第59話 迷宮の主
文字数 2,262文字
美男子は無表情でこちらを凝視しだした。
カクリと首を傾げている。
どこか人間味が感じられない仕草だ。
ただ、尋常じゃない量の魔力を内包しているのはひしひしと伝わってくる。
先ほどから【危険察知Ⅱ】が早く逃げろと主張していた。
「あ、あれは……」
エレナが口を震わせて怯えている。
足が後退していることに彼女自身は気付いているのか。
俺は真っ青な顔のエレナに問いかける。
「正体を、知っているのか?」
「はい……このダンジョンの最下層に生息するゴーレムロードです。ここのボスクラスの魔物の中でも筆頭と呼ばれています。宝物庫の前に立ちはだかる守護者と聞いていましたが、私たちはとんでもない場所に転移してしまったみたいですね……」
なるほど、どうやらここは本当に最下層のボス部屋らしい。
つまり、目の前の美男子――ゴーレムこそがダンジョン最強の存在というわけか。
ゴーレムってもっと岩とか鋼鉄で造られているイメージがあったよ。
目の前の個体の外見はまさに普通の人間だ。
ちょっと表情に乏しいくらいだろうか。
まったく、なかなか面白い事態になってきた。
このダンジョンは俺たちの帰還をとことん望んでいないらしい。
俺は一歩前に進み出て、エレナを庇う位置にて大鉈を構える。
いくら症状で強化しているとはいえ、相手の強さは未知数。
俺が積極的に標的になる戦法がいい。
まあ、やることは変わらない。
相手にウイルスを感染させて、徹底的に行動を阻害して叩き潰すまでだ。
俺は地面を蹴って駆け出す。
ゴーレムは未だ棒立ちだ。
大きなアクションは見せず、明らかに隙だらけである。
なんだか拍子抜けしてしまう。
(もしかして、簡単に倒せるんじゃないか……?)
そう思った直後、ゴーレムの目が赤く光った。
一気に高まる魔力。
あれはかなりマズいぞ。
嫌な予感に従って、俺は大鉈に魔力を込める。
数瞬遅れて、ゴーレムの目からレーザー光線が発射された。
本当なら避けたいが、後方にはエレナがいる。
迫るレーザー光線に合わせて、俺は大鉈を振り上げた。
魔力の浸透した刃は、レーザー光線を真っ二つに切り裂いて軌道を大きくずらす。
一か八かだったが上手くいった。
【器用Ⅱ】【反射神経Ⅰ】【動体視力Ⅰ】【見切りⅠ】辺りがなければ不可能な芸当だったね。
すぐに背後で岩を削るような破壊音がした。
レーザー光線が壁に命中したらしい。
確認する余裕はないが、人体に受けていたら大ダメージだったろう。
エレナの動転する声が聞こえるけど無事みたいだ。
俺はそのままの勢いでゴーレムに肉薄する。
そして袈裟掛けに大鉈を叩き付けた。
対するゴーレムは、やはり無表情に片腕を上げる。
切断できるかと思いきや、金属音を鳴らして受け止められた。
衝撃でゴーレムの足元の石畳が割れて沈む。
それでもゴーレムの姿勢は崩れず、腕も無事だった。
(おいおい、どれだけ硬いんだ!?)
斬撃で裂けたローブから、ゴーレムの腕が覗く。
ローブの下には何の防具もつけていなかった。
大鉈は僅かに食い込んでいるだけで、ゴーレムの腕に傷を付けていない。
それどころか刃こぼれしている始末だった。
【魔力感知Ⅱ】によると、大鉈の触れる箇所に魔力が集まっている。
目に見えないだけで防護膜のようなものを張っているのかもしれない。
くそ、本当に厄介な野郎だ。
俺にもやり方を教えてほしい。
こちらの大鉈を凌いだゴーレムが、空いた拳で殴りかかってきた。
鋭い軌道のフックは当たり前のように魔力を纏っている。
【危険察知Ⅱ】が悲鳴を上げていた。
一体どれだけの威力を秘めているのやら。
俺はバックステップで距離を取る。
ギリギリで回避に成功した。
眼前すれすれを、仄かに光る拳が通過する。
勢い余って石畳を滑りつつ、俺はニヤリと微笑む。
回避の際に散布したウイルスは、ゴーレムの周りに蔓延していた。
>症状を発現【土魔術適性Ⅰ】
>症状を発現【水魔術適性Ⅰ】
>症状を発現【光魔術適性Ⅰ】
>症状を発現【雷魔術適性Ⅰ】
ゴーレムが相手でもウイルスは通じた。
しかし肉体は……やはり操れないか。
どうにもウイルスの効きが悪い。
格上が相手だと十全な機能を発揮できないようだ。
ゴーレムロードという魔物は、ホブゴブリン風情が挑むような相手ではないのだろう。
こうなったらエレキベアの時のように、何度も感染させてやるしかないな。
そうすればさすがに効いてくるはずだ。
それにしても魔術適性系ばかりが手に入った。
このゴーレムは魔術特化のタイプなのか。
いや、近接戦闘にも対応できるみたいだから万能型なのだろう。
さすがはダンジョンのボスである。
とりあえずゴーレムに【麻痺Ⅰ】と【筋肉弛緩Ⅰ】を発症させた。
一瞬の硬直を経て、ゴーレムは平然とこちらへ歩み寄ってくる。
ほとんど効果はなさそうだ。
ゴーレムというくらいだから生物ではないのだろう。
各種状態異常にも耐性があるらしい。
他の症状も付与しようとしたが、感染させた分のウイルスが消滅した。
ゴーレムの体内に異物を殺す機能でもあるのかもしれない。
ウイルスまで検知するとはさすがだな。
症状コンボを決めるのはもう少し後になりそうだ。
カクリと首を傾げている。
どこか人間味が感じられない仕草だ。
ただ、尋常じゃない量の魔力を内包しているのはひしひしと伝わってくる。
先ほどから【危険察知Ⅱ】が早く逃げろと主張していた。
「あ、あれは……」
エレナが口を震わせて怯えている。
足が後退していることに彼女自身は気付いているのか。
俺は真っ青な顔のエレナに問いかける。
「正体を、知っているのか?」
「はい……このダンジョンの最下層に生息するゴーレムロードです。ここのボスクラスの魔物の中でも筆頭と呼ばれています。宝物庫の前に立ちはだかる守護者と聞いていましたが、私たちはとんでもない場所に転移してしまったみたいですね……」
なるほど、どうやらここは本当に最下層のボス部屋らしい。
つまり、目の前の美男子――ゴーレムこそがダンジョン最強の存在というわけか。
ゴーレムってもっと岩とか鋼鉄で造られているイメージがあったよ。
目の前の個体の外見はまさに普通の人間だ。
ちょっと表情に乏しいくらいだろうか。
まったく、なかなか面白い事態になってきた。
このダンジョンは俺たちの帰還をとことん望んでいないらしい。
俺は一歩前に進み出て、エレナを庇う位置にて大鉈を構える。
いくら症状で強化しているとはいえ、相手の強さは未知数。
俺が積極的に標的になる戦法がいい。
まあ、やることは変わらない。
相手にウイルスを感染させて、徹底的に行動を阻害して叩き潰すまでだ。
俺は地面を蹴って駆け出す。
ゴーレムは未だ棒立ちだ。
大きなアクションは見せず、明らかに隙だらけである。
なんだか拍子抜けしてしまう。
(もしかして、簡単に倒せるんじゃないか……?)
そう思った直後、ゴーレムの目が赤く光った。
一気に高まる魔力。
あれはかなりマズいぞ。
嫌な予感に従って、俺は大鉈に魔力を込める。
数瞬遅れて、ゴーレムの目からレーザー光線が発射された。
本当なら避けたいが、後方にはエレナがいる。
迫るレーザー光線に合わせて、俺は大鉈を振り上げた。
魔力の浸透した刃は、レーザー光線を真っ二つに切り裂いて軌道を大きくずらす。
一か八かだったが上手くいった。
【器用Ⅱ】【反射神経Ⅰ】【動体視力Ⅰ】【見切りⅠ】辺りがなければ不可能な芸当だったね。
すぐに背後で岩を削るような破壊音がした。
レーザー光線が壁に命中したらしい。
確認する余裕はないが、人体に受けていたら大ダメージだったろう。
エレナの動転する声が聞こえるけど無事みたいだ。
俺はそのままの勢いでゴーレムに肉薄する。
そして袈裟掛けに大鉈を叩き付けた。
対するゴーレムは、やはり無表情に片腕を上げる。
切断できるかと思いきや、金属音を鳴らして受け止められた。
衝撃でゴーレムの足元の石畳が割れて沈む。
それでもゴーレムの姿勢は崩れず、腕も無事だった。
(おいおい、どれだけ硬いんだ!?)
斬撃で裂けたローブから、ゴーレムの腕が覗く。
ローブの下には何の防具もつけていなかった。
大鉈は僅かに食い込んでいるだけで、ゴーレムの腕に傷を付けていない。
それどころか刃こぼれしている始末だった。
【魔力感知Ⅱ】によると、大鉈の触れる箇所に魔力が集まっている。
目に見えないだけで防護膜のようなものを張っているのかもしれない。
くそ、本当に厄介な野郎だ。
俺にもやり方を教えてほしい。
こちらの大鉈を凌いだゴーレムが、空いた拳で殴りかかってきた。
鋭い軌道のフックは当たり前のように魔力を纏っている。
【危険察知Ⅱ】が悲鳴を上げていた。
一体どれだけの威力を秘めているのやら。
俺はバックステップで距離を取る。
ギリギリで回避に成功した。
眼前すれすれを、仄かに光る拳が通過する。
勢い余って石畳を滑りつつ、俺はニヤリと微笑む。
回避の際に散布したウイルスは、ゴーレムの周りに蔓延していた。
>症状を発現【土魔術適性Ⅰ】
>症状を発現【水魔術適性Ⅰ】
>症状を発現【光魔術適性Ⅰ】
>症状を発現【雷魔術適性Ⅰ】
ゴーレムが相手でもウイルスは通じた。
しかし肉体は……やはり操れないか。
どうにもウイルスの効きが悪い。
格上が相手だと十全な機能を発揮できないようだ。
ゴーレムロードという魔物は、ホブゴブリン風情が挑むような相手ではないのだろう。
こうなったらエレキベアの時のように、何度も感染させてやるしかないな。
そうすればさすがに効いてくるはずだ。
それにしても魔術適性系ばかりが手に入った。
このゴーレムは魔術特化のタイプなのか。
いや、近接戦闘にも対応できるみたいだから万能型なのだろう。
さすがはダンジョンのボスである。
とりあえずゴーレムに【麻痺Ⅰ】と【筋肉弛緩Ⅰ】を発症させた。
一瞬の硬直を経て、ゴーレムは平然とこちらへ歩み寄ってくる。
ほとんど効果はなさそうだ。
ゴーレムというくらいだから生物ではないのだろう。
各種状態異常にも耐性があるらしい。
他の症状も付与しようとしたが、感染させた分のウイルスが消滅した。
ゴーレムの体内に異物を殺す機能でもあるのかもしれない。
ウイルスまで検知するとはさすがだな。
症状コンボを決めるのはもう少し後になりそうだ。