32・ペテロはちんちくりん

文字数 1,824文字

「ペーテーローは、ちんちくりん…」

俺は今、家で一人で夕食の準備をしているところだ。

「ペーテーローは、ちんちくりん、っと」

練った麦粉の形を整え、パン作りの作業をしながら
何気なく頭に思い浮かんだメロディーを口ずさむ。

近ごろ、何かこれが口癖のようになっていた。もちろん、
誰かにこれを聞かれてペテロはちんちくりんと聖書に載ってしまったらまずいし、
こうするのは一人でいる時だけだけれど。

そして、次の日。


「…ペーテーローは、ちんちくりん。ペーテー」
「ふふっ、イエス、何その歌?」

…しまった。周りに誰も居ないと思って油断し、
つい口から出たのをアンデレに聞かれてしまった。
ちんちくりんは日本語だから、意味はわかってないだろうけど。

「い、いや。何でも?」
「ペーテーローは、ちんちくりん、だって。あっはは…」
「あの、アンデレ、頼むから歌わないで…」
「え?うん、いいけどさ。それより、ちんちくりんってどういう意味?」

まずい。ちんちくりんとは出るとこ出てないとかそういう意味で、
俺がこんな歌を歌っていた事をペテロに知られたらきっと激怒される。

「え、えーとちんちくりんとは…。清らかさに満ち溢れてる?」
「へー、そうなんだ。ねーイエス、私もちんちくりん?」
「ぶっ、い、いやアンデレはペテロよりはちんちくりんじゃ」

「もー、なーにさ、ペテロばっかり贔屓してー」
「いや、むしろ逆っていうか、あのそれよりペテロには黙ってて…」
「え?聞かれたらまずいの?」
「うん、ちょっと恥ずかしいっていうか、何ていうのかその」
「ふーん…」

ふぅ、危ない危ない。
今のを聞かれたのが本人じゃなくって、良かった…。


「さーてと、寝るか…」

その日の夜、食事も済んで寝る前に俺は何気なく聖書の小冊子をパラパラとめくった。
よしよし、特に未来に変わった所はな…

…ん?
あーっ!
12使徒のペテロの項目に、ちんちくりんって…!

アンデレ、あいつ、喋ったな…!
いや、それよりもこれをどうする?
どうやって、これを元に戻したらいい?
何とか、ペテロにナイスバディになって貰う?いやどうやって…

次の日。


「昨日、イエス様がこう仰ってくれたそうです」

「私は、ちんちくりんだと…」
「そーなんだって。清らかさに溢れてるんだってさー」
「えー?いいないいなペテロー」
「ねーねーイエスさま、ヨハネは?」
「ま、まあヨハネが1番って事になるんだろうけど、あのペテロ、あんまりその…」

「はぁ、私はちんちくりん…!」
「くっ…ペテロさん、イエス先生がそう仰ったからといって勝ったと思わないよう」
「…あたしもちんちくりんになるよう、頑張ろっと…」
「そうやねぇ、さすがペテロはんや。うちも頑張らな」
「い、いやあのペテロ、そう誇らしげに…」

こ、困った。
このままじゃこれが後世に伝わって、
ペテロはちんちくりんと聖書に…!

…仕方ない。最後の手段だ。危険だけど正直に言おう。ちんちくりんは
出るとこが出てないという意味だとペテロが知れば、きっと自称はしないで人にも言わせず
結果聖書に載ることはないはずだ。

「ペテロ」
「はい?」
「実は、ちんちくりんとは清らかさが溢れてるとかそういう意味じゃなくって」
「え?そうなんですか?」

「それじゃイエス様、ちんちくりんって一体どういう意味なんですか?」
「…それは」








「イ・エ・ス・様」
「いででっ、いでででっ!」

俺はペテロに思い切り太ももをつねられ、
痛さのあまり思わず体がエビ反った。

「私は、出るとこ出てますよねー?」
「わ、わかったからペテロ、そう涙目になりながら怒んなくっても…いっでーっ!」

「お、おっかないなぁ、ペテロはん…」
「イエスさんも、自業自得だね…」
「わ、私はなーんにも悪くないからね、イエスー?」

「私は、大人の魅力溢れますよねー?イエス様」
「う、うん、溢れてる、溢れてるから、いでーっ!」

「ペテロ、どさくさに紛れて…」
「結構、劣等感があったんですね…」
「ペテロー、許してあげたら?イエスさんにちんちくりんって言われたくらいで…」

「ぎっ!」
「ひっ!」
「あ、あかん、ペテロはんにちんちくりんは禁句や!」

それ以来、ちんちくりんは禁句になり
そのお陰でか、何とか、小冊子の記述は元に戻った…。
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