2・ヘロデ大王と東方の三博士

文字数 1,122文字

――――AD1年イスラエル、ヘロデ王の王宮





「……救いの御子が、まもなく誕生すると?」
「はい、その通りですじゃヘロデ大王さま」
「ワシらの占いが正しければ、ユダヤの王となるべき御子が三日後にベツレヘムに生まれると出ましてな」
「ですので、そのお方を一目見ようとこうやってはるばる東から旅してきたのですじゃ」

「ユダヤの王となるべき御子……ですか」
「はい、ベフレフェフの上に輝く星がそれを示しておりますのじゃ」
「これ、舌が回っとらんわい。ベツレヘムとちゃんと言わんか」
「ワシらは、占いとその星に導かれてここまで旅して来ましてな」

「そのお方は、どのような方なのですか?」
「ええ。そのお方は、やがてユダヤの王となり…」
「苦しみ迷える民を導く希望となると出ておりますじゃ」
「神の、ご加護の元に…」

「なるほど…。私も興味が沸いてきました。ぜひ、そお方にひと目お会いしたいものですね。
どうでしょう、博士の方々。その方がもしお生まれになられたなら」
「何ですかいの?」
「ぜひまた、ここに立ち寄って私にお知らせ下さい。私もそのお方にひざまずき、拝ませて頂きましょう」
「ああ、それは結構な事ですな」
「きっと、その子も喜びますわい」
「さすがはヘロデ王、敬虔なお方じゃ」

「では、道中お気をつけて。無事にお探しの方に出会えるよう、祈っていますよ」
「ええ、ありがとうございますじゃ」
「話がわかる王で助かりましたわい」
「さすがは王、器の大きなお方じゃ」





「……」
「ヘロデ王さま」
「ん?何だ」
「よろしいのですか?あのような素性の知れない者たちを、領内を通過させて」
「ああ、構わん」

「しかしあの者たち、ヘロデ王の前でユダヤの王が誕生するなどと……」
「ああ。全く、無礼なヤツらだ」
「そんな噂が広まれば、その子を担ぎ上げ王に楯突く者が現れるかも知れませぬ」
「だから、あえて泳がせておいたのだ」
「は…?と、申されますと」

「もしあの老いぼれどもが、その救いの御子とやらを見つけたと騒ぎ民衆を惑わすなら」
「はっ……」
「ここにのこのこ戻ってきたところを、その子ともども捕らえ、磔にし処刑してやる……」
「おお…。だからあえて見逃したのですか。救いの御子とやらを捕らえ、騒ぎとなる元を消すために…」


「この私を差し置いて、ユダヤの王などという世迷言を抜かすならどういう事になるか」
「……」
「その身に、きっちり思い知らせてやろう。その御子とやらと共々にな」
「ははっ、ええ、それを見て王に逆らおうなどと考える者は、誰も居ないでしょう」


「救いの御子、か……」


「ふん。下らん」



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