第13-1話「The Ancients」

文字数 1,837文字







 土壌調査をしていた早苗たちは、苦戦していた。 
 未だに候補地を見つけられない。

「気候、食糧、防衛性。どこもあと一歩足りない……」

 ただ歩き続け、時間だけが過ぎている。
 次第に焦りが生まれた。

「閣下。防衛は、壁を作っては? 本土ではそうだと」
「あってるが、時間が足りない」

 それに文明を発展させるのが、最優先だと感じていた。

「……拠点は丘の上がいい。敵が進行しにくく、遠距離から一方的に仕留められる場所」

 早苗はハッとした。
 そしてこの前の、忌々しい誉の泉の上を指さす。

「あの滝の上は?」
「早苗さま。あそこは聖域だヨ」

 姉の声に、ラルクはばつが悪そうに言う。

「……言い伝えでは、あの場所には神が住んでいます。立ち入りはできません」
「誰も入ったことがない?」
「はい」
「つまりリスクはあるが、野生動物が豊富で、未発見の資源があるかもしれない」

「行こう」と早苗が歩き出す。
 ララがくすっと、弟に伝えた。

「大丈夫。その言い伝えに、救世主様がみんなを救うって書いてあったんだかラ」
「……そうだね、姉さん」

 そして、30分は歩いただろうか。
 滝の上の平地にたどり着く。
 ラルクが掘った土を見て、早苗は驚いた。

「土は粘土質。農業に適していて、健康な土壌だ……」
「早苗さま! 野生動物のフンがいくつかあったよ! 」
「川の水も飲めると思います、閣下」
「よし。周囲の資源は……」

 木も豊富で、附近の小山で、石灰岩(セメントの材料)も取れるように見えた。
 早苗は確信していた。



「ここを開拓し、国をつくる――」

 そしてエアルドネル初の銃を生み出し、敵を駆逐する。 

「次に作るのは、無煙火薬。ニトロセルロース(ガンコットン)だ」

 材料の硫酸、アルコール、エーテルはもうある。
 銃は騎士や兵士を、ただの動きが遅い的に変えた。
 その圧倒的な力をこの手に――

「……あと6日。急がないと」



 その頃、元激戦区の、王国のナイフエッジ付近では――
 マックスが、早苗とは別の軍隊を育てていた。



『馬が来る! お前たちこのポーズ! 動かない! 』

 へったくそな王国語だな、と兵士たちは思っていた。
 ただ口には出してない。

(……よし、訓練は進んでいる)

 マックスは歩きながら考える。
 帝国軍の強みは、高い機動力の騎兵たちだ。
 地形、陣形を駆使すれば、破るのは無理じゃない。

 と、小声が。

『本当かよ、こんなもので騎兵が止まるって』
『俺たちを捨て石にするための嘘だろ』

 瞬間、マックスはその方角目掛けて、電気を発した。
 ズゴ――ン、と地面から火花が。
 土ぼこりが舞う中、兵士たちは恐怖に戦慄した。

『お前たち、背中を見せて逃げる! 帝国の馬、止まらない!』

 軍隊の教官のようにつづけた。

『お前らはなんだ? 言え!』
『虫けらです!!』
『よし。駐屯地を20周!』
『はい!』

 近代の軍隊の教育法だった。
 自尊心を潰してから、リーダーとして命令を与える。
 じゃないと戦場で命令を無視して、使い物にならない。

『20秒走れ! そして10秒歩く! 繰り返す!!』
『タバタ式か』
『HEY、ウィル。どうした?』

 こいつがイギリス人だと知ったときは驚いた。
 振り向くと、ウィルフレッドはいい面持ちをしていない。

『リンが呼んでる。ここは俺が見るから、行ってやれ』
『……っ!! わかった』

 嫌な予感がしていた――
 マックスは馬に乗り、キャンプへ戻る。


『リン!』
『……マックス、さま』

 寝込んでいるリンは、まだ全快していない。
 早苗の手術は成功した。なのに何故まだ完治しない……

(……こんな駐屯地にいるのが、いけないんだ)

 なにせ、ここにはまともな食事や、薬草の一つもない。

『リン。エフレに帰って治療を受けた方が……』
『……いえ。私はここに』
『わかった。次の戦に勝てば、ナイフエッジの城を与えられる。小さいが、お前が城の(レディー)だ』
『……はい』
『エフレの医師団も招集する。城でちゃんと治療も受けられる。待ってくれな』

 顔色が悪いリンは、小さく頷いた。

『……マックス様。嬉しいです』
『愛してるんだ。当然だろ?』

 それを聞くと微笑み、口数の少ない彼女は目をつむった。

『……はぁ』

 マックスはテントを出ると、医者に一言残す。

『リンを頼む』
『承知いたしました。今ある資源でなんとかします』

 拳を震わせながら歩き出すマックス。
 必ず、勝つ。何があっても、手に入れる。
 敵を全てなぎ倒し、自分の領地も、愛する女も、この手に……

 マックスはそう、覚悟を決めて歩んでいった。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み