59・ヨセフの岩屋

文字数 1,552文字

おお…おいたわしや、救いの御子さま…


ええ、私はアリマタヤのヨセフと申します。ピラト総督から許可は頂いております。


私がご遺体を引き取り、布で覆い、新しく掘った岩屋に安置させて頂こうと…


ええ。御子さまが仰っていた通り、3日後に復活なさるまで。


せめてそれまでは、眠りが妨げられないよう入り口を岩で塞ぎ、安らかに…






「待て」



「覆ってる布を取っ払って、そいつの顔を見せてみろ」

「…ふん。確かにあいつだ。なら埋葬する所までしっかり見させて貰うぞ」

「こいつは、キリストを騙る偽者だ。何か復活したように見せかける小細工をしているかも知れんからな」






…ナザレのイエスが死んだその時、神殿にかかっていた幕が真っ二つに裂けたそうだ…


…むこうで、地震があって岩が裂け、聖者達が墓から生き返ったらしい…


…やはり、あの方はまことの神の子…






「墓の入り口を、交代で見張れ」
「は、承知しましたモレクの司祭様」
「あいつの弟子達が遺体を盗みに来るかも知れん。ひと時も目を離すな」
「は…」
「三日経ってから墓を掘り起こす。遺体を皆の前に晒し、死からの復活などありえない事を
こいつの信者どもに知らしめてやる…」

















「この三日間、誰もこの墓には入らなかっただろうな」
「は、誰一人として」
「よし…。それでは遺体を掘り出せ」
「は…」


「…全く。ナザレのイエス。何か企んででもいるのかと思ったが」

「何の策もないとは。あいつの弟子達も、何の動きもなく…」

「まさか、死からの復活を本気で信じて…?馬鹿な。ただやけくそになっただけだ」
「モレクの司祭様…。ありません」
「ん?ないだと?何がだ」
「ですから…ありません。埋葬されているはずの遺体が」
「なに?」

「よく探したのか?」
「ええ、墓穴を隅から隅まで…」
「…馬鹿な。なら誰かが我々の前にこっそり掘り返して」
「いえ、この三日間、墓の入り口は岩で塞がれていて」
「…」
「それを我々は目を離さず見張っていたので、誰かが先に掘り返したとは考えられなく…」

「それに、この穴の跡からすると」
「…」
「我々が掘り返す前に、中はすでに空になっていて…」
「…」

「…フッ。おかしいじゃないか。私は確かにイエスがこの墓に埋められる所を見た」
「ええ、我らもそれを」
「そして、岩で塞がった墓の入り口も三日間見張り続けて。誰も入った者はいない」
「ええ確かに…」

「それなのに、遺体が消えた…?」
「そうですね…全くもって不可解な事です、これは神の力が…」
「馬鹿な。そんな事…あるわけないじゃないか」
「いえ…しかし現にこうして」
「そんな馬鹿な事…あるわけが…フッフッフ…」
「司祭様?」
「クックッ、ククッ…!」


「ヒャァーーーーーーーッハッハッハッハァ!」
「おお、何という…」
「司祭様をひとまず外へ…」






「あるわけがない、あるわけが…ヒァーーーーッハッハッハハァ!」
「司祭様、お気を確かに…」








「グスン…ダーリン、香油を塗ってあげに来たわよ。…あら?」

「はぁ、一体どうなって…あ、あんたナザレのイエスの信者か?」
「え、ええそうだけど、お墓の入り口の岩がどかされて、これは一体…?」
「俺にもわからん…この通り、ナザレのイエスの墓穴が空っぽで」

「もしかして…。この人は本当に復活したのかも知れない」
「え…?ダーリンが?」
「ああ。そうすると弟子達によく言ってたんだろ、復活したら先にガリラヤに行くって。あなたはそう弟子達に伝えて…」
「まぁ、大変…!」


「急がなきゃ…あら?」
「あの…」


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