第37話 巨人の襲来
文字数 2,003文字
(あれは……)
俺はじっと目を凝らす。
互いを庇いながら逃げる三人の冒険者。
ふらつく彼らは、一目で満身創痍と分かる状態であった。
全身傷だらけで動きがぎこちない。
正直、走ることができているだけでもすごいと思うほどだ。
そんな彼らを追うのは、腰布を巻いた醜い巨人の群れである。
肥えた体躯を窮屈そうにさせながら、巨人たちは丸太のような棍棒を振り回して通路を破壊しながら迫りつつあった。
まるで暴風の権化と言わんばかりの勢いだ。
距離が詰まるごとに騒音も段違いに大きくなってくる。
そんな魔物が六体もいた。
一連の光景を目にしたエレナは顔面蒼白になる。
「ト、トロールです! 非常に強力な魔物ですが、どうしてこの階層に……!?」
エレナの言葉から推測するに、トロールという魔物はもっと下層の難度の高いフロアに出没するのだろう。
確かに凄まじい威圧感だ。
スケルトンやリザードマンとは比べ物にならない。
まだ距離がある状態でもピリピリと肌に違和感を覚えるほどである。
あんな怪物が現れたら、新米冒険者なんてひとたまりもないね。
どう戦うとかそういった次元ではない。
立ち向かえば抵抗すら許されずに殺される。
そういった予感をさせるだけの存在であった。
(それが六体だもんなぁ。エレナが動揺するのも分かるよ)
俺は震えるエレナを庇うようにな位置に立つ。
このままではパニックに陥ってしまいそうな様子だったのだ。
彼女にはできるだけ冷静でいてほしい。
下手な行動を取られたら守り切れないかもしれないからだ。
「た、助けてくれ! もう、やばいんだッ」
こちらに気付いた冒険者が必死の形相で叫ぶ。
もう限界らしく、今にもトロールたちに追いつかれそうだった。
捕まったら最期、その余りある力で惨殺されるのは火を見るよりも明らかである。
冒険者たちは新人といった雰囲気ではないが、さすがにこれだけのトロールが相手では分が悪かろう。
負傷を抜きに考えてもかなり厳しいと思う。
俺は剣を弄びつつ、コキリと首を鳴らした。
強化系のスキルを順に発症しながらエレナに声を掛ける。
「冒険者たちを、保護して、くれ。俺はトロールたちを、倒す」
「は、はい……!」
返事をするエレナを置いて、俺は地面を蹴りだす。
細かい事情がまるで分からないが、ここで冒険者たちを見捨てることなどできない。
厄介事を避けるならスルーすべきなのは分かっている。
ただ、そこまで薄情にはなれなかった。
俺は不滅のウイルスになったが、精神的には人間のつもりだ。
それを確かめるという意味でもなるべく人道的な行動を選んでいきたい。
損得や欲望ばかりを盲目的に追い求めていたら、自分を見失いそうだった。
「あ、あんた……助けて、くれ……」
「待って、いろ。すぐに、片付ける」
今にも倒れそうな冒険者たちのそばを走り抜けて、俺はトロールたちへと突撃する。
「ブボオアアアアァァッ!!」
トロールは恐るべき速度で棍棒を振るってきた。
天井を削りながら放たれる殴打。
ダンジョンが倒壊するのではないかと不安になってしまう。
俺はギリギリで跳んで回避した。
棍棒の一撃は地面に炸裂し、蜘蛛の巣状のヒビを生じさせる。
トロールの顔面を蹴って後退しつつ、俺は冷や汗を流した。
(こいつはヤバいな……)
このトロールという魔物は、ホブゴブリンとは生物としての格が違う。
肉体スペックに圧倒的な差があるのだ。
攻撃をまともに食らえば即座に行動不能に陥るだろう。
叩き潰されれば一瞬でミートペーストの出来上がりである。
症状を重ねてもどうしようもないことを、今の一撃で悟った。
遭遇したのが一本道で良かった。
おかげで同時に対峙するのが一体ずつで済む。
開けた場所だったら包囲されていたろう。
そうなれば、正攻法ではまず負けていたと思う。
後続のトロールたちは忌々しそうにこちらを睨み付けていた。
隙あらば飛び出してきそうだ。
身体のサイズ的に難しいとは思うけれども、念のために警戒しておいた方がいい。
(まあ、やるしかないだろうな)
後方にはエレナや負傷した冒険者たちが待機している。
彼らを危険に曝さないためには、ここで俺が踏ん張って迎撃するしかあるまい。
とにかく、さっさと倒してしまおう。
俺は滑るように駆け出してトロールの眼前へと躍り出る。
そこから全力で剣を一閃させた。
先手必勝。
膂力で劣るのならば、スピードで圧倒してやればいい。
煌めく刃はトロールの額に打ち込まれ――甲高い音を立てて割れた。
「なっ……」
絶句するのも束の間、横薙ぎの棍棒が俺の腹に炸裂する。
俺はじっと目を凝らす。
互いを庇いながら逃げる三人の冒険者。
ふらつく彼らは、一目で満身創痍と分かる状態であった。
全身傷だらけで動きがぎこちない。
正直、走ることができているだけでもすごいと思うほどだ。
そんな彼らを追うのは、腰布を巻いた醜い巨人の群れである。
肥えた体躯を窮屈そうにさせながら、巨人たちは丸太のような棍棒を振り回して通路を破壊しながら迫りつつあった。
まるで暴風の権化と言わんばかりの勢いだ。
距離が詰まるごとに騒音も段違いに大きくなってくる。
そんな魔物が六体もいた。
一連の光景を目にしたエレナは顔面蒼白になる。
「ト、トロールです! 非常に強力な魔物ですが、どうしてこの階層に……!?」
エレナの言葉から推測するに、トロールという魔物はもっと下層の難度の高いフロアに出没するのだろう。
確かに凄まじい威圧感だ。
スケルトンやリザードマンとは比べ物にならない。
まだ距離がある状態でもピリピリと肌に違和感を覚えるほどである。
あんな怪物が現れたら、新米冒険者なんてひとたまりもないね。
どう戦うとかそういった次元ではない。
立ち向かえば抵抗すら許されずに殺される。
そういった予感をさせるだけの存在であった。
(それが六体だもんなぁ。エレナが動揺するのも分かるよ)
俺は震えるエレナを庇うようにな位置に立つ。
このままではパニックに陥ってしまいそうな様子だったのだ。
彼女にはできるだけ冷静でいてほしい。
下手な行動を取られたら守り切れないかもしれないからだ。
「た、助けてくれ! もう、やばいんだッ」
こちらに気付いた冒険者が必死の形相で叫ぶ。
もう限界らしく、今にもトロールたちに追いつかれそうだった。
捕まったら最期、その余りある力で惨殺されるのは火を見るよりも明らかである。
冒険者たちは新人といった雰囲気ではないが、さすがにこれだけのトロールが相手では分が悪かろう。
負傷を抜きに考えてもかなり厳しいと思う。
俺は剣を弄びつつ、コキリと首を鳴らした。
強化系のスキルを順に発症しながらエレナに声を掛ける。
「冒険者たちを、保護して、くれ。俺はトロールたちを、倒す」
「は、はい……!」
返事をするエレナを置いて、俺は地面を蹴りだす。
細かい事情がまるで分からないが、ここで冒険者たちを見捨てることなどできない。
厄介事を避けるならスルーすべきなのは分かっている。
ただ、そこまで薄情にはなれなかった。
俺は不滅のウイルスになったが、精神的には人間のつもりだ。
それを確かめるという意味でもなるべく人道的な行動を選んでいきたい。
損得や欲望ばかりを盲目的に追い求めていたら、自分を見失いそうだった。
「あ、あんた……助けて、くれ……」
「待って、いろ。すぐに、片付ける」
今にも倒れそうな冒険者たちのそばを走り抜けて、俺はトロールたちへと突撃する。
「ブボオアアアアァァッ!!」
トロールは恐るべき速度で棍棒を振るってきた。
天井を削りながら放たれる殴打。
ダンジョンが倒壊するのではないかと不安になってしまう。
俺はギリギリで跳んで回避した。
棍棒の一撃は地面に炸裂し、蜘蛛の巣状のヒビを生じさせる。
トロールの顔面を蹴って後退しつつ、俺は冷や汗を流した。
(こいつはヤバいな……)
このトロールという魔物は、ホブゴブリンとは生物としての格が違う。
肉体スペックに圧倒的な差があるのだ。
攻撃をまともに食らえば即座に行動不能に陥るだろう。
叩き潰されれば一瞬でミートペーストの出来上がりである。
症状を重ねてもどうしようもないことを、今の一撃で悟った。
遭遇したのが一本道で良かった。
おかげで同時に対峙するのが一体ずつで済む。
開けた場所だったら包囲されていたろう。
そうなれば、正攻法ではまず負けていたと思う。
後続のトロールたちは忌々しそうにこちらを睨み付けていた。
隙あらば飛び出してきそうだ。
身体のサイズ的に難しいとは思うけれども、念のために警戒しておいた方がいい。
(まあ、やるしかないだろうな)
後方にはエレナや負傷した冒険者たちが待機している。
彼らを危険に曝さないためには、ここで俺が踏ん張って迎撃するしかあるまい。
とにかく、さっさと倒してしまおう。
俺は滑るように駆け出してトロールの眼前へと躍り出る。
そこから全力で剣を一閃させた。
先手必勝。
膂力で劣るのならば、スピードで圧倒してやればいい。
煌めく刃はトロールの額に打ち込まれ――甲高い音を立てて割れた。
「なっ……」
絶句するのも束の間、横薙ぎの棍棒が俺の腹に炸裂する。