第13-2話「惚れてはダメな相手」 

文字数 1,863文字







 誉の泉の上の開拓地に集められた獣人たちは、やはりバツが悪そうだ。
 そんな中、早苗は宣言する。

「ここに首都をつくる。名前はWalden(ウォルデン)だ」

 自然が多いことから名付けた。
 もちろん産業革命を起こせば、ある程度環境は破壊されるが。

「僕とララ、ラルクはドワーフの勧誘に行く。その間、獣人の男性諸君は――」

 早苗は木の枝を拾い、地面に大きな四角を描く。
 メタンガスを作る為のバイオトイレ。さらに貯水池と、濾過池、配水池。
 そして冬に備えるため、スイス式の穀倉を描いた。

「木材と石灰岩も、同時に集めてほしい」

 かなりのスパルタだ。
 だが男たちは「わかりました!」と、文句のひとつも言わない。

「女性のみんなには、亜麻を集めてほしい」

 産業革命の第一歩、アークライトの水力紡績機に必要だった。

「……リネンの大量生産が可能になったら、女性や子供にでもできる、アースバッグ工法で、一気に居住区を作る」

 NASAが月や火星でも検討していた、未来の建造法だ。
 指示を全体に出した後、ララとラルクの元へ向かう。

「待たせた。ドワーフたち――技術者たちの勧誘に行こう」
「うン! ドワーフたちは、帝国とも小さな取引をしていて、皇族の鎧も作ってるから」
「皇族……あの()()()の鎧か」

 ずいぶんと立派な鎧だと覚えている。
 技術としてはルネサンス期相当だろう。

「必要な人材だ。僕には知識があっても、技術がない。行こう」



 その頃、噂の皇族、()()()サイウィンは――
 王国のはるか北、帝国のライカス牙城の私室で、ワインを嗜んでいた。

【……ああ、やっぱ酒と女は、熟年物が一番だ】

 掠れた声だった。
 ゴブレットを振るい、香りを楽しむサイウィン。
 ローブ一枚の彼がテーブルの上のベルを鳴らすと、すぐに部屋がノックされる。

『サイウィン様』

 ひとりの少女が顔を出す。
 幼い。まだ12歳ぐらいだろう。

『お呼びでしょうか?』
【プチよ。女を呼びなさい】
『女ならここにいますが?』

 はぁぁぁ、とサイウィンが深いため息をついた。
 プチ(プリチア)は、サイウィンの騎士の従者(スクワイア)で、甲冑を着せたり、身の回りの世話をするのが役目だ。
 戦場で親を失った彼女を、なんとなく引き取ってはみたが……

【……プチよ。メスガキを女とは言わないぞ】
『私はもう生理が来ています。女です』
【はぁ、お前みたいなチビに、俺様のツーハンデッドソードが収まるわけがないだろ。はやく女を呼びなさい】
『サイウィン様のは、私にも十分に入りますかと』

 サイウィンは静かにクロスボウに手を伸ばすと、少女はダッシュで女を呼びに行った。

【こんなメスガキだと知ってれば、拾わなかったのに……】

 まぁ、プチの前のスクワイアは、この顔を見る度に畏縮していたし……
 一切怖がらないプチは、慣れさえすれば親しみやすい。
 と、ドアがノックされる。

『サイウィン様。準備しました。6人です』
【ちゃんとやったか?】
『はい。全員、目隠しをしています』

 プチがドアを開ける。下着姿の女性たちの手を引き、部屋の中に入った。



【ほう、絶景だ】
『――ウソ、この枯れた声、まさかサイウィン皇子!?』
『うっそぉ! 素敵な声、痺れちゃう♡』

 サイウィンは呆れ顔でプチを見た。

【今喋った2人はアウトだ。俺はベッドの外では、静かな女が好きだ】

 プチに2人が連れていかれ、残りが4人に。

【今日は金髪の気分じゃないから、一番右の子もアウト。真ん中の子も胸が小さいからアウトだ。俺は巨乳が好きなんだ】

 残った2人を楽しもう、とベッドに呼ぶ。

『選んでくれるなんて嬉しい……!』
『ねぇ、サイウィン様。お顔が見たいわ♡』
【あはは、ダメだ。目隠しを取ったら死刑な】

 笑うサイウィンに対し、女たちは一瞬、ひきつった顔を見せた。

【ああ、プチ。ドアを閉めろ。終わったらベルを鳴らす。俺は長いからな】
『……サイウィン様。もうじき、ナイフエッジの王国兵たちが、このライカス城を攻めてきます』
【だからこそ、今楽しまないとダメなんだ】
『しかし……』

 煮え切らないプチの元へ、サイウィンはゆっくりと向かった。

【……準備しても、意味ないんだよ】
『サイウィン様……』
皇帝(オヤジ)は俺の意見なんか聞きはしない】

 深刻な顔で言われる。
 プチは――下を凝視していた。

『……やっぱり、頑張れば私にも入ると思うのですが、試してはどうでしょう?』

 強くドアを閉めるサイウィン。
 さぁ、楽しもうか、という彼の声と共に、女たちの喜びの声が響いてきた。



『はぁ、嫉妬しちゃうな……』

 そう言ったプチリアは、ドアの前で悲しそうに座り込んだ。





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