第14-1話「迫害」

文字数 2,140文字







 日付は既に変わっている。
 公国兵の襲撃まで、あと5日。

「洞窟だ……」
 山のふもとを歩いた早苗が、静かに口に出す。
 自然の力でできた洞窟に、人が手を加えた?

「ここに扉があるな」
 土でカモフラージュされた門だった。

「姉さん、ここで間違いない?」
「うん。ドワーフたちは洞窟の場所を、鉄の掟で守ってるけど、前に書物の解読で呼ばれたかラ――」
「鉄の掟?」と早苗。
「洞窟の位置情報は、命よりも重いっテ」

 聞くと、敵対勢力に場所を漏らすと、種族全体で報復するらしい。

「………よし」

 フードで頭部を隠す。
 ララが一歩前に出て、ドアの鉄の取っ手を掴み、ノックをした。
 ゆっくりとドアが、拳の大きさだけ開く……

「……獣人が、何の用だ」

 背丈が低く、小柄でひげを生やした男。ドワーフだ。

「ギガさんに会いたい。ラランサって言えば、覚えていると思ウ」
「………」

 男は一度、門を閉めると、解錠するような音を出す。
 そして大きく門を開けた。

「入れ。ヘンな動きをすれば、エルフと同じく、獣人も二度と入れねぇ」
「うン! 行こう、早苗さま」

 ララは早苗の手を引き、奥へ向かっていった。



(……洞窟の中は、暖かい)

 広い空間。 
 中心には、巨大な炉があり、その周囲に金属や鉱石が山積みに。 

(……マヤ文明に少し似ている?)
 壁には鉱石の採掘場、天井には星座が描かれていた。
 鍛冶をしている様子を横目で見る。鉄を熱し、打ち伸ばして形を作っていた。

「ダマスカス鋼のようだ。地球なら11世紀ぐらいのレベル」
「おい、背の高い獣人! 見てないではやく来い!!」

 案内役に怒鳴られ、ついていく。
 しばらく進むと石段を上り、大きな扉がある部屋に着いた。

「王の御前だ。ギガさんもそこにいる。失礼のないように」

 案内役が力強く扉を開けると、玉座に座るドワーフ王が現れた。
 その隣には、明らかに職人の姿をした2人――茶髪と黒髪のドワーフが。




「あっ! ギガさん!」

 ララが手を振ると、茶髪の方のドワーフが驚愕する。

「うっそだろ、お前、ララか! ガハハ! でかくなったなぁ!」
「ギガ。王の前だぞ」

 黒髪のドワーフに注意されるが、ギガは遠慮なく続ける。

「アルフォ王よ、あの子だ。昔、帝国語を翻訳してくれた、読み書きができる子」
「そうか。その後ろの2人の男は――」

 視線が集まる。早苗はフードを取った。

「はじめまして。僕は早苗。別の世界から来ました。文明で言うと、1400年後の世界です」
「別の世界……? 人間なのか」
「はい」

 瞬間、ドワーフたちは警戒する。
 ギガだけが馬鹿笑いしていた。

「ガハハ! 亜人の言葉を喋ってやがる! まるで言い伝えの聖人じゃないか!」
「この言語は僕の母国語です」

 困惑する男に、ララが伝えた。

「ギガさん、早苗さまは本物だよ。救世主なんだヨ!」
「ガハハ! 嬢ちゃんよぉ」

 ギガがゆっくりと近づく。
 そして剣を鞘ごと持ち上げて、早苗の目の前まで歩いた。

「閣下、私の後ろに!!」

 ラルクが警戒態勢に入る。
 だがギガという男は、全く気にせず、剣を抜こうとしていた。



 そんな頃。
 早苗以外にも、窮地に立つ現代人がひとり。

『おい、あの女だ』
『あいつが呪いを! 間違いない!』

 カーミットは逃げるように、宿の中に戻っていった。
 心菜を見捨てて、公国に逃げて1か月もするのに、休める日がない。

『……クソ! ふざけないでください!!』

 ヘブライ語で毒づき、机を叩いた。
 
『……あの未開人ども! 疫病をワタシのせいにしやがった!』

 公国の平民の間では、ヘンな噂が広がっていた。
 外から来た女――つまりワタシのような女が、呪い(病気)を広めたと。

『バカじゃないんですか!? ワタシが病気にかからないのは、手洗いと、病人に近づかないのを、徹底しただけ!』

 なのに、今では魔女だと疑われている。
 ヤバい。このままでは本当に、火あぶりにされるのでは……

『アア、頭が痛いです! 糞に触れた後、手すら洗わない、人類史の恥どもめ……!』

 未開人どもなんかに、殺されてたまるか。
 せっかくここまで逃げたのに。
 でも、このままだと、いずれ……

『――っ!!』

 ドンッ! とドアがノックされる。
 強いノックだ。宿屋のレディーなら、入る前にエヘンと咳こむ。

(……いったい誰が)

 意を決して、カーミットはゆっくりとドアを開ける。
 そこには――

『カーミットだな。御同行願おう』
『ナ、ナンの用でしょうか……』

 兵士たちがいた。
 この国のトップ、ネルソン公爵家に仕える私兵たちだ。

『ワ、ワタシはレニー、商人の娘です』

 瞬間、剣の鞘でみぞおちを殴られた。

『う、ぐ……!!!』
『お前は王国で指名手配されているんだよ、カーミット』
『……そ、そんな。この国が、わざわざ王国に協力するなんて』

 事前に、王国と不仲なのは、知っていたのに……
 兵士たちに引っ張られ、強引に外に連れ出される。

『わ、ワタシを……どうする気で……』
『ゴルディ太后から、お前を豚に食わせろとの命令だ。死体すら残すな、と』
『……い、イヤだ。助けて……!』

 まだ16歳の少女が、泣きそうになる。

『助けて……ノエミ……ウィルフレッド……サナエサン……』

 だが連行された彼女は、
 公国の地下牢に、閉じ込められた。


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