47・オリブ山にて

文字数 1,888文字

「神は、皆さんを愛します」

「ですので私達も、心を尽くして神を愛しましょう…」

俺は今、エルサレムのやや外れにある、オリブ山と呼ばれるなだらかな丘で
集まった人々に話をし終えた所だ。

「ふぅ…」
「お疲れ様でした、イエス様…」
「ここでも、イエスの話を聞きにくる人増えてきたね」
「けど、パリサイ派に従ってる人がほとんどみたいだけどさ」
「イエスさまのほうが、ずっといいお話するのにねー」

話を終えた俺の周りに、弟子達が集まってくる。

「…そうだ、イエス様」
「ん?」
「イエス様はこの前、その石一つでも崩されずに、そこに他の石の上に残る事もなくなるだろうと仰ってましたね?」
「あ、ああそうだな」

表現が難しいけれど、
どうやら、全てが崩れ去ってしまう事になるだろうという意味らしい。

「いつ、そのような事が起こるんですか…?」
「あ、そうそう、いつ起こるのイエス?」
「あ、オレも知りたーい」
「教えてイエスさまー?」
「…ちょっと、おっかないけど…」
「せやねぇ、これは聞いておかな…」

弟子達は、みんな少し怖がっている様子だ。
それもそうだよな、イエスキリストがそんな事を予言したなんて
俺も少しおっかない…
まぁ、たぶん2000年は大丈夫なはずだけど。

俺は小冊子を開いて、
そこに載っている言葉をみんなの前で読み上げた。

「…人に惑わされないように注意しなさい。多くの者が私の名を名乗って現れ」

「自分がキリストだと言って多くの人を惑わすだろう」

な、何だか俺の事を言われているような。

「また、戦争と戦争の噂を聞くだろう。注意していなさい。それらは起こらねばならないが」

「まだ、終わりではない。民は民に、国は国に敵対して立ち上がるだろう」

「またあちこちに飢饉が起こり、また地震があるだろう」

ず…随分、おっかない事が書かれてるな。
大きな戦争が起こって、みんながお互い争って、飢饉が多発し、地震までも?
まるで、世界の終わりじゃないか…

「しかし、全てこれらは生みの苦しみの初めである」

「その時人々は、あなた方を苦しみに合わせ、また殺すだろう。またあなた方は…」

小冊子にはその他にも、不法がはこびり人々の愛が冷えるだろうとか、かつてないような
大きな患難が起こって、その時が来たら一目散に山へ逃げよといった事が書かれている。
そしてその時が来たら、人の子、イエスキリストが復活するだろうとも…

「しかしその時に起る患難の後、たちまち日は暗くなり、月はその光を放つことをやめ、星は空から落ち…」

ほ、本当に書かれてるような事が起こるんだろうか?
何だか、少し怖くなってきた…

「よく聞いておきなさい。これらの事が、ことごとく起こるまでは…」

「この時代は、滅びることがない。天地は滅びるだろう、しかし私の言葉は滅びる事がない」

弟子達は、目を丸くして聞いている。
そうだろうな、イエスキリストが復活する前に凄い天変地異が起こるって。
まぁ、これから2000年間は起こらないはずだけど…

「い、イエス様、一体いつそのような事が起こるのですか…?」

ペテロが、ひどく恐れた様子で俺に聞いてくる。
え、えーと小冊子には。

「…その日、その時は誰も知らない」

「天の御使いたちも、また子も知らない。ただ、父だけが知っておられる」

誰も知らないのか?
けれど、いつかはわからないがそれは起こるとイエスキリストは言ってるんだよな。
それが、余計に恐ろしく感じる。

「人の子が現れるのも、丁度ノアの時のようであろう。その時…」

小冊子には、
それはノアの洪水の時のように突然起こるだろうと書かれている。
なので目を覚ましていなさいといった事がたとえ話で続いている。
明かりを手にした十人の乙女の話とか、主人の財産を預けられたしもべの話とか…
行い正しかった者は報われ、そうでなかった者は追いやられて。
それから、最後に。

「…そして彼らは永遠の刑罰を受け、正しい者は永遠の生命に入るであろう」

俺は、小冊子に書いてある通り
弟子達にそれらの言葉を語って聞かせ終えた。

「…」
「…」
「…」

弟子達は、みんな静まり返っている。
半信半疑なんだろうか。
そうだよな、かなり終末の予言みたいな内容だし…。

「…まぁ」

俺は、あっけに取られてる弟子達に向かって小冊子の続きを読んだ。

「あなた方が知っている通り、二日の後には過越の祭りになるが」

「人の子は、十字架につけられるために引き渡される…」
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