第23話 感染の一手
文字数 2,049文字
俺の言葉を受けた三人の男たちは、きょとんとした顔を見せた後にげらげらと笑いだした。
「おいおい、なんだそのブサイクな声!」
「はっはっはっは! こいつは傑作だぜぇ!」
「何て言ったか分からなかったなぁ? もう一度言ってくれよ」
次々とぶつけられる嘲りの言葉。
その一つひとつがこちらの神経を無遠慮に逆撫でしてくる。
なかなかに煽り力が高い。
挨拶としては些か褒められたものではないね。
(まったく、救いようがない連中だなぁ……)
俺は小さくため息を漏らす。
呆れるあまり反論もできない。
こちらはできる限り事を荒立てないようにしているというのに。
どうしてその気持ちを踏み躙るのか。
これは同情の余地もない。
心置きなく能力を使えるね。
俺はウイルスを吐き散らして、目の前の男たちに感染させた。
>症状を発現【大力Ⅰ】
>症状を発現【身体強化Ⅰ】
>症状を発現【防御Ⅰ】
>症状を発現【奇襲Ⅰ】
>症状を発現【射撃Ⅰ】
>症状を発現【視力強化Ⅰ】
>症状を発現【拡大視Ⅰ】
>症状を発現【火魔術適性Ⅰ】
>症状を発現【魔力増強Ⅰ】
>症状を発現【魔力操作Ⅰ】
>症状を発現【魔力感知Ⅰ】
キャリアになった男たちだが、特にリアクションはない。
まあ、気付くわけもないか。
あえて症状のない無害な状態にしたのだから、察知されたら逆に驚く。
取得した新規スキルについてはまた後でじっくりと確認しよう。
なかなか有用そうなものが揃っているようだし、ひとまずは感謝しなくてはいけない。
「あ、あの……」
「だいじょ、うぶ……ダ。ま、かせてく……レ」
背後のエレナが何か言おうとしたが、今は静かにしておいてもらう。
その方がスムーズに事が運ぶと思ったからだ。
震える彼女の手を一瞥しつつ、俺は前に向き直る。
一方、周囲の冒険者たちは盛り上がっていた。
酒の肴になるとでも思われているのかもしれない。
まったく、見せ物じゃないというのに。
中には俺が気の毒だという声も多かった。
「よりによって"大力"のガジルに歯向かうとは……」
「他の連中だって強い。駆け出しが口応えする奴らじゃないのは確かだ」
「あいつ、終わったな」
なるほど、男たちはそれなりに名の知れた冒険者らしい。
確かに症状も戦闘用のものばかりで、なんとなく察しが付く。
実力者揃いなのかもしれない。
人格が伴っていないのが非常に残念だ。
(さて、どうするかな……)
こちらを睨んでくる男たちを観察しつつ、俺は考えを巡らせる。
既にウイルスは感染させた。
彼らの生死与奪の権利は握っているも同然。
どうとでもできる。
(あとは如何にしてこの場を収めるかだが……)
最善なのは暴力に頼らずに解決することだ。
それに越したことはあるまい。
街中で揉め事を起こせば問題になる、という懸念もあった。
できれば、不用意に目立ちたくないんだよね。
そこから魔物だと発覚する恐れがある。
せっかく冒険者になってエレナとも再会できたのに、それらをやり直すのは面倒だった。
しかし、相手はこちらの事情など関係ないらしい。
男たちはあろうことか拳を構え、じりじりと距離を詰めてきた。
「謝るなら今のうちだぜ」
「お、れ……はわる、く、なイ。おま、えたち、が……こ、のこ、に……あやま、レ」
「なんだとこの野郎ッ」
他意のない返しは火に油を注いだようで、顔を真っ赤にした男たちが一斉に殴りかかってきた。
その瞬間、俺は男たちに感染させたウイルスの性質を変化させる。
症状が一気に噴出し、彼らは糸が切れた人形のように崩れ落ちる。
「なっ、うぁ……!?」
「ぐぇ、ぐぅっ……」
「うぃ……あ、あぁ……」
発症させたのは【衰弱Ⅰ】と【筋肉弛緩Ⅰ】だけだから、致死性は低い。
それでも自力で動くのは不可能だろう。
俺は彼らを見下ろしながら淡々と皮肉る。
「い、まは……お、まえ、たちの……ほ、うが、ぶさい、くな、こえ……ダ」
そして、無防備な男たちを逆に殴り倒して昏倒させる。
気を失わせたところで症状も解いておいた。
(まあ、これが妥当な落としどころかな)
複数人の男に因縁を付けられて殴られそうになり、思わず反撃した。
うん、立派な正当防衛である。
何ら問題なかろう。
気が付けば室内は静寂に包まれていた。
見渡せば、驚愕の表情を浮かべる面々ばかり。
予想だにしない展開だったらしい。
勢い余ってウイルスによる弱体化を使ってしまったが、やってしまったものは仕方ない。
ファンタジーな世界だし、そういう不思議な術だと勘違いしてもらえることを祈っておこう。
取得済みの症状の中には魔力や魔術といった言葉が散見されるので、別に厳しい希望でもない……と思いたい。
「おいおい、なんだそのブサイクな声!」
「はっはっはっは! こいつは傑作だぜぇ!」
「何て言ったか分からなかったなぁ? もう一度言ってくれよ」
次々とぶつけられる嘲りの言葉。
その一つひとつがこちらの神経を無遠慮に逆撫でしてくる。
なかなかに煽り力が高い。
挨拶としては些か褒められたものではないね。
(まったく、救いようがない連中だなぁ……)
俺は小さくため息を漏らす。
呆れるあまり反論もできない。
こちらはできる限り事を荒立てないようにしているというのに。
どうしてその気持ちを踏み躙るのか。
これは同情の余地もない。
心置きなく能力を使えるね。
俺はウイルスを吐き散らして、目の前の男たちに感染させた。
>症状を発現【大力Ⅰ】
>症状を発現【身体強化Ⅰ】
>症状を発現【防御Ⅰ】
>症状を発現【奇襲Ⅰ】
>症状を発現【射撃Ⅰ】
>症状を発現【視力強化Ⅰ】
>症状を発現【拡大視Ⅰ】
>症状を発現【火魔術適性Ⅰ】
>症状を発現【魔力増強Ⅰ】
>症状を発現【魔力操作Ⅰ】
>症状を発現【魔力感知Ⅰ】
キャリアになった男たちだが、特にリアクションはない。
まあ、気付くわけもないか。
あえて症状のない無害な状態にしたのだから、察知されたら逆に驚く。
取得した新規スキルについてはまた後でじっくりと確認しよう。
なかなか有用そうなものが揃っているようだし、ひとまずは感謝しなくてはいけない。
「あ、あの……」
「だいじょ、うぶ……ダ。ま、かせてく……レ」
背後のエレナが何か言おうとしたが、今は静かにしておいてもらう。
その方がスムーズに事が運ぶと思ったからだ。
震える彼女の手を一瞥しつつ、俺は前に向き直る。
一方、周囲の冒険者たちは盛り上がっていた。
酒の肴になるとでも思われているのかもしれない。
まったく、見せ物じゃないというのに。
中には俺が気の毒だという声も多かった。
「よりによって"大力"のガジルに歯向かうとは……」
「他の連中だって強い。駆け出しが口応えする奴らじゃないのは確かだ」
「あいつ、終わったな」
なるほど、男たちはそれなりに名の知れた冒険者らしい。
確かに症状も戦闘用のものばかりで、なんとなく察しが付く。
実力者揃いなのかもしれない。
人格が伴っていないのが非常に残念だ。
(さて、どうするかな……)
こちらを睨んでくる男たちを観察しつつ、俺は考えを巡らせる。
既にウイルスは感染させた。
彼らの生死与奪の権利は握っているも同然。
どうとでもできる。
(あとは如何にしてこの場を収めるかだが……)
最善なのは暴力に頼らずに解決することだ。
それに越したことはあるまい。
街中で揉め事を起こせば問題になる、という懸念もあった。
できれば、不用意に目立ちたくないんだよね。
そこから魔物だと発覚する恐れがある。
せっかく冒険者になってエレナとも再会できたのに、それらをやり直すのは面倒だった。
しかし、相手はこちらの事情など関係ないらしい。
男たちはあろうことか拳を構え、じりじりと距離を詰めてきた。
「謝るなら今のうちだぜ」
「お、れ……はわる、く、なイ。おま、えたち、が……こ、のこ、に……あやま、レ」
「なんだとこの野郎ッ」
他意のない返しは火に油を注いだようで、顔を真っ赤にした男たちが一斉に殴りかかってきた。
その瞬間、俺は男たちに感染させたウイルスの性質を変化させる。
症状が一気に噴出し、彼らは糸が切れた人形のように崩れ落ちる。
「なっ、うぁ……!?」
「ぐぇ、ぐぅっ……」
「うぃ……あ、あぁ……」
発症させたのは【衰弱Ⅰ】と【筋肉弛緩Ⅰ】だけだから、致死性は低い。
それでも自力で動くのは不可能だろう。
俺は彼らを見下ろしながら淡々と皮肉る。
「い、まは……お、まえ、たちの……ほ、うが、ぶさい、くな、こえ……ダ」
そして、無防備な男たちを逆に殴り倒して昏倒させる。
気を失わせたところで症状も解いておいた。
(まあ、これが妥当な落としどころかな)
複数人の男に因縁を付けられて殴られそうになり、思わず反撃した。
うん、立派な正当防衛である。
何ら問題なかろう。
気が付けば室内は静寂に包まれていた。
見渡せば、驚愕の表情を浮かべる面々ばかり。
予想だにしない展開だったらしい。
勢い余ってウイルスによる弱体化を使ってしまったが、やってしまったものは仕方ない。
ファンタジーな世界だし、そういう不思議な術だと勘違いしてもらえることを祈っておこう。
取得済みの症状の中には魔力や魔術といった言葉が散見されるので、別に厳しい希望でもない……と思いたい。