第48話 自重なき戦法

文字数 2,026文字

 駆け付けた先にいたのは、冒険者のパーティと数体の魔物だった。
 彼らは通路の開けた場所にて戦っている。
 戦況を見るに魔物側が優勢か。
 六人いる冒険者のうち二人は既に壁際に倒れて動かない。
 死んでいるのか、気を失っているのかは不明だ。

 どうやら悲鳴は冒険者のものだったらしい。
 エレナでなかったのが残念だ。
 いや、彼女がピンチでなかったのは喜ぶべきか。

 とにかく当てが外れたことに違いはない。
 俺は落胆しつつも、冒険者たちを助けることにした。

 彼らを襲うのは肌の浅黒いトロールたちだ。
 側頭部から二本の角が生えている。
 トロールの強化種か。
 放つ威圧感も段違いである。
 この階層に潜るような冒険者パーティが苦戦するぐらいだもんな。
 強敵に決まっている。

 まあ、そんなことは関係ない。
 急いでいる俺の進路を邪魔しているのだ。
 相応の報いを与えてやろう。
 負けるのでは、という懸念は不思議と抱かなかった。
 【戦闘勘Ⅰ】と【直感Ⅰ】があるおかげかもしれない。

 そのままトロールたちの前に飛び込もうとしたところで、俺は手持ちの武器が切れたことに気付く。
 そうだ、ここまでの戦いであっという間に使い潰してしまったのだった。
 冒険者たちの武器を奪い取って使う手もあるが、またすぐに壊してしまう気がする。
 いちいちそれでは効率が悪いな。
 頑丈で手頃な武器でもあればいいのだが。
 少し思案する俺だったが、ぽんと手を打った。

(――なければ作ればいいのか)

 閃くと同時に【鋭爪Ⅰ】【鉤爪Ⅰ】を発症する。
 するとボロボロの籠手を破って硬質化した爪が伸び出てきた。
 思ったよりもいい感じだな。
 武器としても十分に使えそうだった。

 さらに身バレしないように【防刃毛Ⅰ】で全身毛むくじゃらにした。
 これで無茶な戦い方をしてもウォーク・パラジットの仕業とは思われまい。

 問題が解消したところで、俺は今度こそトロールたちのもとへ飛び出す。
 通常種ですら強力な魔物である以上、油断も手加減もしない。
 呼気によるウイルス感染を行いながら近くにいた一体の顔面を爪で引き裂く。
 その際に【感電Ⅰ】で傷口に電気を流し込むのも忘れない。


>症状を発現【打撃耐性Ⅰ】
>症状を発現【自然治癒Ⅱ】
>症状を発現【生命力Ⅱ】
>症状を発現【硬皮Ⅱ】
>症状を発現【耐久Ⅱ】


 不意打ちを受けたトロールは、がくがくと痙攣しながら泡を吐く。
 眼球が破裂して白煙が昇った。
 トロールはそのまま仰向けに倒れる。

 ちょっと出力を高くし過ぎたか。
 まあ、タフな魔物だからこれくらいでちょうどいいな。

 他のトロールたちが激昂している。
 残りは三体。

 俺は【魔力糸Ⅰ】で指先から粘着質の糸を射出した。
 糸は大口を開けて接近するトロールの口に入る。

 喉奥が塞がって足を止めるトロール。
 必死に呼吸しようとしているが、べたべたになった糸がそれを許さない。
 俺は無防備なところへ走り寄って爪で喉頭を薙ぐ。
 鮮血を撒き散らしながらトロールは崩れ落ちた。

 残る二体のトロールが同時に攻撃を仕掛けてくる。
 冒険者のことは完全に無視していた。
 最優先で排除すべき脅威と見なされたらしい。
 こちらとしては好都合なことである。

 俺は【電磁開放Ⅰ】を発症。
 体内の電気によって身体能力が底上げされる感覚が走る。
 異なる方向から迫る二本の棍棒を空中に躍り出ることで躱し、片手の指先に意識を集中させた。
 ぱちぱちと音を立てて青白い光が生まれる。
 それを解き放つようなイメージをすると、光はレーザービームのように伸びてトロールの額を貫通した。

 俺は空中で身体を捻り、遠心力を乗せてもう一体のトロールの指を爪で切り落とす。
 棍棒を取り落として後ずさるトロール。
 その膝を爪で裂いて跪かせ、フィニッシュに心臓を串刺しにする。
 最期の足掻きとばかりに反撃しようとしてきたので【魔力発電Ⅰ】と【感電Ⅰ】で体内から徹底的に焦がしてやった。
 これにはさすがのトロールも動きを止めて絶命する。

 俺は爪を引き抜いて息を吐く。

 肉体性能を上げる系統の症状を使いまくっているせいか、サクサクと倒せてしまった。
 周りに遠慮なく戦うとこんな感じなのか。
 どんどん人間味を失ってきたな。

 ふと感じる視線。
 呆気に取られる冒険者たちがいた。
 そうだ、せっかく助けたのだから少し訊いておくか。

「茶髪、の、革鎧を着た、少女を、見なかったか」

 冒険者たちは無言で首を横に振る。

「そう、か」

 俺は彼らの横を抜けて通路の先へと急いだ。
 同行する暇はないので放っておく。
 わざわざ安全な場所まで見届ける義理はない。
 背後から呼び止める声を無視して、俺はその場を足早に立ち去った。
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