第63話 加勢する第三者

文字数 2,046文字

 暗闇の中を這い上がるように、意識が明瞭なものへと切り替わる。
 背中から石畳の硬い感触が伝わってきた。
 刹那、俺は強い焦燥感に駆られて、わけが分からないながらも全力で跳ね起きて退避する。

(俺はどうして倒れて……)

 僅かに混乱しながらも、俺は悠長な真似はできないと理解していた。
 周りの状況を窺おうとして、首の妙な違和感に気付く。
 片手の爪を仕舞って触れてみると、みみず腫れのようになっていた。
 おまけに熱を帯びて脈動している。
 症状で抑えているので痛みはほとんどない。
 手を離すと指先に血が付着していた。

(そうだ、俺は隠し刃で首を――)

 脳内の記憶が整理され、どういう状況なのかを認識する。
 どうやらゴーレムの隠し刃で首を斬られて倒れてしまったようだ。

 こいつはやられた。
 決して油断したわけじゃないが、普通なら死ぬようなダメージである。
 たぶん首の半ばまで断ち切られた結果、意識が飛んだのだろう。
 それで死ななかったのは【再生Ⅱ】や【生命力Ⅱ】の賜物だ。
 新しい肉体になるということで、無意識にセーブしていた部分もあるかもしれない。
 倒し方が判明したからって、焦って攻めるのは駄目だね。

 しかし、なぜ首が繋がっているのか。
 あの軌道なら完全に頭部を斬り落とされていてもおかしくなかった。
 そういえば、意識を失う間際に何か声が聞こえたような……。

 見れば、前方にてゴーレムが隠し刃をスイングする途中の姿勢で停止していた。
 小刻みに震えている。
 動きたくても動けない、とでも言いたげな様子だ。
 俺も似たような状態に陥った覚えがある。

「パラジットさん! 大丈夫ですか!?」

 ゴーレムの異常を観察していると、真剣な表情のエレナが駆け寄ってきた。
 彼女は特に怪我を負っていない。
 俺が気絶している間にゴーレムに攻撃されていたらどうしようかと思ったけど良かった。
 意識がなかった時間は意外と短かったようだ。

「大丈夫、だ」

 心配してくれるエレナに答えておく。
 首を斬られた者が言えるセリフじゃない気もするけど、もう癒えたからノーカウントだよね。

 とにかく、今がチャンスか。
 無防備なゴーレムなら攻撃し放題である。
 ちょっと卑怯だが構うものか。
 遠慮なくやってやる。

 そう思って駆け出そうとした時、部屋の出入り口――俺たちのいた宝物庫でない方から声がかかった。

「最下層のゴーレムロードが活発化しているから来てみれば……必死になって探していたのはその娘か。見つかって良かった」

 涼しい顔で立っていたのは、少し前に出会ったエルフの美女だ。
 確か冒険者ギルドの職員だったか。
 用があるから地上に戻ると言っていたはずだ。
 彼女の言葉から考えるに、俺たちが戦闘開始したのを察知してここまで来たようである。

 そして、現在進行形でゴーレムの動きを止めているのは、エルフの美女の謎パワーだろう。
 彼女の能力でゴーレムの攻撃が止まったからこそ、俺の首も完全に断ち切られずに済んだみたいだ。
 俺は歩み寄ってきたエルフの美女に頭を下げる。

「迷惑をかけた、な。助かった」

「礼なら後で受けよう。それより、そなたはどうしたいんだ? ゴーレムロードを倒すか? それともここから逃げるか?」

「――倒す。さらなる力を得るためだ」

 俺は即答する。
 本当は倒すというのもニュアンスが違うが、別に細かいことはいいだろう。

 逃げるにしても、あのゴーレムなら死に物狂いで追いかけてきそうだ。
 とても地上までに撒けるとは思えない。

「討伐に協力して、くれるのか」

「うむ。こうして早い再会を果たしたのも何かの縁だ。その代わり、奥の宝物は山分けだがね」

「……いいだろう」

 こちらの話がまとまったのと同時に、ゴーレムからガラスの割れるような音がした。
 それを契機にゴーレムが滞りなく動けるようになる。
 首を傾げて手足の具合を確かめているが、あの分だと問題なさそうだ。

「私の”言霊”でも長くは縛れない。基本は精霊魔術で援護しよう。そなたらには前衛を任せてもいいか?」

「ああ、請け負った」

「お、お任せください!」

 状況が分からないながらも、エレナが元気よく返事をする。
 彼女とエルフの美女は面識がないはずだが、とりあえず味方であることは察したようだ。
 こういう時に無闇に質問してこない辺りがありがたい。
 空気の読める子は大歓迎である。
 互いの紹介は後でしよう。

 俺は両手の爪を生やし直して攻撃の準備をした。
 症状も調節してこの身体をベストな状態へと移行させる。

 さっきは危なかったけど、思わぬ形でツキがこちらに向いてきた。
 エルフの美女が加勢してくれるのは大きい。
 これならば、勝てる。

 新たな肉体が前進してくるのを見据えて、俺は高揚するままに微笑んだ。
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