第5-2話 The Waiter

文字数 1,519文字







 
 早苗とララが脱獄に成功したその頃――
 心菜とカーミットも無事に街から出て、平原を歩いていた。


「クソ。明日かならず、あのバカを助ける……」
「バカって……サナエサンが嫌いなんです?」

 心菜が眉間にしわを寄せた。
 とはいえ、ヘルメットで見えない。

「どちらかと言えば好きよ。尊敬もしてる」
「デモその言い方じゃ、どう見ても……まぁ、いいですけど」

 息苦しいので、ヘルメットを脱ぐカーミットたち。
 その彼女らのランプが、樹木を照らすが……



「ウワ! 酷いですね……」

 王国兵に拷問されたのであろう。
 死屍が、見せしめに木に吊るされていた。

「手首が切り落とされている。窃盗犯への罰ね」
「アア、たしかに……」
「舌もない。多分、熱したペンチで抜かれた。兵に捕まった時、王族の悪口でも言ったのでしょう……」
「コノ世界、権力者を悪く言うだけで、舌抜きの刑ですもんね……」

 ブルッと身震いし、カーミット。

「悪口だけでこれなら、サナエサンとララサンは……」
「だから、絶対助けるって! 手段は選ばない!」
「……ト言うと?」
「オズソン王子か、オズウィン王子を使う」

 よくわからず、カーミットが首をかしげる。

「つまり、王子を誘拐して、人質交換する」
「――ハァ!? ココナサン、本気ですか!?」

 真顔の心菜を見て、カーミットが真っ青になる。

「正気じゃないです…! どうやって? もし応じなかったら?」
「応じるわよ。王位継承者、たった2人だもの。それに早苗の命は、この世界の誰よりも価値がある」
「……ハァ。ワタシが間違ってましたね」

 心菜がビクッとする。

「ココナサンのサナエサンへの愛は、尋常じゃないです。愛してるんですね」

 からかうように、心菜を見るが……
 ふと、自分の顔が濡れてるのに気づいた。

 手で拭く。血だ。

 心菜は……死んでいる……?



「ああ、あああっ!! ココナサンっ!?」

 いや、まだ生きてる。
 でも、音もなく飛んできた矢が、顔を貫通して……
 ドサッ、と。心菜が力なく倒れる。

 瞬間、静かに風を切る音。

「――ひっ!」
 カーミットの真横を、矢が通った。
 さらに一本。数センチ手前の地面に、矢が刺さる。
 誰かに狙われて……

「――アアァ、ウワァアアアアアアア!!!」
『待て、逃げるな!!』

 王国語で言われる。兵士が何人も。
 無視して、ランプを捨てる。
 カーミットは死に物狂いで走った。

「はぁ、はぁ――!」
 馬が駆けて、兵士が何人も接近する音。
 グサグサと、矢が周囲に刺さり続け――
 構わない。全力で逃げ続ける。

『止まれ! この女を殺すぞ』
『――ひっ!』

 一瞬だけ背後を見る。
 兵士が、心菜の首元にナイフを立てていた。
 いや、ダメだ。一瞬でも足を止めたら――

『――ウアァアアァ!!!』

 森の中に逃げ込む。
 怖い。何で? ココナサンが死んだから?
 違う。自分が死ぬかもしれない、捕まり拷問されるかもしれない……
 それが怖かった。頭が真っ白になるほどに。



 そんな時――

「早苗さま! 蛇とってきタ!」

 早苗とララは、のんきに蛇を焼いていた。
 早苗は少ない蛇の脂身と、焚火の草木灰を混ぜる。

「ララ、カタツムリ探せる?」
「うん! なにに使うノ?」
「石鹸を作る。それで体を洗う」
「……せ、せっケ?」

 知らないらしい。思えばヨーロッパに石鹸が渡ったのは、12世紀。
 つまり、500年後ぐらいだ。

「多くの病気を予防する、もっとも偉大な発明の一つだ。作り方は……」

 貝殻を砕いて、水酸化カルシウムに。
 それを草木灰の水に入れ、水酸化カリウムに。
 最後に先程の蛇の油を入れて、混ぜれば完成だ。



 そうして石鹸でまずは早苗、次はララが体を洗った後、
 2人で久しぶりの食事を楽しんでいた。




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