第65話 事情説明
文字数 2,220文字
「元人間の憑依魔術師、か……荒唐無稽な話だが状況が状況だ。信じるしかあるまい。」
やけに広々とした木造建築の一室。
俺は背筋を伸ばしてソファに腰かけていた。
室内には緊張した空気が漂う。
俺はなんとも気まずい心境で床を睨んでいた。
堂々と前を見れないのは、多少なりとも後ろめたさがあるからだろう。
隣に座るエレナも同じ調子である。
ここはギルドの一室。
関係者しか入れない最奥の部屋だ。
正面に腕組みをして座るのはエルフの美女。
ゴーレムロードとの対決にも貢献してくれた彼女だが、実は冒険者ギルドのギルドマスターであった。
二等級を示す冒険者カードと一緒に、役職付きの証明書を見せてもらった。
ギルド職員とは聞いていたが、まさか組織のトップとは思わなかった。
ちなみに名前はセツカさんというらしい。
先ほどエレナを交えて自己紹介をしたのだ。
そして現在は、セツカさんによる事情聴取の真っ最中である。
あれから俺たちは、セツカさんの帰還魔術で最下層から一気に地上で転移した。
ボス部屋の奥にあった宝物は、セツカさんが収納機能付きの魔道具で残らず持ち帰ってくれた。
やっぱり大容量の鞄は持っておきたいね。
今回の探索で得た魔物の素材や、不必要な宝物を売却したら是非とも購入しよう。
それなりの稼ぎになっただろうからお金も足りるはずだ。
余談だがボスクラスの魔物はダンジョンから出られないとのことだったけど、何の不具合もなくすんなりと出れた。
感染と同時に、ゴーレムの肉体はダンジョンとの繋がりを失ったらしい。
ただし【迷宮輪廻Ⅰ】を発症しておくと、たとえ死んでも従来通りダンジョン内にて復活できる。
ボスクラスの不死性を司る仕様が能力化してくれたみたいだ。
別の感染者の肉体を乗っ取って蘇る俺にはそれほど旨みがないが、常命のエレナには非常に心強い。
保険として常時発症させておこうと思う。
おっと、話が逸れた。
そうしてダンジョンを脱出したのも束の間、俺たちはセツカさんによってギルドまで連行された。
さっさと逃げ出せればよかったけれど、有無を言わさない態度だったのだ。
あそこで反論できるほど俺は勇者ではない。
観念した俺は、セツカさんにゴーレムの肉体を奪った能力や素性について話した。
だいたいエレナに伝えたことと同じような内容だ。
なるべく秘匿したいことだったが、目の前でゴーレムの身体を乗っ取ったのだから仕方ない。
あれは誤魔化しようのない状況だったんだよ。
俺も彼女との共闘を決めた段階で覚悟はしている。
冷静な彼女なら、落ち着いたタイミングで話を聞いてくれるという確信もあった。
その予感が当たって今に至る。
だけど、なぜか説教でも受けるような雰囲気が続いてた。
真剣に考え込むセツカさんの姿がそう感じさせるのか。
「話すべき内容はすべて告げた。そろそろ解放してもらえないかな」
「そうは言ってもな。私にも相応の立場と責任があって……」
「確かにこの身体は魔物に分類されるものだが、別に悪事を働こうとは思っていない」
俺はセツカさんに身の潔白を説明する。
この身体になったことで、自然に喋れるようになった。
戦闘で受けた損傷によって口周りの骨格が歪んでいるので声がこもり気味だが、聞きづらくはないはずだ。
自分の身体になる予定だったけど、あの時は手加減をする余裕もなかった。
本来なら【再生Ⅱ】が働いてすぐさま修復されるはずだが、未だに肉体はボロボロの満身創痍である。
魔力が全く足りないのだ。
時間経過でどうにかなりそうではあるが、全身の損傷を剥き出しにしたまま街を歩き回るわけにもいかない。
ということで今は青い長袖長ズボンを着こみ、首から上は包帯のような布を何重にも巻き付けて顔が見えないようにしている。
まるでミイラだ。
必要な処置なので我慢している。
それに、たとえ損傷がなくとも、顔は露出できない。
この顔は一部の冒険者に知られているからだ。
ダンジョンの深部に潜れる冒険者なら、ゴーレムロードとも遭遇することがあるのだという。
そういった冒険者と街中で鉢合わせて、ゴーレムが外に出たと騒がれたら取り返しのつかないことになる。
【肉体操作Ⅱ】で容姿の変更を試みているが、まだ自然な整形に至っていない。
髪色は無難な茶髪にできたけど、顔は非常に難しい。
もう少し練習したら解決しそうなので頑張ってみようと思う。
せっかく機械的な身体になったので、材料を集めて改造するのも面白いかもしれない。
ゴーレムに内蔵された改造機能と【肉体操作Ⅱ】を駆使すれば可能だろう。
足の裏からのジェット噴射で空を飛んだり、ロケットパンチを放てるようになりたいね。
これは夢が広がる。
その後、肉体改造計画に思いを馳せていたのがバレたのか、セツカさんによる説教を食らってしまった。
ただ、俺の素性については秘密にする方向にしてくれるようだ。
街に混乱をもたらさないようにという配慮らしい。
おそらくは俺への気遣いも含まれているに違いない。
なんだかんだで優しいよね。
言いたいことは言ったとばかりに書類仕事を始めたセツカさんに礼を言って、俺とエレナは部屋から退室した。
やけに広々とした木造建築の一室。
俺は背筋を伸ばしてソファに腰かけていた。
室内には緊張した空気が漂う。
俺はなんとも気まずい心境で床を睨んでいた。
堂々と前を見れないのは、多少なりとも後ろめたさがあるからだろう。
隣に座るエレナも同じ調子である。
ここはギルドの一室。
関係者しか入れない最奥の部屋だ。
正面に腕組みをして座るのはエルフの美女。
ゴーレムロードとの対決にも貢献してくれた彼女だが、実は冒険者ギルドのギルドマスターであった。
二等級を示す冒険者カードと一緒に、役職付きの証明書を見せてもらった。
ギルド職員とは聞いていたが、まさか組織のトップとは思わなかった。
ちなみに名前はセツカさんというらしい。
先ほどエレナを交えて自己紹介をしたのだ。
そして現在は、セツカさんによる事情聴取の真っ最中である。
あれから俺たちは、セツカさんの帰還魔術で最下層から一気に地上で転移した。
ボス部屋の奥にあった宝物は、セツカさんが収納機能付きの魔道具で残らず持ち帰ってくれた。
やっぱり大容量の鞄は持っておきたいね。
今回の探索で得た魔物の素材や、不必要な宝物を売却したら是非とも購入しよう。
それなりの稼ぎになっただろうからお金も足りるはずだ。
余談だがボスクラスの魔物はダンジョンから出られないとのことだったけど、何の不具合もなくすんなりと出れた。
感染と同時に、ゴーレムの肉体はダンジョンとの繋がりを失ったらしい。
ただし【迷宮輪廻Ⅰ】を発症しておくと、たとえ死んでも従来通りダンジョン内にて復活できる。
ボスクラスの不死性を司る仕様が能力化してくれたみたいだ。
別の感染者の肉体を乗っ取って蘇る俺にはそれほど旨みがないが、常命のエレナには非常に心強い。
保険として常時発症させておこうと思う。
おっと、話が逸れた。
そうしてダンジョンを脱出したのも束の間、俺たちはセツカさんによってギルドまで連行された。
さっさと逃げ出せればよかったけれど、有無を言わさない態度だったのだ。
あそこで反論できるほど俺は勇者ではない。
観念した俺は、セツカさんにゴーレムの肉体を奪った能力や素性について話した。
だいたいエレナに伝えたことと同じような内容だ。
なるべく秘匿したいことだったが、目の前でゴーレムの身体を乗っ取ったのだから仕方ない。
あれは誤魔化しようのない状況だったんだよ。
俺も彼女との共闘を決めた段階で覚悟はしている。
冷静な彼女なら、落ち着いたタイミングで話を聞いてくれるという確信もあった。
その予感が当たって今に至る。
だけど、なぜか説教でも受けるような雰囲気が続いてた。
真剣に考え込むセツカさんの姿がそう感じさせるのか。
「話すべき内容はすべて告げた。そろそろ解放してもらえないかな」
「そうは言ってもな。私にも相応の立場と責任があって……」
「確かにこの身体は魔物に分類されるものだが、別に悪事を働こうとは思っていない」
俺はセツカさんに身の潔白を説明する。
この身体になったことで、自然に喋れるようになった。
戦闘で受けた損傷によって口周りの骨格が歪んでいるので声がこもり気味だが、聞きづらくはないはずだ。
自分の身体になる予定だったけど、あの時は手加減をする余裕もなかった。
本来なら【再生Ⅱ】が働いてすぐさま修復されるはずだが、未だに肉体はボロボロの満身創痍である。
魔力が全く足りないのだ。
時間経過でどうにかなりそうではあるが、全身の損傷を剥き出しにしたまま街を歩き回るわけにもいかない。
ということで今は青い長袖長ズボンを着こみ、首から上は包帯のような布を何重にも巻き付けて顔が見えないようにしている。
まるでミイラだ。
必要な処置なので我慢している。
それに、たとえ損傷がなくとも、顔は露出できない。
この顔は一部の冒険者に知られているからだ。
ダンジョンの深部に潜れる冒険者なら、ゴーレムロードとも遭遇することがあるのだという。
そういった冒険者と街中で鉢合わせて、ゴーレムが外に出たと騒がれたら取り返しのつかないことになる。
【肉体操作Ⅱ】で容姿の変更を試みているが、まだ自然な整形に至っていない。
髪色は無難な茶髪にできたけど、顔は非常に難しい。
もう少し練習したら解決しそうなので頑張ってみようと思う。
せっかく機械的な身体になったので、材料を集めて改造するのも面白いかもしれない。
ゴーレムに内蔵された改造機能と【肉体操作Ⅱ】を駆使すれば可能だろう。
足の裏からのジェット噴射で空を飛んだり、ロケットパンチを放てるようになりたいね。
これは夢が広がる。
その後、肉体改造計画に思いを馳せていたのがバレたのか、セツカさんによる説教を食らってしまった。
ただ、俺の素性については秘密にする方向にしてくれるようだ。
街に混乱をもたらさないようにという配慮らしい。
おそらくは俺への気遣いも含まれているに違いない。
なんだかんだで優しいよね。
言いたいことは言ったとばかりに書類仕事を始めたセツカさんに礼を言って、俺とエレナは部屋から退室した。