第20-3話「夢を叶える者」

文字数 2,300文字







「右手が……なくなっちまった。坊主なら、治せるよな……?」
「ぎ、ギガ………」
「なぁ、そう言ってくれよ……1000年後から来たんだろ? 俺の利き腕なんだよ……」
 
 早苗はギガの元へ行き、静かに二の腕の断面を見た。
 場合によっては、再接着が可能なケースはあるが……

「ギガ。前腕部は?」
「な、なんのことだ……」
「君が渡したのは、右手のほんの一部だ。それ以外のパーツは?」
「わ、わからねぇよ……ちくしょう……」

 痛みによる苦痛で、噴き出るようにギガの顔から汗が出ている。

「ば、バラバラに吹き飛んだ。探したが、肉片だけがあちこちに……」
「そうか……」
「あ、ああ、坊主よぉ……オレの弟子たちがよぉ……」

 早苗が止血する間、顔をしかめ、涙を溜めながら続ける。

「弟子たちが、死んじまったんだ……肉と骨があちこちに……何も残ってねぇ……」
「ギガ……」
「俺の足に、今もついているんだ……!  一番弟子のリックの、血まみれの肉片が」
「ギガ、あとは任せろ」
「デロルとシルロも死にやがった……! シルロのやつが、ニトログリセリンを運んでて…」
「………」
「なぁ、バラバラになったアイツらを集めたら、治せるよな……? 俺、これから集めてくるから……」
「座ってくれ」

 説得している間に、ラーサとグレイが来る。
 興奮したギガをエーテル麻酔で眠らせるのには、一苦労だった。
 
「………ギガ」

 その後は、彼の上腕骨をヤスリでキレイにし、洗浄し……
 骨と筋肉を密に連結させる、筋骨形成術の施術を行う。
 皮下と皮膚を統合した。



「なぁ、兄ちゃん。ギガの腕はもう……」
「……グレイ。無理だ、治らない。1000年後の医療施設があっても無理だ」
「……そうか。ワシはもう少しここで、ギガを見てるよ」

 静かに頷く。
 早苗は爆発が起こった現場に向かうが……

「くそっ……!」

 科学研究所の半分は、爆発でなくなっていた。
 床を見ると、バラバラの人体のパーツが散らばっている。
 ひとりだけ、上半身がキレイに残っている、デロルというドワーフの遺体。
 それ以外は、本当に何も残ってない。

「王子、ごめんなさい……! あ、アタシがちゃんと、見ていれば……」
「ラーサ、君のせいじゃない」
「アタシのせいだよ……! 筒に丁寧に、ニトログリセリンを入れてないのを、もっと注意しておけば……」

 泣いて膝をつくラーサを、どう慰めればいいのかもわからない。

「ラーサ。全ての責任は僕にある」

 と、そこへギガの看病をしていたグレイがやってくる。

「兄ちゃん。肉片を拾って、焼いてもいいか? 今のままじゃかわいそうでな……」
「……ああ、僕もやる」
「あ、あノ! わたしモ」

 ララに続き、周囲に集まっていた獣人たちも、手伝いはじめる。
 彼らには、大量の麻の布を作ってもらっていたが、騒音で集まったらしい。
 20分後には、火を起こして、バラバラの死体を焼いた。



「こんな兵器ってありなのかよ。味方が3人も……」
「ギガさんが、腕を失っちまったんだぞ!」
「なんでドワーフだけ死んだんだ! 陛下は俺たちをなんだと思っている!」

 ざわざわと、ドワーフたちに不満が広がる。
 早苗が何かを言おうとしたその時……

「うるせんだよテメェら!!」

 声を上げたのは、グレイだった。

「こいつらが死んだのは事故だ!! 兄ちゃんに罪を擦り付けるんじゃねぇ!!」
「ですがグレイさん!!」

 ドワーフたちの反発は収まらない。

「その男の作り出すものは、危険です!」
「そうだそうだ! まるで悪魔の知識だ!」
「許されるのか! その男は、ドワーフの命を奪った!」

 テメェ、と言ったグレイが殴りかかろうとする。
 だがそれを早苗は止めた。
 その後、すぐにララの声が聞こえる。

「もうやめてヨ!! わたしたち亜人を救えるのは、早苗さまだけなんだヨ!!」
「うるせえよ!! 獣人!!」
「こいつの女だから、そう言ってるだけだろ!」
「そうだ! この男は最初から、獣人たちを贔屓してたんだ! 犬みたいに従順だからな!」

 その言葉がきっかけとなる。
 
「なんだと、このきたねぇ小人どもがッ!」
「獣人が今までどれだけ、王国に殺されたと!」

 周囲の獣人たちが反発しだす。
 次々大声で罵り合う亜人たち。
 険悪な空気だ。このままだと――

「もういい、やめるんだ!」

 早苗が声を上げるが、全く止まらない。

「……このままだと、本当に」

 内部から崩壊して、全てが終わってしまう。

 刹那――破裂音が宙に響いた。
 ラルクがゆっくりと、この場に歩み寄ってくる。

「閣下、すみません。弾を一つ使いました」
「……いや、構わない」
「もう一つ、勝手な真似ですが、完成した()()をお持ちしました」

 瞬間――
 その場にいるドワーフたちも、獣人たちも、空を見上げた。
 そして全員が声を失い、一部の者は腰を抜かしだす。

「ウ、嘘だろ……」
「こんなことが……ありえるのか……?」

 それを見て、涙する者すら現れる。
 ララが、彼らに向かって言う。

「……早苗さまの知識は、兵器だけじゃない。わたしたちの夢を、叶えるんだヨ」

 そうだよね? とララに優しい瞳を向けられた。

「……僕らはたしかに、()()を戦争に使う」

 上空を見上げていた視線を、亜人たちに戻した。

「だがこれは本来、未知の世界に旅立つためのものだ。獣人たちが新しい国家を選び、ドワーフたちが勇敢に、洞窟の外を選んだのと同じように」

 静まり返った亜人たちに続ける。

「僕たちは共存できる。外敵を恐れる時代を終わせよう」

 その言葉を聞いた者たちの中に、文句を言うものは既にいなかった。

 ダイナマイトの制作を、すぐにでも再開する。
 心菜の処刑まで、あと3日となった。

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