第14-3話「全ては愛する人の為に」

文字数 1,384文字







「それじゃあ、坊主。先に首都、ウォルデンとやらに行ってくるぜ」

 ギガの後に、グレイが続いた。

「ワシも移住希望だ。よろしくな、兄ちゃん」
「ああ、よろしく。エルフを勧誘した後、すぐにそっちに向かう」

 そして早苗たちは、エルフの森へ向かった。
 アルフォ王と取り付けた交渉内容は、土と鉱石数トンとの引き換えに、紙の製造法と完成した重火器を100丁提供――
 生産ラインに必要な資源だった。

「しかし3万人中、たったの100人のドワーフが移住か……」
「いえ、閣下。これで総人口が160人になります」
「うン! あと、エルフの森だけド……」

 落ち着かない様子のララに聞く。

「エルフは狩猟採取民族で、器用で視力が高いんだよね?」
「うん。70歳まで生きる人もいて、長生き。文字も読める人も多イ」

 ちなみに、王国人の平均寿命は31歳、獣人は22歳ぐらいらしい。

「ならエルフは、化学方面に適していると考えたんだが……」

 でも、と不安そうにララ。

「......エルフは好戦的で、他の種族を見下している。本当ならもっと兵を連れていくべきだと思ウ」
「僕もそう思うけど、時間がない」

 マンパワーを一切、無駄にできなかった。
 早苗は紙に筆を走らせる。

「それハ?」
「マニフェストだよ」

 つまり、国を発展させる方針だ。

「これを見せてもダメなら、キッパリ諦めて、撤退する」
「うん。1人、昔の知り合いのエルフがいるから、まずその人に会おウ」

 ララは不安ながらも、張り切っていた。
 「頭がいい子で、間違いなく協力してくれる」と彼女は言う。



 その頃、帝国領のライカス牙城では――

『サイウィン様。明日、王国兵たちがこの城を襲撃します』
【――わかっている、プチよ】

 ローブ一枚のサイウィンは、ただ、考え込んでいた。

【……斥候によると、王国兵は8000人。そして今城に滞在している俺の隊は5000人】

 負けている。
 だが皇帝(オヤジ)が追加で7000人の援軍を送っており、明日には合計1万2千人になる。
 もともと、攻城戦は防衛側が圧倒的に有利。さらに人数でも圧倒している……

【……王国よぉ、同情するぜ】
『サイウィン様は、無慈悲ですからね』
【俺が負けたら、この領地のねーちゃんたちが、王国兵どもに凌辱される。女と酒の為だ】

 そうして男は、グビグビとワインを飲んだ。

『帝国の英雄が、酒と女好きだとバレたら、みんなガッカリしますよ』
【……勝手に兜の下に、聖人がいると思ってる国民が悪い】

 言うと、12歳のプチリアが、頬を赤くして伝える。

『わ、私は好きですよ。サイウィン様のお顔』
【いいね。10年後、おっぱいがデカくなったら、また言ってくれ】
『……6歳で結婚する子もいるのに』

 上品にゴブレットのワインを飲み干したサイウィン。

【ガキの体に興味が無いんだ。やっぱ女は20代か、30代だ】
『30代って……棺桶に片足入ってますよ……』

 帝国人の寿命は、平均33歳だった。
 
【とにかく明日、王国兵たちを全員地獄に落とす】

 言って彼は、ワインを注ぐように命じた。

 しかしプチリアは、何を考えているのか。
 するりと、ローブを脱いだ。



『サイウィン様……』
【……なにを】
『見てください。これでも、ガキの体だと仰いますか……?』

 その少女が、ゆっくりとサイウィンの元へ歩みよる。

【……お、おい、メスガキ】

 サイウィンはそこで初めて、困惑したような声を出す。



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