第17-4話「神の裁き」 

文字数 1,282文字







 公国の私兵団が、島に進軍するまで、あと1日。
 早苗はリネンの布を口に巻いて、マスクにしていた。

「テスト6」

 細長い棒の先に火をつけ、テーブルの上のコットンに近づける。
 瞬間、フォン! と火が燃え上がった。

「完成だ。無煙火薬。ニトロセルロース」

 別名、ガンコットン。
 近代の火薬だ。21世紀でも、拳銃やアサルトライフルに使われる。

「……ニトロセルロースはいずれ」
 戦艦や戦車の主砲の、トリプルベース火薬にもなる。

「す、凄い。爆発した。しかも魔法と違って、煙すら出ない…!」

 ラーサが、目を丸くする。
 昨日からララを含め、3人で土を沸騰し、濾過し、乾かし――硝酸を摘出するのを繰り返した。
 と、完璧なタイミングでグレイが来る。

「おい兄ちゃん。鉛のカップ、20個ほどできたぜ」
「ミニエー弾だな。見せてくれ」

 早苗が鉛の銃弾を見て、頷いている。

「完璧だ。紙は?」
「もうあるぜ。兄ちゃんが提案した、植物繊維を煮込んだ後、水力で叩き続ける機械でな」
「……荒いな」

 前世の紙に比べれば雑だが、それでも使えるレベルだ。

「まさか紙が、こんなに簡単に大量生産できちまうなんて。末恐ろしいぜ……」
「……この紙を筒にして」
「いや、聞いてないのかよ! 兄ちゃんは、もう王なんてレベルじゃないぜ……」

 顔を引きつらせながら、グレイが続ける。

「このままだと本当に、この世界の神になっちまうぞ」
「……グレイ。残念だが、凄いのは僕ではなく、これを発明した先人たちだ」

 早苗は紙を筒にして、紐で結んだ。
 そしてミニエー弾を中に入れ、火薬を加え、縛る。

「これで一発分の実包が完成だ。あとはギガの銃身待ちだな」

 と言って、早苗は外に出る。

「早苗さま、どこ行くノ?」
「ララ。来るかい?」

 数分後には、川に接近した水車小屋にたどり着いた。

「……本当は、いやだった」
「エ?」
「この武器は、使いたくなかったんだ……」




「早苗さま、どういウ――」
「現代でも子供を含め、人を殺し続けている、最悪の兵器だ。終戦しようが関係なしに」

 小屋のドアを開くと、水車の動力で激しく回る歯車がある。

「これハ――」
「発電機」

 しょうがないことなんだ……
 これはララたちを守るためだと、自分を納得させる。

(……大丈夫。僕が全て記憶して、あとから対処すればいい)

 そして電気で、その()()()()()を作り始める。
 ララは何も聞かず、ただ隣で手伝ってくれていた。



 早苗たちが、必要なソレの量を作り終えた時には、夕方になる。
 静かに街を歩いていた。そして守るべき人たちの姿をながめる。

「……子供が、多いな」

 獣人の女子供たちは、笑顔で楽しそうに、アースバッグの家を作っていた。

「早苗さま。家、いっぱい建ったネ」
「そうだね。やっと全住民が、満足に暮らせる住宅地が出来た」

 大量生産したリネンの袋に、砂を詰めて積み上げる。
 そしてモルタルで固めて完成させた家。

「魔術師たちに放火されても燃えない、アースバッグの家だ」
 戦争の準備は整っていた。

「……必ず守って見せる」
 僕は亜人たちの、王なのだから。

 公国兵たちの進軍までのタイムリミット、あと1日。

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