第10-4話 4回目(死)の救済

文字数 1,436文字








 まだ、ララを助ける方法は残っている。
 その方法は……

「僕が死ねばいいんだ」

 それが残されたたった一つの方法。

「救世主様……?」

 ラルクを無視する。
 そして銀のL字チューブを二つ。さらにI字のチューブを一つ、熱湯で消毒した。

 ララを救うには、かなりの輸血量が必要だ。
 この処置の後、僕は生きていないだろう。それでもいい。

「……ララ。君がいない世界なんて、もう考えられない」

 心菜に怒られるかな、と考える。
 自分の命を優先しろ、前世と同じミスをするな、と言われていた……
 早苗はララの血液を試験管にいれ、自分の血と混ぜた。

(……僕の血液型は、O型)
 ほぼ誰にでも輸血できる。でも、ABO式血液型だけでは不安だ。
 本来であれば不規則抗体のチェックも行わないと……

(……病み上がりの僕の血に、病原菌が潜んでいるリスクもある)
 血を混ぜて、5分が経過した。
 早苗は顕微鏡を取り出し、血液が凝固していないかを確認する。

「……大丈夫だ。輸血できる」
 その後、上腕を駆血帯(ひも)で縛った。

「救世主様、なにを……」

 早苗は自分の腕を消毒すると、細いL字チューブを、肘正中皮静脈に刺した。
 原始的な針でも、確保しやすい場所だ。
 さらに多少、空気が入っても問題ない。

「な、なんだ……何かの儀式か……」
「黒魔術じゃないのか……」

 獣人たちの声は聞こえない。
 すぐにL字チューブから、自分の血が溢れるのを確認した。
 ララの静脈に、二つ目のチューブを刺す。
 彼女の血が、チューブ越しに弱く出た。
 それを確認してから、自分の腕を、ララの腕のすぐ上に挙げる。

「……ララ、ずっと好きだった。もし失敗したら、一緒に次の世界で会おう」

 そして自分のチューブとララのチューブを、I字チューブでつないだ。
 空気が入らないように、慎重に。
 二つがつながる。
 重力で早苗の血が、ゆっくりとララの静脈に流れていった。

「これは一体……」
「直接輸血する、人類最古の輸血方法」



 クレンメはない。
 輸血速度の調節などせず、急速に輸血を行う。
 きっと僕は死ぬだろう。

(……ララには、生きていてほしいな)

 溶血は起きないはず。
 輸血関連肺障害や、輸血後移植片宿主病は起こりえるが……

 手が冷たくなるのを感じた。

(……僕の体内には、およそ4.74リットルの血がある)

 1リットルも輸血した頃には、意識は消えているだろう。
 自分が倒れた後の処置方法をラルクに説明する。
 それから何分経っただろうか……

(……目眩がしてきた)

 血圧低下の症状だ。
 ララを抱えながら、意識が消えないように耐える。
 次第に動悸と、息切れも発生してくる。

(……だが、まだだ)

 最初の15分は、きちんと容体を見ないと。
 待って、耐えて、耐えて……

(もう、20分以上は経ったよな……)

 じきに2リットルの血を失い、自分は死ぬ。
 不思議だった。
 あれだけ死にたくない、やり残したことを続けたい、と思っていたのに……
 今は、もういいや、と思っている。

 ララが助かったら、僕の亡骸を見て悲しむだろうか……
 本当は、お互い生きている未来が良かった。

「………」

 静かに目をつむる。
 痺れた右手で、彼女の頭を撫でてやった。



 意識を失った後も輸血され続けるよう、獣人の1人に、左腕を持ち続けるように指示する。

(もっと素直だったら……)

 僕はきっと、選択肢を間違えたのだろう。
 もっとはやく、気持ちを伝えるべきだった。

 ララ。さようなら……


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み