第64話 決着
文字数 2,602文字
俺は石畳を踏み割る勢いで駆け出した。
途中、【魔鋼装甲Ⅰ】をコーティングした爪に【感電Ⅰ】による電撃を付与する。
【術式理解Ⅰ】によると、電撃を打ち込めばゴーレムの内部構造を損傷させられるそうだ。
これだけでは致命傷にならないしすぐに復活するだろうが、回復の分だけ魔力を余計に消費させることができる。
加えて爪の先端には俺の血液を伝わせてあった。
これでさらなる感染を見込めるだろう。
隣をエレナが並走する。
彼女は剣を後ろに引き、盾を前に突き出した姿勢だ。
強化された肉体を完全に使いこなしている。
ゴーレムは敵が増えたことにリアクションを見せなかった。
相変わらずの無表情で当然のように水の弾丸を飛ばしてくる。
回避しようとしたところ、前方に不可視の壁が出現した。
風属性の魔術による防御である。
たぶん背後にいるエルフの美女が発動してくれたのだろう。
絶妙なタイミングだ。
俺たちは減速せずにゴーレムの懐に跳び込む。
ゴーレムは左右の腕から伸びた隠し刃を高速で振るってきた。
エレナは剣と盾を駆使してガードする。
そのまま押し込む勢いだ。
「パラジットさん!」
こちらに視線をやって叫ぶエレナ。
俺は無言で頷くことで応え、酸で焼いたゴーレムの片脚に爪を叩き付ける。
びきり、と大きな亀裂が走ってゴーレムが片膝を突いた。
>症状を発現【魔力刃Ⅰ】
>症状を発現【魔術中和Ⅰ】
>症状を発現【見切りⅡ】
>症状を発現【支配耐性Ⅱ】
>症状を発現【魔術耐性Ⅱ】
どれも使えそうな症状なのですぐさま発症させる。
【魔力刃Ⅰ】は爪に纏わせた。
切れ味が増すようなので期待だ。
「今度は、私の番ですッ!」
ゴーレムを押さえ付けるエレナが盾を振りかぶる。
盾で殴り付けるつもりらしい。
俺はゴーレムに仕込んだウイルスが消えないうちに【打撃脆弱Ⅰ】を発症させる。
間を置かず、エレナの盾がゴーレムの顔面に炸裂した。
甲高い金属音を伴って、端正なゴーレムの頬が陥没する。
勢いのままに首が一回転した。
そこでウイルスが消されて症状の効果が切れる。
ゴーレムは辛うじて首がねじ切れずに済んでいた。
奴はエレナを突き飛ばしてレーザー光線で追撃のそぶりを見せる。
(そうはさせるか……!)
俺はゴーレムの半壊した片脚を爪で薙ぐ。
ついに片脚が切断された。
体勢を崩したゴーレムのレーザー光線は、軌道が逸れてあえなく天井に穴を開ける。
>症状を発現【高速演算Ⅰ】
>症状を発現【並列思考Ⅰ】
ゴーレムは片脚で地面を蹴って器用にこちらへ突進してきた。
身体を翻して隠し刃で斬りかかってくる。
俺は爪で弾いてやり過ごす。
反撃に【酸液分泌Ⅱ】で特製シャワーを浴びせてやった。
強酸を頭から被ったゴーレムは、凄まじい量の白煙を上げながら動きを鈍らせる。
>症状を発現【戦闘本能Ⅰ】
>症状を発現【肉体制御Ⅰ】
>症状を発現【情報還元Ⅰ】
片足立ちでふらつくゴーレム。
そこへ無数の風の刃が襲いかかる。
エルフの美女による遠距離魔術のようだ。
俺は咄嗟の判断でゴーレムに【魔術脆弱Ⅰ】を発症させる。
風の刃はゴーレムの胴体を深く抉り、さらには両腕を半ばほどで切り飛ばした。
ついにゴーレムは堪らず倒れる。
畳みかける攻撃によって相当なダメージが蓄積していた。
機能修復を試みているようだが、魔力が足りず滞っている。
体内に仕込まれた術式の大半が満足に働いていない状態だった。
(――やるなら、今しかないな!)
これ以上やるとゴーレムが死んでしまう。
そう判断した俺は、倒れたゴーレムに跳びかかる。
肉薄する俺に対して、ゴーレムは仰向けになってレーザー光線を放ってきた。
苦し紛れだが込められた魔力は最大出力に近い。
そして、空中にいる俺には咄嗟に避けることもできなかった。
下半身が消し飛び、視界の右半分が黒くなる。
頭部をレーザー光線で貫かれたのだと理解した。
瀕死の癖になかなかの反撃だ。
しかし、これくらいでは死なない。
俺は構わず【蝙蝠羽根Ⅰ】【魔力飛行Ⅰ】を発症した。
飛行能力と慣性を利用してゴーレムの上に着地して拘束する。
その際、レーザー光線で破損した肉体から零れた血肉がゴーレムに降りかかる。
>症状を発現【学習Ⅰ】
>症状を発現【無感情Ⅰ】
>症状を発現【精神耐性Ⅰ】
ゴーレムの髪を掴み、何度も石畳に頭を叩き付ける。
そのたびにゴーレムの顔面が変形していった。
手がない二本の腕が、俺を止めようと虚しく宙を掻く。
もはや魔術すら打つ余裕がないらしい。
俺は一切の容赦をせず、ウイルスを浴びせながら丹念に破壊行動を繰り返す。
>症状を発現【異物耐性Ⅰ】
>症状を発現【思考加速Ⅰ】
>症状を発現【肉体操縦Ⅰ】
そうしてゴーレムの顔面が削れてコアが露出した頃、ようやく肉体が奪える感覚が伝わった。
すぐさま俺は意識を移す。
一瞬のブラックアウトを経て、視界が切り替わった。
俺は錆び付いたように動かない肉体に鞭を打って、苦労しながらもなんとか上体を起こす。
その際、上半身しかない羽の生えたホブゴブリンの死体が地面に転がり落ちる。
>特性を発現【支配Ⅱ】
>症状を発現【迷宮輪廻Ⅰ】
ぼやけた視界の中、少し向こうで魔術行使の準備をするエルフの美女と、こちらに突撃してきそうなエレナを発見する。
彼女たちは状況が分かっていないのだろう。
当たり前だ。
傍目には変化を追えないはずなのだから。
故に俺は切断された腕を上げて大声を上げる。
「待ってくれ。もう大丈夫だ。攻撃するな」
エルフの美女は怪訝な表情で困惑する。
それでも止まってくれる辺り、彼女の優しさが垣間見えた。
「どういうことだ……?」
俺の能力を話しているエレナは、事情を察して構えを解く。
「なるほど、そういうことですか……」
ひとまず止まってくれた二人を見て、俺は安堵する。
――こうして俺は、ダンジョン最強の魔物であるゴーレムロードの肉体を手に入れたのであった。
途中、【魔鋼装甲Ⅰ】をコーティングした爪に【感電Ⅰ】による電撃を付与する。
【術式理解Ⅰ】によると、電撃を打ち込めばゴーレムの内部構造を損傷させられるそうだ。
これだけでは致命傷にならないしすぐに復活するだろうが、回復の分だけ魔力を余計に消費させることができる。
加えて爪の先端には俺の血液を伝わせてあった。
これでさらなる感染を見込めるだろう。
隣をエレナが並走する。
彼女は剣を後ろに引き、盾を前に突き出した姿勢だ。
強化された肉体を完全に使いこなしている。
ゴーレムは敵が増えたことにリアクションを見せなかった。
相変わらずの無表情で当然のように水の弾丸を飛ばしてくる。
回避しようとしたところ、前方に不可視の壁が出現した。
風属性の魔術による防御である。
たぶん背後にいるエルフの美女が発動してくれたのだろう。
絶妙なタイミングだ。
俺たちは減速せずにゴーレムの懐に跳び込む。
ゴーレムは左右の腕から伸びた隠し刃を高速で振るってきた。
エレナは剣と盾を駆使してガードする。
そのまま押し込む勢いだ。
「パラジットさん!」
こちらに視線をやって叫ぶエレナ。
俺は無言で頷くことで応え、酸で焼いたゴーレムの片脚に爪を叩き付ける。
びきり、と大きな亀裂が走ってゴーレムが片膝を突いた。
>症状を発現【魔力刃Ⅰ】
>症状を発現【魔術中和Ⅰ】
>症状を発現【見切りⅡ】
>症状を発現【支配耐性Ⅱ】
>症状を発現【魔術耐性Ⅱ】
どれも使えそうな症状なのですぐさま発症させる。
【魔力刃Ⅰ】は爪に纏わせた。
切れ味が増すようなので期待だ。
「今度は、私の番ですッ!」
ゴーレムを押さえ付けるエレナが盾を振りかぶる。
盾で殴り付けるつもりらしい。
俺はゴーレムに仕込んだウイルスが消えないうちに【打撃脆弱Ⅰ】を発症させる。
間を置かず、エレナの盾がゴーレムの顔面に炸裂した。
甲高い金属音を伴って、端正なゴーレムの頬が陥没する。
勢いのままに首が一回転した。
そこでウイルスが消されて症状の効果が切れる。
ゴーレムは辛うじて首がねじ切れずに済んでいた。
奴はエレナを突き飛ばしてレーザー光線で追撃のそぶりを見せる。
(そうはさせるか……!)
俺はゴーレムの半壊した片脚を爪で薙ぐ。
ついに片脚が切断された。
体勢を崩したゴーレムのレーザー光線は、軌道が逸れてあえなく天井に穴を開ける。
>症状を発現【高速演算Ⅰ】
>症状を発現【並列思考Ⅰ】
ゴーレムは片脚で地面を蹴って器用にこちらへ突進してきた。
身体を翻して隠し刃で斬りかかってくる。
俺は爪で弾いてやり過ごす。
反撃に【酸液分泌Ⅱ】で特製シャワーを浴びせてやった。
強酸を頭から被ったゴーレムは、凄まじい量の白煙を上げながら動きを鈍らせる。
>症状を発現【戦闘本能Ⅰ】
>症状を発現【肉体制御Ⅰ】
>症状を発現【情報還元Ⅰ】
片足立ちでふらつくゴーレム。
そこへ無数の風の刃が襲いかかる。
エルフの美女による遠距離魔術のようだ。
俺は咄嗟の判断でゴーレムに【魔術脆弱Ⅰ】を発症させる。
風の刃はゴーレムの胴体を深く抉り、さらには両腕を半ばほどで切り飛ばした。
ついにゴーレムは堪らず倒れる。
畳みかける攻撃によって相当なダメージが蓄積していた。
機能修復を試みているようだが、魔力が足りず滞っている。
体内に仕込まれた術式の大半が満足に働いていない状態だった。
(――やるなら、今しかないな!)
これ以上やるとゴーレムが死んでしまう。
そう判断した俺は、倒れたゴーレムに跳びかかる。
肉薄する俺に対して、ゴーレムは仰向けになってレーザー光線を放ってきた。
苦し紛れだが込められた魔力は最大出力に近い。
そして、空中にいる俺には咄嗟に避けることもできなかった。
下半身が消し飛び、視界の右半分が黒くなる。
頭部をレーザー光線で貫かれたのだと理解した。
瀕死の癖になかなかの反撃だ。
しかし、これくらいでは死なない。
俺は構わず【蝙蝠羽根Ⅰ】【魔力飛行Ⅰ】を発症した。
飛行能力と慣性を利用してゴーレムの上に着地して拘束する。
その際、レーザー光線で破損した肉体から零れた血肉がゴーレムに降りかかる。
>症状を発現【学習Ⅰ】
>症状を発現【無感情Ⅰ】
>症状を発現【精神耐性Ⅰ】
ゴーレムの髪を掴み、何度も石畳に頭を叩き付ける。
そのたびにゴーレムの顔面が変形していった。
手がない二本の腕が、俺を止めようと虚しく宙を掻く。
もはや魔術すら打つ余裕がないらしい。
俺は一切の容赦をせず、ウイルスを浴びせながら丹念に破壊行動を繰り返す。
>症状を発現【異物耐性Ⅰ】
>症状を発現【思考加速Ⅰ】
>症状を発現【肉体操縦Ⅰ】
そうしてゴーレムの顔面が削れてコアが露出した頃、ようやく肉体が奪える感覚が伝わった。
すぐさま俺は意識を移す。
一瞬のブラックアウトを経て、視界が切り替わった。
俺は錆び付いたように動かない肉体に鞭を打って、苦労しながらもなんとか上体を起こす。
その際、上半身しかない羽の生えたホブゴブリンの死体が地面に転がり落ちる。
>特性を発現【支配Ⅱ】
>症状を発現【迷宮輪廻Ⅰ】
ぼやけた視界の中、少し向こうで魔術行使の準備をするエルフの美女と、こちらに突撃してきそうなエレナを発見する。
彼女たちは状況が分かっていないのだろう。
当たり前だ。
傍目には変化を追えないはずなのだから。
故に俺は切断された腕を上げて大声を上げる。
「待ってくれ。もう大丈夫だ。攻撃するな」
エルフの美女は怪訝な表情で困惑する。
それでも止まってくれる辺り、彼女の優しさが垣間見えた。
「どういうことだ……?」
俺の能力を話しているエレナは、事情を察して構えを解く。
「なるほど、そういうことですか……」
ひとまず止まってくれた二人を見て、俺は安堵する。
――こうして俺は、ダンジョン最強の魔物であるゴーレムロードの肉体を手に入れたのであった。