第25話 パーティ結成

文字数 2,065文字

 エレナから共同での依頼遂行をお願いされた。
 これはまた唐突な要望である。
 俺からすれば実に好都合な願いだけどね。
 どうやって話を切り出すか迷っていたところだったのだ。
 色々と考える手間が省けた。

 ただ、まずは理由を知りたい。
 エレナがそう頼むに至った経緯が分からなかったのだ。
 いくら助けたと言っても、感謝と礼を受けて終了するのが普通だと思う。
 いきなり諸々の手順をすっ飛ばしてきたので、ちょっと驚いていた。

 そういった心情を隠し、俺は何食わぬ調子でエレナに尋ねる。

「くわ、しく……は、なし、を、きき…たイ」

「私は少し前に冒険者になったばかりなのですが、自分の弱さに悩んでいます。畑仕事が得意だったので体力や腕力には自信があったんですけどね……冒険者の中では人並み以下でした」

「ぼ、うけ、んしゃ、は……くっきょう、な、おとこ、ば、かり、だか、らナ」

「その通りです。弱いせいで誰も仲間に誘ってくれません。足を引っ張るのが分かっているので、私からもお願いしにくいですし……。声をかけてくるのは、さっきみたいに嫌な感じの人たちばかりです」

 エレナは悲しそうに語る。

 狼の時にも聞いた話だが、実際にその扱いを目にすると大変さが分かる。
 いっそ他の街に行けばいいのではと思ったが、エレナの実力という根本的な問題が解決しなければまた同じトラブルが起きるだけだろう。

「そんな中、パラジットさんは助けてくれました。とても優しくて強いです。出会ったばかりの上、助けてもらった身で頼むのは失礼だと分かっています。でも、一度だけでいいので、迷惑でなければ戦う術を教えてほしいです!」

 そう言ってエレナは深々と頭を下げた。
 真っ直ぐな熱意。
 ひたむきで好感が持てる。

 だからこそ、俺は困っていた。

(戦う術と言っても、俺はウイルス能力に頼っているだけなのだが……)

 純粋なテクニックという面では、下手をするとエレナに劣る可能性だってあるくらいだ。
 異世界に来て日が浅いからね。
 こんなことなら何かしらの武術でも習っておくべきだったか。

 前世のインドアな生活を振り返りながら、俺はエレナに確認をする。

「いっしょ、に、いらい、をうけ、る……のは、かま、わなイ。ただ……お、れ、は、ぎじゅ、つ……がな、イ。まじゅ、つだよ……り、なんダ」

「それでもいいんです! ソロでは魔物討伐もなかなかできないので、一緒に戦ってくださるだけでありがたいです」

 確かエレナは、三体のゴブリンを相手に苦戦していた。
 そのくらいの実力だと迂闊な真似もできないもんな。

 本来なら仲間がいてカバーしてくれるのだろうが、彼女の場合はそれも望めない。
 結果として実力が身に付かず、こうしてソロ活動を強いられている。
 まさに悪循環であった。

 エレナの不憫さを哀れみつつ、俺は口を開く。

「そ、ういう……こと、なら……よろ、こ、んで、う、けよウ。お、れも……だれ、かいれば……たすか、る、とお、もって、いたん、ダ」

「パラジットさん……ありがとうございます!」

 嬉しそうに涙を滲ませるエレナ。
 彼女は腕で顔を拭うと、勢いよくメニュー表を手に取って俺に見せてきた。

「さぁ、パラジットさん! 何でも好きな物を注文してくださいね! ここは私が奢らせていただきますので!」

 そう言ってエレナ自身も真剣に料理を選び始める。
 男たちから助けたお礼ということか。
 すっかり忘れていたよ。
 こちらが勝手に助けたのだから気にしなくていいのに。

 とは言え、ここで彼女の善意を断るのも憚られる。
 せっかくなのでお言葉に甘えようか。

 呼び付けたウェイターにエレナは日替わりの定食を、俺は持ち運びできるような具を挟んだサンドイッチのもどきのパンを頼む。

 頼んだ分は持ち帰って後でこっそり食べるつもりだ。
 顔を晒すわけにはいかないからね。
 ホブゴブリンであることがバレてしまう。
 街中で発覚すれば、即座に殺されてしまうだろう。

 エレナは不思議そうに俺を見た。

「その兜は取らないのですか?」

「ひど、い、けがを、し、てい……ル。こ、の……しゃべ、りか、たもそ、のせ……いダ」

「そうだったのですか……言いづらいことを訊いてすみません」

 しょんぼりと肩を落とすエレナに、俺は首を横に振って否定する。

「べ、つに……きにし、てい、なイ。あや、まら、なく……て、いイ」

「やっぱりパラジットさんは優しいですね……ありがとうございます」

 それからほどなくして注文した料理が届いた。
 エレナの定食は肉とサラダとパンとスープのセットで、素朴な感じだがなかなか旨そうだ。
 正直、そこそこ空腹なので同じものを食べたかったよ。

(ホブゴブリンでなければ、堂々と食事できるのに……)

 できたてのサンドイッチもどきを仕舞いつつ、俺は改めて人間になりたいと思った。
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