第14-2話「腕」

文字数 2,273文字







「ギガ殿!! その剣を収めろ!」
「ハァ? なんのことだ」

 ギガは黄ばんだ歯を出し、ラルクを笑った。
 そして誇らしげに早苗に剣を見せる。
 
「1400年後から来たんだろ。この剣をどう思う?」
「……見てみよう」

 受け取り、剣身を見る早苗。
 光り輝く刃と、重厚な柄が特徴的だ。

「素晴らしい金属加工技術だ」
「ちげぇよ! そうじゃない」とギガが続ける。

「この鉄がわからないのか!?」
「鋼鉄だな。王国には錬鉄しかなかったから、遥かに優れている。高炉は見当たらなかったから、るつぼで作ったのか?」

 ゾッとしたギガが、声を上げる。

「坊主、今なんて……」
「細かくした鋼を、るつぼに入れる方法で作ったのかと思ったんだが……」
「そ、そうか」

 数歩後ろに下がりながら、悔しそうにギガ。

「俺たちドワーフしか知らない製鉄方法だ。1400年後だったか? もし本当なら、未来だと普通なんだな」
「……いや。僕の世界じゃ鋼鉄は、高炉で大量生産してる」
「大量だと!?」

 ギガが声を上げ、疑いの目を向けた。

「そんな方法があるわけ――」
「高炉や溶鉱炉、酸素鋼を使った、未来の製鉄方法を教えてもいい。この世界なら、ベッセマー法がはやいか……」

 早苗はパッと計算する。

「今は鋼鉄を20キロ作るのに、2週間はかかけてるでしょ?」

 キログラム法を理解してないギガに、細かく説明した。

「ああ、大体あってる」
「僕が知る方法なら、15トンが20分で終わる」
「…………」

 ギガは無言で固まり、尻もちをつく。
 そして凍り付いて、黙りだした。
 その反応から、いかに過去の生産工程が大変だったかがわかる。

「おい、早苗とやら」
「グレイだったな」

 黒髪のドワーフはうなずいた。

「ワシは、アンタをまだ信用してない。その製造法が事実という証拠は?」
「実際に見せたいが、作るのに君たちの協力がいる」
「それだと証拠にならんぞ」
「そうだな」

 信頼を得るために、早苗は簡単に理論を説明した。

「鋼鉄を作るには、不純物を取り除かないといけない」

 そうして酸化還元反応を説明するが、ドワーフたちの反応は薄い。
 だがギガとグレイだけは、なんとなく理解してくれたようだ。
 細かく説明するたびに、2人の目が見開かれていく。

「………」
 ドワーフ王は、静かにララを見た。

「ラランサよ。我々の言い伝えには、いずれ救世主が現れると。この者がそうだと?」
「はい、アルフォさま」
「……サナエよ、なぜ亜人に手を貸す。貴様は人間だ」
「僕は王国に処刑されるところを、ララと脱獄しました」

 早苗は袋からある物を取り出す。

「今日は月がよく見えます」
「それは?」
「望遠鏡です。20倍、遠くのものが見えます」

 使用人に渡すと、王の手に渡る。
 覗きこんだアルフォ王は、興味深そうにしていた。
 恐らく特大ズームで、誰かの顔が映ったんだろう。

「アルファさま。その望遠鏡を使えば、月の表面も見えまス」
「……ふむ」
「差し上げます。敵の襲撃を察知するのにも使える」

 地球の歴史でも、別の文明と出会ったらまず手土産だ。
 王はグレイを見た。

「……どう思う?」
「正直、怪しいです。ですが――」

 グレイが神妙な面持ちで続ける。

「ワシは近いうちに、王国が、この洞窟を見つけると。その時が、我々の滅亡の危機です……」
「ギガ。お前は?」
「偽物でもかまわねぇ。俺は面白いものが好きだ!」

 静かに考える王に、早苗は提案する。

「二つお願いがあります。一つは、デミニアン国への移住を望むドワーフたちがいたら、許可をして欲しい。代わりに、希望の製造法をいくつか教えます」
「王よ! 俺は行くぜ!!」

 ギガが一歩前に出る。
 少なくともここに1人、移住希望者がいた。

「次に、デミニアン共和国とドワーフ国で、貿易関係を築きたい」
「……帝国とやっていることを、お主ともやれ、と?」
「いえ。小さな取引ではなく、お互いの国力を高める、継続的なものです」

 しかしアルフォ王は、そこで言葉を詰まらせた。

「……貿易によって、洞窟の場所がバレるのを恐れているので?」
「察しの通りだ」
「でば、防衛協定を結びましょう。侵攻されたら、デミニアン共和国は必ず守りに入ります」
「ふむ、面白い考え方だな」

 アルフォは、王座から立ちあがった。
 本来ならきっと、見知らぬ男の言葉なんて、無視しただろう。が――

「ギガとグレイに免じて、一度チャンスをやろう。何が必要だ」
「ありがとうございます。主に鉱石などです」

 アルフォはグレイに顔を向ける。

「はいよ。鉱石の備蓄場に案内します」

 ついてこい、と言われ、洞窟の奥へ。

 早苗たちは歩く。
 石灰岩でできた天井や壁が、幻想的な景色を作り出していた。
 と――

「……グレイ。変な臭いがするんだが」
「ああ、飼育場のせいだな」
「飼育場?」
「こいつだ」

 大部屋に案内される。
 一見、ただの広い部屋だがーー

「ニワトリ? こんなにも沢山……」
「数百年前から、ここで家畜を育ててるんだ。臭いのはこいつらのせいだ」
「なっ!? 信じられない……!」

 地面が、かすかにキラリと光った。
 早苗は言葉を失い、その土の元へ早歩きする。

「何やってるんだ、お前……」

 早苗は構わず、土に触れる。

「硝石の土だ……」

 信じられなかった。
 まさかここで、火薬の材料が見つかるとは。

「早苗さま、これっテ……」
「何百年分のニワトリのフンがここで、硝石になったんだ」

 立ち上がり、グレイを見る。

「最初に欲しい物が決まった。ここの土が欲しい」
「お前、趣味悪いな……」

 ドン引きされるが、構わなかった。
 これで火薬を作れば、エアルドネル初の銃に――


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