第17話 奇妙な出会い

文字数 2,120文字

(糸とか電撃が使えたら楽勝なのになぁ……)

 内心で愚痴りながら、横薙ぎに剣を一閃させる。
 力任せの斬撃が迫る狼を二枚おろしにした。

「ウ……」

 ぶちまけられた血肉がシャワーのように外套を叩く。
 むせ返るような臭いが鼻を突くも、今は我慢するしかない。

 力加減を誤るとこうなるのか。
 もう少し工夫が必要だな。
 斬るたびに血肉を浴びるのはご免である。

 外套も後で洗わなければならない。
 このまま街へ行ったらクレームが来そうだ。

「ガウァッ」

 正面より二体の狼が跳びかかってきた。
 このまま押し倒して群がるつもりだろう。

 慌てず騒がず、俺は呼気からウイルス感染を促す。


>症状を発現【獰猛Ⅱ】
>症状を発現【敏捷Ⅱ】
>症状を発現【持久力Ⅱ】


 狼関連の症状がグレードアップした。
 精神面に影響を及ぼす【獰猛Ⅱ】はともかく、他の二つで素早さとスタミナが底上げされるのは嬉しい。
 これでもっと楽に戦えそうだ。

 俺は二体の狼のうち一体に剣の刺突を放った。
 僅かな抵抗感。
 大きく開いた喉奥へと刃を押し込んでいく。

 そこでもう一体が俺の前腕に噛み付いて体重をかけてきた。
 なるほど、どちらかを犠牲にしてでも俺の体勢を崩すつもりなのか。
 確かにそうすれば生き残った他の狼たちで俺を殺せるもんな。

 しかし、見込みが甘い。
 そんなことで俺を倒せるとは思わないことだ。
 ここぞというタイミングで助けに入った以上、あまり無様な姿は晒せないんだよね。
 助太刀したつもりが返り討ちになるなんて最高に笑えない。

 俺は狼を串刺しにした剣を放した。
 そして【馬鹿力Ⅰ】で踏ん張ることで狼の突進の勢いに耐え、懸命に腕を齧る狼の眉間に拳を打ち込む。
 籠手から骨を砕く感触が伝わってきた。
 声すら出せずに吹っ飛ぶ狼を横目に、俺は思い切り後方へと飛び退く。

 数瞬後、俺のいた場所に狼が殺到した。
 もし【危険察知Ⅰ】がなければ、ほぼ確実に捕まっていたな。
 ばっちりなタイミングで回避に移れたようだ。

 我ながら戦い慣れしてきた感じがあるね。
 リズムのようなものが分かってきた気がする。
 まだまだ未熟の域を出ていないだろうが、立ち回りが段々と上手くなってきたんじゃないかな。

 残りの狼をどう倒すか思案していると、護衛の一部がこちらへ駆け寄ってきた。
 彼らは勇ましく武器を掲げて狼に突撃していく。

「助かった! 我々も加勢しようッ!」

「魔物どもめ! ここからが本番だァ!」

 士気の上がった護衛たちは、負傷をものともせずに攻め立てる。
 助太刀によって俺を味方だと認識し、サポートしに来てくれたみたいだ。

(俺も負けてられないね……)

 形勢は既に覆っている。
 あとはいかに負傷者を出さないかに注意するだけだ。
 俺は怪我をしても回復できるので、なるべく派手に暴れて狼の注意を引こうと思う。

 そこからは順調に狼の数を減らし、ついには全滅させて戦闘は終了した。
 幸いにも人間側に死者は出ず、酷い怪我を負っている者も命に別状はなさそうだ。
 護衛という職業柄、身体も頑丈なのだろう。
 とにかく犠牲者が出なくて何よりである。

(ふぅ、いい運動になったね)

 刃こぼれした剣を肩に担ぎ、俺は静かに息を吐く。
 適度に歯応えのある相手だった。
 症状に依存しすぎずに戦うのも練習になったし、今後の役に立ちそうだ。

 加えて護衛たちの戦いを見れたのも大きい。
 やっぱり参考になる部分多かった。
 素人目にも鍛え上げられた戦闘技術を彼らは持っている。

 身体能力では負けていない自信があるが、テクニックでは雲泥の差だろう。
 症状の使用を禁止されたらまず勝てないね。
 本職のすごさを知った瞬間だ。
 いやはや、とても勉強になるよ。

 それにしても護衛の一部から向けられる視線が何やらおかしい。
 決して悪意とかは感じないのだが、こちらを訝しそうに見てくるのだ。
 ここまでで何かおかしい点でもあっただろうか。
 異世界の常識に疎いので、もしかすると知らないうちにボロを出していたのかもしれない。

 モンスターだと看破した上で対応を考えているのなら厄介である。
 街に着く前から存在を広められてしまうのは非常に良くない。

 申し訳ないが、事の次第によってはウイルスで口封じすることも視野に入れねばならないな。
 俺だって平穏に暮らしたいだけなのだ。
 できることなら手を汚したくない。
 しかし、必要に駆られたら実行するつもりであった。

(モンスターの肉体を使っているせいで、冷酷な性格になっている気がするな……)

 自覚はあるものの、だからと言って情けはかけられない。
 ここで出鼻を挫かれるのは困るのだから。

 そんな危険な想像をしていると、馬車の扉が開いた。

「いやぁ、助かりましたよ! あなたがいなければどうなっていたことか。感謝感激でございます」

 飄々とした軽い調子の声。
 横転する馬車の中から、上等な服を着た胡散臭い優男が現れた。
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