第34話 探索の始まり

文字数 2,235文字

 しばらく馬車に揺られていると、無事にダンジョンに到着した。
 道中で魔物の一体や二体くらいは出てくるかと思ったが杞憂だった。
 頻繁に利用されるような街道はきちんと魔物の駆除が徹底されているみたいだね。

 俺は尻をさすりながら馬車を降りる。
 しっかり舗装されていない道だったせいか結構な衝撃が来たのだ。
 耐えられないほどではないものの、あまり気分は良くない。
 帰り道も馬車を使うと思うと、ちょっとテンションが下がるレベルである。

「わっ、パラジットさん! ダンジョンですよ! ついに来ました!」

 一方、エレナはずっと元気だ。
 どこにそんな体力を持っているのかと問い質したいくらいである。
 ダンジョンに挑めることがそれだけ嬉しいのだろう。
 だからと言ってはしゃぎすぎな気もするが。

「入る前に、疲れないでくれ、よ」

「分かってますよ! 大丈夫です!」

 俺の注意にもエレナは即答する。
 まあ、本人がこう言っているのだから信じよう。
 こまめに休息を取れば問題ないと思う。

 ダンジョンは石造りの神殿のような建物だった。
 うっすらと苔が生えており、かなり昔の建造物であることを物語っている。

 エレナ曰く、これは地下遺跡型のダンジョンらしい。
 分類としてはメジャーなものだそうだ。
 確かに俺もダンジョンと言えば、暗い地下に続くイメージがある。

 ダンジョンの前にはいくつかの店が設けられていた。
 見れば探索に使いそうなアイテムを売っている。
 内部構造を記した地図もあった。

 なるほど、ここで最後の準備を整えるわけか。
 いちいち街まで戻って買い直すのも面倒だしね。
 まさに冒険者だけをターゲットにした商売というわけだ。

 とりあえず俺は安めの地図を購入した。
 今回はお試しなので、三階層までを記載したものだ。
 初挑戦だと伝えたところ、店主がオススメしてくれたのである。
 高額なものになってくると、詳細なメモがあったり多くの階層を網羅していたりするらしい。
 それらは今の俺たちの財布事情では手が届かないので見送りだ。
 自分たちでマッピングをすれば紙と筆記具の費用だけで事足りるが、ちょっと自信がなかった。
 こういうことはやはりプロの任せた方が良さそうだ。

(さらっと流しかけたけど、お試しレベルで三階層か……)

 地図を見た限り、一つひとつのフロアはそれなりの広さがある。
 ダンジョンは結構な規模らしい。

 地図屋曰く、三階層までは本当に初心者向けのエリアだとか。
 慣れた者はさらに深くまで潜ったり、或いはもっと高難度のダンジョンを利用するらしい。

 いずれ俺も挑戦してみようかな。
 様々なギミックがあるようだし、内部の魔物に感染を広めればその分だけ強くなれる。
 なんだかワクワクしてくるね。
 テーマパークに行く時のような何とも言えない期待が湧いてくる。

 まあ、それはそれとして。
 今は目の前のダンジョンに集中しよう。
 きちんとエレナのサポートに回らなければ。
 張り切っていこうと思う。

 気合十分なエレナとダンジョンに踏み込むと、さっそくいくつもの分かれ道にぶつかる。
 ここからどんどん入り組んでいくのか。
 やはり地図がないと厄介だな。

 エレナは火を灯したカンテラを片手に、地図と実際の地形を見比べる。

「どの道を行っても問題ないみたいですが、下へ続く階段には真ん中の道がいいみたいです」

「なら、真ん中、にしよう」

 答えた俺は剣を構えてまっすぐに進む。
 背後のエレナをいつでも庇えるように意識はしておく。
 俺自身はいくら不意打ちを受けても大丈夫だからね。
 まあ、各主感知系の症状で気を配っているので、よほどのステルス性能を持っている奴でも出なければ問題あるまい。

 エレナが後ろだとカンテラの光が前方まで届きにくいが、俺には【夜目Ⅱ】があるので関係なかった。
 くっきりと先の方まで見えている。
 魔物から奪ってきた特性が地味に役立つな。
 今後のためにもさらにスキルを集めていきたいものだ。

 それにしてもここの通路は随分と狭苦しい。
 何とも言えない閉塞感がある。
 二人が並んで戦うのが難しいほどの幅なのだ。
 大型の武器しかなかったら苦労するところであった。

 しばらく何事もなく進んでいると【危険察知Ⅱ】と【魔力感知Ⅰ】が反応する。
 おっと、ついにお出ましらしい。
 果たしてどんな敵が出てくるのやら。
 若干の期待を抱きながら、俺は前方を見据える。

 かしゃかしゃと乾いた音を鳴らしてやってきたのは、一体の骸骨だった。
 斧を掲げたそいつは、存外に軽やかな足取りで接近してくる。
 ビジュアルは完全に白骨死体なのに、まるで生きているかのようだ。

「あ、あれはスケルトンです!」

 エレナは地図を仕舞い、カンテラを腰に吊るしながら剣を抜き放つ。
 かなり警戒している感じを見るに、手強い魔物なのだろうか。
 確かにツノウサギなんかと比べたら戦闘能力は相当に高そうだ。

(スケルトンか。こいつも有名モンスターだよなぁ……)

 さっそくダンジョンっぽくなってきた。
 こいつはワクワクしてくるね。
 なかなか幸先の良いスタートなんじゃないだろうか。

 カタカタとしきりに顎骨を鳴らすスケルトンを一瞥して、俺は剣を構えて突進する。
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