55・イスカリオテのユダ

文字数 788文字

せんせーが乱暴に連れていかれて。
僕はそれを見届けると、軽くため息をついて近くのユダヤ議会のお偉いさんに話しかけた。

「ねーねー、おじさん」
「おおユダか。ご苦労だったな。お前の手引きのお陰で、あの通りナザレのイエスを…」

「これ、要らない」
「なに?お前に払った銀貨が?」
「うん、じゃーねー」
「待てユダ、これはお前に払ったものだから、お前がどうにでも…」

はあ、詰まんないの。
せんせー、あんなあっさり死刑になっちゃって。
もっとじたばた悪あがきして、命乞いしてみっともない様を見せてくれないと。
そうすれば、ちょっとは僕の気も晴れたのに。

さてと、それじゃそろそろ準備しよっか。
僕は、屋敷の二階にある部屋へと向かう。

輪っかにしたロープを天井からぶら下げて、しっかり結んで。
失敗しないようにしなきゃね…。

これで、僕が1番。
僕が1番最初にあっちでせんせーをお出迎えしてあげる。

…これで、ずっと一緒だね。
それじゃ、少しだけ先に行ってるから、せん…

「…ユダ?…」

何だ、フィリポか。

「ここに居たのか、ユダ」
「後ろ姿見かけて、そうやないかな思て」

ヤコブに、マタイも。
やれやれ、面倒だな…

「それで、何か用?せんせーの仇打ちにでも来たの?」
「…ああ、その通りお前をぶん殴ってやりたいよ!」
「…ヤコブ、だめ…」
「ヤコブはん、押さえな…」

「僕、忙しいんだけど。用があるならさっさと…」
「けど、イエスさんがお前に伝えろって言ったんだ」
「え?何て」
「死ぬな、って」

…。
せんせー。なんで。
なんであんたを裏切った僕に、そんな事…。
…くっ!

「あっ!」
「…ユダ!…」
「ま、窓から身を投げよった!」

「ど、どこ行った?」
「…いない…」
「け、けど地面に血の跡が…もしかして大怪我してるかも知れんで、ユダはん…」
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