第28話 ウイルス倫理
文字数 2,008文字
その後、俺たちは数体のツノウサギを倒してからギルドへ帰還した。
日没が迫りつつあったので切り上げたのである。
俺は【夜目Ⅱ】があるので、夜間でも何の不自由もなく行動できるが、同行するエレナのことを考えるとそうも行かない。
別に無理に討伐を続けるメリットもないからね。
初回の討伐依頼だし、これくらいでちょうどいいだろう。
ギルドにて倒した魔物の素材をカウンターにどかっと並べて換金を頼む。
まあ、素材と言ってもツノウサギの肉と角がいくつかと、イワモグラの爪くらいだ。
二人で持ち帰れる量に限度があった。
本当はイワモグラの岩のような肌も採取しておきたかったのだが、さすがに重たすぎる。
(一度にたくさん持ち運びできたらなぁ……)
報酬額が算出されるまでの間、俺は受付にもたれかかりながら思考に耽る。
エレナによれば、魔術によって見た目以上の容積を持つ鞄というのも存在するらしく、中堅以上の冒険者はそういった道具を活用して稼ぎを増やすそうだ。
いかにもファンタジーなアイテムだよね。
ちょっと欲しいが、基本的に高額なものなのだとか。
駆け出しの冒険者の財布事情では、とても手が出せないのだという。
また新たな目的が一つ増えたな。
張り切って稼がなければ。
(いや、金持ちの人間の身体を乗っ取れば、すぐに手に入るんじゃ……?)
ふと閃いた発想に、俺は声を出しそうになる。
なんと簡単なことか。
地道に金稼ぎをするよりもずっと楽だろう。
いっそ、そのファンタジーな鞄を持つ冒険者になってしまえば、さらに手間が省けてしまう。
こいつは素晴らしい。
(……常識的に考えて駄目だろう)
どんどん外道な思考に陥るも、寸前のところでストップをかけた。
いくらなんでも、やっていいことと悪いことがある。
今、俺が想像していたのは間違いなく後者だ。
ボーダーラインを越えてはいけない。
転生によって得たウイルスとしての能力は、それはもう非常に強力である。
その気になれば、世界を征服することすら可能だろう。
富も名誉も力もなんだって手に入る。
もし途中で失敗したとしても、身体を乗り換えて何度だってやり直せてしまう。
これほどすごいことはあるまい。
たぶん、人によっては喉から手が出るほどに求めるものだろう。
だからこそ、自制しなければならない。
欲望の赴くままに行動していたら、いつか俺が俺でなくなる気がした。
万能の力があるが故に、自らを律していく心が大切だと思う。
別にウイルスの能力を否定するわけではなく、あくまでもやり過ぎないように注意するだけだ。
せっかくの異世界なのだから、基本的には楽しく自由に節度を守って過ごすつもりである。
(チート能力者特有の悩みってやつかなぁ……)
そんなことを思っているうちに報酬額が確定したらしく、カウンターの職員さんが話しかけてきた。
「お疲れ様です。お二人ともまだ六等級なのにすごいですね! ツノウサギはまだしも、イワモグラなんてそう狩れませんよ。特にパラジットさんなんて、登録初日じゃないですか! これは今後に期待ですね。エレナさんも一緒に依頼を受ける方ができてよかったです!」
職員さんの言葉に、併設された酒場の冒険者たちがガタリと反応した。
彼らはこちらに様々な感情を含んだ視線を向けてくる。
イワモグラは新米が倒せる魔物ではないらしいし、そういうリアクションにもなるか。
まあ、昼間にここで散々やらかしているので今更だろう。
むしろある程度の実力があると認識されれば舐められずに済む。
多少は恐れられるくらいの方が冒険者稼業の上ではちょうどいいだろう。
報酬を受け取った俺たちは、ひとまず酒場の空いた席を確保する。
少なくない注目を集めているが、敵意はなさそうなので放置でいい。
「冒険者として最高の一日でしたね! すごく充実していました!」
エレナは上機嫌そうに言う。
彼女は報酬を見てはニヤニヤと頬を緩めた。
聞けば一度の依頼でこれだけの額を得られるのは初めてらしい。
ソロでは素材もそれほど持ち帰れず、戦闘におけるリスクも高い。
もし欲を掻いて複数の魔物に囲まれてしまえば絶体絶命だ。
相手によっては速やかに死を待つのみとなる。
新米冒険者のエレナは、特にその傾向が強かろう。
そんな苦境に挟まれた彼女に、少しでも手を差し伸べられている。
異世界でヒーローになりたかった俺にとって本望なことだ。
「これも全部パラジットさんのおかげです。本当にありがとうございます! なんだか私、ちょっとだけ自信が持てた気がします」
俺に感謝の言葉を述べながら、にこりと良い笑顔を見せるエレナ。
この笑顔を守りたい、と俺は思った。
日没が迫りつつあったので切り上げたのである。
俺は【夜目Ⅱ】があるので、夜間でも何の不自由もなく行動できるが、同行するエレナのことを考えるとそうも行かない。
別に無理に討伐を続けるメリットもないからね。
初回の討伐依頼だし、これくらいでちょうどいいだろう。
ギルドにて倒した魔物の素材をカウンターにどかっと並べて換金を頼む。
まあ、素材と言ってもツノウサギの肉と角がいくつかと、イワモグラの爪くらいだ。
二人で持ち帰れる量に限度があった。
本当はイワモグラの岩のような肌も採取しておきたかったのだが、さすがに重たすぎる。
(一度にたくさん持ち運びできたらなぁ……)
報酬額が算出されるまでの間、俺は受付にもたれかかりながら思考に耽る。
エレナによれば、魔術によって見た目以上の容積を持つ鞄というのも存在するらしく、中堅以上の冒険者はそういった道具を活用して稼ぎを増やすそうだ。
いかにもファンタジーなアイテムだよね。
ちょっと欲しいが、基本的に高額なものなのだとか。
駆け出しの冒険者の財布事情では、とても手が出せないのだという。
また新たな目的が一つ増えたな。
張り切って稼がなければ。
(いや、金持ちの人間の身体を乗っ取れば、すぐに手に入るんじゃ……?)
ふと閃いた発想に、俺は声を出しそうになる。
なんと簡単なことか。
地道に金稼ぎをするよりもずっと楽だろう。
いっそ、そのファンタジーな鞄を持つ冒険者になってしまえば、さらに手間が省けてしまう。
こいつは素晴らしい。
(……常識的に考えて駄目だろう)
どんどん外道な思考に陥るも、寸前のところでストップをかけた。
いくらなんでも、やっていいことと悪いことがある。
今、俺が想像していたのは間違いなく後者だ。
ボーダーラインを越えてはいけない。
転生によって得たウイルスとしての能力は、それはもう非常に強力である。
その気になれば、世界を征服することすら可能だろう。
富も名誉も力もなんだって手に入る。
もし途中で失敗したとしても、身体を乗り換えて何度だってやり直せてしまう。
これほどすごいことはあるまい。
たぶん、人によっては喉から手が出るほどに求めるものだろう。
だからこそ、自制しなければならない。
欲望の赴くままに行動していたら、いつか俺が俺でなくなる気がした。
万能の力があるが故に、自らを律していく心が大切だと思う。
別にウイルスの能力を否定するわけではなく、あくまでもやり過ぎないように注意するだけだ。
せっかくの異世界なのだから、基本的には楽しく自由に節度を守って過ごすつもりである。
(チート能力者特有の悩みってやつかなぁ……)
そんなことを思っているうちに報酬額が確定したらしく、カウンターの職員さんが話しかけてきた。
「お疲れ様です。お二人ともまだ六等級なのにすごいですね! ツノウサギはまだしも、イワモグラなんてそう狩れませんよ。特にパラジットさんなんて、登録初日じゃないですか! これは今後に期待ですね。エレナさんも一緒に依頼を受ける方ができてよかったです!」
職員さんの言葉に、併設された酒場の冒険者たちがガタリと反応した。
彼らはこちらに様々な感情を含んだ視線を向けてくる。
イワモグラは新米が倒せる魔物ではないらしいし、そういうリアクションにもなるか。
まあ、昼間にここで散々やらかしているので今更だろう。
むしろある程度の実力があると認識されれば舐められずに済む。
多少は恐れられるくらいの方が冒険者稼業の上ではちょうどいいだろう。
報酬を受け取った俺たちは、ひとまず酒場の空いた席を確保する。
少なくない注目を集めているが、敵意はなさそうなので放置でいい。
「冒険者として最高の一日でしたね! すごく充実していました!」
エレナは上機嫌そうに言う。
彼女は報酬を見てはニヤニヤと頬を緩めた。
聞けば一度の依頼でこれだけの額を得られるのは初めてらしい。
ソロでは素材もそれほど持ち帰れず、戦闘におけるリスクも高い。
もし欲を掻いて複数の魔物に囲まれてしまえば絶体絶命だ。
相手によっては速やかに死を待つのみとなる。
新米冒険者のエレナは、特にその傾向が強かろう。
そんな苦境に挟まれた彼女に、少しでも手を差し伸べられている。
異世界でヒーローになりたかった俺にとって本望なことだ。
「これも全部パラジットさんのおかげです。本当にありがとうございます! なんだか私、ちょっとだけ自信が持てた気がします」
俺に感謝の言葉を述べながら、にこりと良い笑顔を見せるエレナ。
この笑顔を守りたい、と俺は思った。