第12-4話「Killer Queen」 

文字数 1,661文字







 日が沈み、夜になっていた。
 早苗は獣人たちを1か所に集め、7日後に敵が侵攻しに来ることを伝えた。

「そんな……もうおしまいだ……」
「違う。共に、敵を撃退する」

 早苗は言うが、獣人たちに不安の視線を向けられる。

「僕の世界の武器を作り、君たちに与える。だがそれには、生産拠点が必要だ」

 パッと思いつく、定住地の基準は五つある。

 ① 半永続的な清潔な水(川の上流など)
 ② 肥えた土壌(ミミズの多さ等で確認)
 ③ 合理的で安定した気温
 ④ 資源へのアクセスしやすさ
 ⑤ 敵襲に気づきやすい高地

 それを聞いた獣人たちの多くが、誉の泉の周辺がいいと言っていた。

「……泉の周辺か。すぐに調査隊を編成して、調査に向かおう」

 ララとラルク、そして数人の獣人兵たちを、早苗は調査隊に加えた。
 そして調査に向かう。が、森林を歩いているそのとき――

「閣下。話が変わりますが……」
「どうした?」
「……本当に姉さんが、()()でよかったのですか?」

 小声で恐る恐る、ラルクは聞いてきた。

「ララは優秀だよ。問題ない」
「そうでしたか」

 嬉しい、のだろう。
 ラルクは微笑を隠して、先頭を歩いていった。



 その頃、王国の()()()、ゴルディは――
 王都エフレで、評議会を終わらせたばかりだった。

「ふふ、母上。大丈夫ですか?」
「……いえ。本当、頭が痛みますわ」

 王のオズソンは笑っているが、ゴルディは疲れ果てていた。
 今日も、ろくな話がなかった。
 属国の公国が、帝国と繋がっているかもしれない、ですって?

(……ネルソン公爵は確かに、野心や欲望が強い)

 だが彼とのパイプは、確かなものだ。裏切りなど考えられない。

「……公国は人口と土地に恵まれています。冬の食糧に問題が出ないか」
「所詮は属国。殺して奪えばいいのです」
「オズソン、いけません」

 貴族らしい考え方だが、被害が大きすぎた。

「母上、公国は軍隊すら持てない。脅威ではないでしょう」
「そうですね。ただ――」

 ゴルディは、静かに笑った。

「鎖は、つけなければ」
「母上?」
「余っている勇者を使うのです」

 ゴルディは専属メイドに、ノエミを呼ぶように伝える。
 そして王と一緒に、謁見の場で待った。
 駆け足でやってきたノエミは、ぎこちない笑顔で一礼する。

『……お、オズソン陛下。ゴルディ様。どのようなご用件で?』
『ノエミ』

 オズソンは大げさに、遺憾の意を表した。

『お前はいつまで経っても魔力に目覚めない』
『申し訳ありません……』

 ゴルディが追い打ちをかける。

『魔力に目覚めないのは、ノエミ様の罪のせい。鞭に打たれ、贖いをするべきかと』
『そ、そんな……!』
『そして、それでも目覚めなければ、首を刎ねるべきでしょう」
『ちょ、ちょっと待ってください! ゴルディ様――』

 ゴルディは、ニヤリとした。
 
『では、公爵と婚姻を結びなさい』
『……ええ? け、結婚ですか?』
『そうです。そして男子を生みなさい。その後、王都に戻るのです』

 くすくすと、我慢できず王座のオズソンが笑う。
 ノエミに公爵の子供を産ませ、その子供を王国が管理する。
 裏切れば、息子の首を刎ねる、言わば人質なのだ。

『こ、困りましたね……ワタシじゃ、力不足かと……』
『貴女の価値は、勇者という肩書きだけですので、大丈夫ですわ』
『そうですか……』
『王国の勇者と、公国のトップの婚約。国家同士が強い関係を結ぶには十分でしょう』

 きっと健康な子供を産めますよ、と伝えると、ノエミは泣きそうになっていた。

『その無駄に発育した体で、公爵を喜ばせてあげなさい。今日中に支度して、出発するように』
『はい……』

 ノエミは一礼すると、メイドに強制的に部屋に戻され、支度をさせられた。

(……はぁ。カーミットや、あの日本の男の子に、ついていけばよかったかな)

 わたしにもっと、勇気があれば。ノエミはそう思う。

 だがその頃、ノエミはまだ知らなかった。
 これから向かうであろう、その公国が、早苗のいる亜人の島に侵攻しようとしていること。
 そして逃げたカーミットも、その公国に隠れ潜んでいることを。



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