第35話 スケルトンとの対決

文字数 2,175文字

 スケルトンは俺の突進に合わせて斧を振り下ろしてくる。
 こちらの動きを読んでいるな。
 知性がないと思ったら大間違いだね。

 それなりの速度で迫る斧を、俺は剣で正面からガードする。
 意外と重い一撃。
 腕にビリビリと少し痺れた。
 骨だけの身体のクセに、結構な膂力である。

 筋肉がないということは魔力とかで動いているのだろうか。
 存在そのものがファンタジーな奴だな。

 もっとも、症状を重ねれば押し返すことなど造作もない。
 俺は力任せに斧を弾き、仰け反ったスケルトンを蹴り飛ばす。

 スケルトンは転がりながらもむくりとすぐに起き上がった。
 肋骨の何本かが折れているが、気にする様子もない。

 当然、痛みもないか。
 果たしてどこを潰せば急所になるのか。
 それなりに厄介そうな魔物である。

「パラジットさん、大丈夫ですか!? もし厳しそうなら撤退した方が……」

 後ろからエレナの心配する声がする。
 通路が狭いせいで加勢できずにいるようだ。

 俺は跳びかかってきたスケルトンの斬撃を防ぎつつ、彼女に告げる。

「大丈夫、だ。周りの注意、だけ、頼む」

 返事を待たず、スケルトンの斧を奪い取ってその無防備な頭部に叩き付けた。
 斧は硬い音を立てて頭蓋を砕き割り、鼻の辺りにまでめり込む。

 しかし、スケルトンは平然とこちらに掴みかかってきた。

(本当にタフだな……!?)

 頭部へのダメージでもダメか。
 普通の生物なら致命傷だろうに。
 いきなり強い魔物と遭遇したものだ。

 初心者向けと聞いたから、もっと簡単に倒せる奴が出てくるかと思ったのだが。
 確かにこれはソロで挑むにはきついだろう。
 まあ、だからと言って打つ手がないわけではない。

 ここまではウォーミングアップだ。
 さっさと仕留めに行こうか。
 押し倒そうとしてくるスケルトンを退けながら、俺はウイルスを噴き付ける。


>症状を発現【魔力駆動Ⅰ】
>症状を発現【耐久Ⅰ】
>症状を発現【斬撃耐性Ⅰ】
>症状を発現【痛覚遮断Ⅰ】
>症状を発現【不休体質Ⅰ】
>症状を発現【魔術脆弱Ⅰ】
>症状を発現【打撃脆弱Ⅰ】
>症状を発現【聖属性脆弱Ⅰ】
>症状を発現【日光脆弱Ⅰ】


 生物かどうか微妙なラインだが、スケルトンにもウイルスを仕込むことができた。
 まだ試さないが身体を乗っ取ることもできそうだ。

 しかし、これはまた酷く偏った能力だな。
 手強いと思ったら弱点だらけである。
 たぶんアンデッドタイプの魔物の定めなのだろう。

 まあ、俺としては非常にありがたいラインナップには違いない。
 敵を弱体化させるために使えるからね。

 さて、考察はこれくらいにしてさっさと倒すかね。
 俺はスケルトンに【麻痺Ⅰ】と【筋肉弛緩Ⅰ】を発症させた。

 スケルトンは変わらずに接近してくる。
 やはり効果がないか。
 まあ、骨だけの身体だからね。
 ウイルスが感染する方がおかしいのだ。

 仕方なく俺は自分に【怪力Ⅰ】と【身体強化Ⅰ】を、スケルトンには得たばかりの【打撃脆弱Ⅰ】を発症させる。
 元から打撃攻撃に弱いようだし、弱点を重複させればさらなる効果が期待できるはず。
 俺は拳を固めて、すくい上げるようにスケルトンの顎を打ち抜く。

 モロにアッパーを食らったスケルトンは、首からの上の大半が破損。
 天井に激突して、衝撃で全身にヒビが走った。

 落下してくるところに、さらに回し蹴りをお見舞いする。

 スケルトンは壁にぶつかってバラバラになった。
 再生するそぶりもない。
 ただの骨の欠片の山になってしまった。

(……随分とあっさりと倒せたな)

 ダンジョンの一階層なのだし当たり前か。
 あまりに手強かったら、初心者向けとは言えない。
 この分なら複数のスケルトンと遭遇しても対処できそうだ。

 温存している症状もまだたくさんあるし、倒し方のコツも掴めた。
 今度はもっとスマートに倒せるだろう。

 戦利品の斧を拾っていると、エレナがスケルトンの残骸を前に震えだす。
 何事かと思えば、その表情は驚愕に染まっていた。

「すごいですよ、パラジットさん……! スケルトンは高い耐久性を持つ魔物です。ソロの新米冒険者にとっては天敵とも呼ばれていて、魔術による遠距離攻撃が無難と言われているほどです。それを素手で倒し切ってしまうなんて……」

 エレナは興奮気味にスケルトンの解説をしてくれる。

 確かに【魔術脆弱Ⅰ】が得られたから、魔術には弱いと思っていた。
 しかし、生憎と俺は魔術が使えないんだよね。
 それらしき症状はいくつか持っているのだが、使い方がよく分からずに放置している。
 冒険者の中には魔術師もいるそうだし、ちょっと教えを乞いてもいいかもしれない。

(やりたいことがどんどん増えていくなぁ……)

 ポーチにスケルトンの骨を仕舞うエレナを眺めながら、俺はしみじみと思う。
 現代日本では惰性で生きている感じが強かったが、この世界での暮らしはとても充実していた。
 この調子で様々なことに挑戦していきたいね。

 テンションの上がったエレナを宥めつつ、俺はさらにダンジョンの奥へと進むのであった。
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