第15-2話「最初の人」

文字数 2,377文字







 早苗はララとラルクを連れ、北の森へ歩き続ける。

「しかし、エルフはプライドが高い、か。説得方法がカギだな……」
「閣下、姉はエルフの第一王女と、友好関係があります」

 ララが煮え切らない感じに、続ける。

「うん。わたしのこと、覚えてくれてるといいけド……」
「よし。ならまず、第一王女に接触しよう」

 ふと気になった早苗は、小声でラルクに訊く。

「……ララって、かなり顔が利くのか?」
「いえ、全然。まったく」

 断言する弟に、少し困惑する早苗。

「趣味が合っただけです。そのエルフの令嬢も、本ばかり読む変わり者でした」
「この世界の本、高いからな」

 本一冊は、農民の平均年収と同じぐらい。
 ドワーフたちが、紙の製造法に食いつくわけだ。

「閣下。万が一エルフと交戦になりましたら、迷わず逃げてください。捕えると奴らは、捕虜を地下牢に入れ、一生出しません」
「わかった。もう地下牢(ダンジョン)はこりごりだ」

 ◇

 その頃――
 もうひとりの現代人は、公国の地下牢(ダンジョン)に閉じ込められていた。
 それも、早苗の時とは、別の苦痛を味わいながら。

『イ゛ヤ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ゛!! 助゛け゛て゛!!!』

 バチン、と激しい音。
 空気を切る音の後に、鋭い痛みが走る。

『アア、ああああ……』

 公国兵に捕まったカーミットは、鞭打ちの刑にあっていた。
 女性の場合、打ちどころが悪ければ、20回も打たれる前に絶命する。
 カーミットは既に、10回以上打たれていた。
 再度、激しい鞭の音が。

『イ゛ヤ゛ア゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ゛!!』
『はぁ、はぁ……どうだ! 答える気になったか?』

 あまりの苦痛に、顎の力が抜ける。よだれが垂れる。
 それでも泣かなかった。それはカーミットの、最後のプライドなのかもしれない。
 うつろな目を、拷問官に向ける。

『わ、ワタシは、魔女じゃない……みんな死んでるのは、病気のせい……』
『まだ言うか!』
『ほ、ホントなんです……ウイルスや細菌っていう、目に見えない程、小さな菌が……』

 だがエアルドネルには、その概念がない。
 拷問官が再度、鞭を振るう。

『イ゛ヤ゛あ゛あ゛ッ゛!! も゛う゛や゛た゛!! 助゛け゛て゛!!』

 痛みで痙攣を起こすカーミット。
 背中に、まだ皮膚は残っているだろうか。
 体の震えで、鎖ががちゃがちゃ音を立てる。

『た、た、たすけて……』
『もうやめてやれ。そいつはウソついてねーよ』

 ギィィと大男が、ドアを開けて入ってくる。
 禿げて小汚い男だ。味方? ああ、助かった……?

『でも、王国からの命令ですぜ』
『バカだなお前。王国からの命令は二つ。一つはこの女を殺して、死体も処分しろ、だ』

 ぜ、全然助かってない、殺される!

(……王国の命令……? ゴルディ……?)

 あのクソ女、どこまでワタシを苦しめる気で。

『こんな美人、このまま死なせたら、かわいそうだろ』

 男に顎を掴まれる。
 その瞬間、恐怖で、ガタガタと奥歯が鳴った。
 カーミットの嫌な予感はあたっていた。
 男はそのまま服を引きちぎり、胸倉を掴む。





『い゛や゛あ゛あ゛あ゛! や゛め゛て゛!』

 そのまま下着も強引に取られ、裸体になる。

『へへっ、いい体だ。労働したことがない、貴族みたいな体。安い娼婦とは大違いだ』
『あああ、いやだ、いやだ……パパ、ママ……助けて……!!』

 乳房を強引に揉みしだかれ、カーミットはついに泣き出した。
 折れた。もうプライドも何もない。

『う、うぐううう……』

 悔しい、怖い、なんで、どうして……
 誰か助けて。なんで誰も来ないの。

『なぁ、いい事を教えてやる』
『……い、いや』
『二つめの命令だ。あんたを犯せって、ゴルディ様が命じたのさ』
『……ああ、あああ!』
『よっぽど恨まれてるんだな。集団で輪姦しろってよ。これから5日間、交代で兵たちがくるぜ。200人はいるかな。ははは! 豚に食わせるのはその後だ』
『あ゛あ゛あ゛あ゛!!! い゛や゛た゛!!! い゛や゛た゛あ゛あ゛!!』

 黙れと殴られるが、止まらない。暴れる。
 男は鎖を引っ張り、強引にお尻を突き出した体位にさせる。
 秘部にペッと唾を吹きかけられ、強引に濡らされた。

『綺麗な色だな。膜もある。はじめてか?』
『あ゛あ゛あ゛!! 死゛ん゛で゛や゛る゛!!! 今゛す゛ぐ゛舌゛を゛か゛し゛る゛!』
『なんだそりゃ? あはは!! やってみろよ!』

 瞬間、下腹部に何かが侵入して、鋭い痛みが襲う。

『い゛た゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛い゛!!』




 背後の男が、乱暴に腰を振っている。
 犯された。はじめてだったのに。

『う、うぐっ! ううう……』

 いつか、素敵な人に会って……
 その人と結婚して、やさしく抱きしめられながら、初体験をしたかった。
 そんな妄想を、たまにしていた。

 今、動く糞みたいなハゲに、犯されてる。

『ああ、もういやだ!! いやだああああ!!』
『あんまり叫ぶな。おい、ペンチを熱してこい』
『ああ……なに、を……』
『黙らないと、舌を抜いてやる』

 男が動き続け、吐き気がするような感覚が広がる。
 ガタガタ揺れる。悔しい、なんで、ワタシがこんな……

(……あいつだ。ゴルディのせいだ)

 はらわたが煮えくり返った。
 あの女のせいだ。あいつのせいで、今こんな目にあっている。
 あいつは生きてたらダメだ……死なせないと……殺す……絶対に……

(……殺して、やる!! この男も、ゴルディも!!! 絶対に、殺す!!)

 楽に死なせない。最も苦しい方法で、殺してやる!
 両手で口を押え、叫び声を抑える。大粒の涙を垂らしながら、怒りと悲しみを堪えた。

『……やれやれ。ベアバルドさん、ほどほどに』
『黙ってろ! 今いいところなんだ!』

(……べ、ベアバルド)
 それがコイツの名前。

(……ベアバルド、ゴルディ)
 カーミットは誓った。こいつらを、地の果てまで追い詰めて、葬ってやる、と。
 必ず、殺してやる……
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