば後は……」
ヴァンエディオが地上に数多く現れた空間の揺らぎに視線を向けた。空間の揺らぎは収まりつつあって、魔人たちがその姿を見せ始めていた。その数は天使同様、数百を遥かに超えている。
「中々の数ですね。早いところエネギオスさんたちに戻ってきてもらわないと、流石に厳しいでしょうか……」
ヴァンエディオは感情が少しもこもっていないいつもの調子で淡々と言う。
仕方ないなとクアトロは思う。ここは最後の魔力を振り絞って……。
クアトロがそう決意した時だった。
魔人たちの左手に特別大きな空間の揺らぎが発生した。
……何か、嫌な予感しかしない。
その予感を裏づけるように、片手で化け物のよう大きな剣を振り回しながら出てくる者がいた。その者は出現し始めた魔人たちの一群に向かって一直線に突入していく。そして、その横顔は楽しげにも見える。
「……バスガル候」
クアトロは呟く。その顔は当然、呆れている。
「変わらずお元気なようで」
ヴァンエディオもそれを見て、珍しく苦笑を浮かべた。
大規模な空間転移だった。先頭に立って片手で大剣を振り回しているバスガルに続けとばかりに魔族の将兵が雪崩れ込んできた。
「なあ、ヴァンエディオ……あの爺さん、左手で大剣を振り回してるが、右手はどうしたんだ?」
雪崩れ込んできた魔族の将兵たちを見ながら、クアトロが素朴な疑問を口にした。
「さあ……ですが、お元気そうなので大丈夫かと」
まあよくは分からないが、あのバスガル候であれば大丈夫だろうとクアトロも結論づける。
空間転移で出現した魔人たちだったが、同じく空間転移で出現した魔族たちに横手から予期せぬ形で襲われることになって、こちらも上空の天使と同様に大混乱となっていた。
形勢が一気に傾いていた。上空では古代種のドラゴンが暴れ回っていて、天使たちは右往左往をしているだけ。地上ではバスガルを筆頭にして魔族の将兵が暴れ回っている。
天使にとっては古代種のドラゴンは最悪の相手であるといってよかった。古代種のドラゴンは魔法に対しては絶対的な耐性を持っている。戦闘の主体が魔法である非力な天使にとっては非常に分が悪い相手だった。
「魔族如きが舐めおって!」
気づくとミネルがクアトロたちの上空にいた。端正だった顔は醜悪な物に変わっていて、それは鬼の形相と言ってよかった。
「舐めているのは貴様らだろう? スタシアナとエリンの代償は、同じく貴様らの命で賄ってもらう。貴様ら天使はここで根絶やしだと言ったはずだ」
「舐めるなと言ったはず。魔族風情が!」
怒りがこもった声と共にミネルから金色の光がクアトロに向けて放たれた。
「……遅いな」
次の瞬間、クアトロの体はミネルの背後にあった。
「天使だけが飛べると思うなよ?」
クアトロは更に低い声で言葉を続けた。
「アストリアとエリンをあの姿にしたのは……貴様か?」
「だったらどうする!」
ミネルが振り向きざまに片手をクアトロに突き出した。突き出された手のひらには既に金色の光が集まりつつあった。
「……そうか」
クアトロの長剣が一閃した。ミネルは自分に何が起こったのか分からないようだった。クアトロに向かって差し出していたはずの片手が、気がつくと地上に落下していたのだ。
「……あ、あ?」
ミネルの顔が驚きと苦痛で大きく歪んだ。次の瞬間、ミネルの頭部は苦痛で大きく歪んだ顔のままで胴体と分離していた。