二十一 関与
文字数 1,588文字
夕七ツ(午後四時)過ぎ。
日野道場に隣接した住居の座敷で、
「三名を預る事になった。理由は・・・」
徳三郎は、妻の篠と穣之介夫婦、坂本右近、唐十郎の妻のあかね、そして太助を家に送った藤兵衛たちに説明した。
「・・・ついては女房様たちにお願いする。三名に、ここでの寝食の世話をしてくれ。
小間物売りの与五郎は器用だから物の修繕を頼む。
飴売りの達造は自分でも飴を作るであろう。ここで、味噌などを造ってはどうだ。
毒消し売りの仁介は道場の怪我人の手当てをしてくれ」
「あい、わかりました」と三名。
「探索の手伝いとは何でしょう」と小間物売りの与五郎。
「おいおいに手伝ってもらう。
ところで、藤五郎と鍼師の室橋幻庵との関係を知っていたら話してくれぬか」
「あっしの知ってる事は、先ほど話したように、元締めの鍼治療を幻庵先生がしていた事くらいでして・・・」と与五郎。
「達造と仁介は、藤五郎について何か知らぬか」
「わたしたちは商いのために元締めに挨拶してただけでしたから」と毒消し売りの仁介。
「与五郎。幻庵とお内儀の夫婦関係はどんなだった」
「仲がようございました。それもあって、和磨先生に幻庵先生が期待してましたが、和磨先生は鍼の仕事に興味がなくて・・・」
「弟は兄をどう思っていた」
「実の子の義二さんも、鍼の仕事に興味を持ってませんでして・・・」
「藤五郎は幻庵の子らと顔見知りか」
「お内儀のおさきさんは、亀甲屋で働いていたとの事でした。
和磨先生ができて、おさきさんは幻庵先生といっしょになったと聞いてます」
「和磨は幻庵の子かも知れぬのか」
「そう言う話も、元締めの子との話もありました」
「和磨は二本軸の平打簪や玉簪の件を知っているのだな」
「幻庵先生とお内儀の事ですから、知っているでしょう」
「簪を商ったのはいつだ?」
「この夏の事で・・・。あっ・・・」
「どうした?」
「元締めから、幻庵先生が二本軸の簪を欲しがってると言われたんでした。
お内儀から、幻庵先生が元締めに簪を頼んだ、と聞きました。
元締めは簪の件を知ってたと思います・・・」
六助、山形屋吉右衛門、鍼師の室橋幻庵と、三日続けて殺害されている。
すでに小間物売り与五郎は、鍼師室橋幻庵に依頼されて、細くて先端がほどほどに鋭い二本軸の平打簪や玉簪を商っている。金製と銀製がそれぞれ二本ずつだ。その二本軸の平打簪や玉簪は刺さっても血は出ず、痛みを感じない。その事は小間物売りの与五郎が己の腕で試している。ここまで条件が揃えば、鍼師の室橋幻庵と香具師の藤五郎が事件に関与していたと推測できる・・・。
そう思いながら唐十郎は徳三郎に言った。
「伯父上。六助と幻庵は材木町の堀から、山形屋吉右衛門は本舟町の堀から見つかっています。仏たちが発見される前夜の藤五郎と幻庵の足取りを探るべきと思います」
材木町の堀と本舟町の堀は、それほど離れていない。
そうだなと言って徳三郎はしばらく考えてから、小間物売りの与五郎に言った。
「では、与五郎たちは、幻庵の通夜に行って様子を探ってくれぬか」
「わかりました。得意先ですんで、それなりの挨拶をしなくてはならないと思ってました。では、これから行ってみます」
「気をつけて、頼みますよ」
「へいっ」
与五郎たちは座敷から出ていった。
「さて、三人が殺害された事件当夜の藤五郎の足取りを、どうやって探ればよいか・・・」
徳三郎は考えあぐねている。
「与五郎たち三名の事を与力の藤堂様に伝えねばなりませんから、明日、藤堂様に相談してみます。
それと、遅くなりましたが、穣之介。右近。出稽古の方は、よろしくお願いします」
唐十郎は徳三郎の補佐をする事で、幕閣の屋敷や大名家への出稽古に行けなくなった事を、穣之介と坂本右近に詫びた。
「出稽古は私と右近に任せて、父の補佐を頼むぞっ」
穣之介と坂本右近は唐十郎の申し出を快く承諾した。
日野道場に隣接した住居の座敷で、
「三名を預る事になった。理由は・・・」
徳三郎は、妻の篠と穣之介夫婦、坂本右近、唐十郎の妻のあかね、そして太助を家に送った藤兵衛たちに説明した。
「・・・ついては女房様たちにお願いする。三名に、ここでの寝食の世話をしてくれ。
小間物売りの与五郎は器用だから物の修繕を頼む。
飴売りの達造は自分でも飴を作るであろう。ここで、味噌などを造ってはどうだ。
毒消し売りの仁介は道場の怪我人の手当てをしてくれ」
「あい、わかりました」と三名。
「探索の手伝いとは何でしょう」と小間物売りの与五郎。
「おいおいに手伝ってもらう。
ところで、藤五郎と鍼師の室橋幻庵との関係を知っていたら話してくれぬか」
「あっしの知ってる事は、先ほど話したように、元締めの鍼治療を幻庵先生がしていた事くらいでして・・・」と与五郎。
「達造と仁介は、藤五郎について何か知らぬか」
「わたしたちは商いのために元締めに挨拶してただけでしたから」と毒消し売りの仁介。
「与五郎。幻庵とお内儀の夫婦関係はどんなだった」
「仲がようございました。それもあって、和磨先生に幻庵先生が期待してましたが、和磨先生は鍼の仕事に興味がなくて・・・」
「弟は兄をどう思っていた」
「実の子の義二さんも、鍼の仕事に興味を持ってませんでして・・・」
「藤五郎は幻庵の子らと顔見知りか」
「お内儀のおさきさんは、亀甲屋で働いていたとの事でした。
和磨先生ができて、おさきさんは幻庵先生といっしょになったと聞いてます」
「和磨は幻庵の子かも知れぬのか」
「そう言う話も、元締めの子との話もありました」
「和磨は二本軸の平打簪や玉簪の件を知っているのだな」
「幻庵先生とお内儀の事ですから、知っているでしょう」
「簪を商ったのはいつだ?」
「この夏の事で・・・。あっ・・・」
「どうした?」
「元締めから、幻庵先生が二本軸の簪を欲しがってると言われたんでした。
お内儀から、幻庵先生が元締めに簪を頼んだ、と聞きました。
元締めは簪の件を知ってたと思います・・・」
六助、山形屋吉右衛門、鍼師の室橋幻庵と、三日続けて殺害されている。
すでに小間物売り与五郎は、鍼師室橋幻庵に依頼されて、細くて先端がほどほどに鋭い二本軸の平打簪や玉簪を商っている。金製と銀製がそれぞれ二本ずつだ。その二本軸の平打簪や玉簪は刺さっても血は出ず、痛みを感じない。その事は小間物売りの与五郎が己の腕で試している。ここまで条件が揃えば、鍼師の室橋幻庵と香具師の藤五郎が事件に関与していたと推測できる・・・。
そう思いながら唐十郎は徳三郎に言った。
「伯父上。六助と幻庵は材木町の堀から、山形屋吉右衛門は本舟町の堀から見つかっています。仏たちが発見される前夜の藤五郎と幻庵の足取りを探るべきと思います」
材木町の堀と本舟町の堀は、それほど離れていない。
そうだなと言って徳三郎はしばらく考えてから、小間物売りの与五郎に言った。
「では、与五郎たちは、幻庵の通夜に行って様子を探ってくれぬか」
「わかりました。得意先ですんで、それなりの挨拶をしなくてはならないと思ってました。では、これから行ってみます」
「気をつけて、頼みますよ」
「へいっ」
与五郎たちは座敷から出ていった。
「さて、三人が殺害された事件当夜の藤五郎の足取りを、どうやって探ればよいか・・・」
徳三郎は考えあぐねている。
「与五郎たち三名の事を与力の藤堂様に伝えねばなりませんから、明日、藤堂様に相談してみます。
それと、遅くなりましたが、穣之介。右近。出稽古の方は、よろしくお願いします」
唐十郎は徳三郎の補佐をする事で、幕閣の屋敷や大名家への出稽古に行けなくなった事を、穣之介と坂本右近に詫びた。
「出稽古は私と右近に任せて、父の補佐を頼むぞっ」
穣之介と坂本右近は唐十郎の申し出を快く承諾した。