６０・紡がれていくもの

ガリラヤ地方―――――




「な…何だって、イエスが」
「ああ、ヨセフさん、あんたの息子さん、パリサイ派の裁判で死刑判決が出て」
「そ、それでどうなったんだ？」
「ああ…。それで、あんたの息子さん」

「十字架にかけられて…」
「そ…そんな…イエス、イエス！…うっ」


「おおおーーーーーーーーーーっ！」
「ヨセフさん…」
「気持ちは、わかるよ…」
「きっとあの方は、我々を守るために何も逆らわずに」
「ぐうっ…、イエス、うっ…」

「…そうだ、妻には。私の妻マリアにはしばらくこの事は」
「ああ…。もう子供が生まれるんだってな」
「内緒にしておくように皆に言っておこう。ショックを受けないように…」













「はっ、はっ…」
「頑張って、マリアさん！」
「もう少し、もう少し！」
「頭が見えたよ、ほら頑張って！」












「ふぅ…」
「おめでとう、マリアさん」
「本当、頑張りましたね」
「これは元気な子に育つよ、間違いないよ！」

「ところで、名前はもう決めてるのかい？」
「ええ…。そうね」















「…」
「本当なのかな…イエスが生き返ったって」
「ああ、みんなそうやって噂してるよな」

「けれど、それなら私達の前に姿を現してくれたって」
「マリアさんは、見たって言ってたよ？」
「よく似た他人ではありまセンカ？」

「…けど、色んな人達が見たって言ってた…」
「そうなのだ。それで、みんながガリラヤに行けば会えるって言ってたらしいのだ」
「けど、本当にいるのでありましょうか、イエス殿…」

「皆さん。イエス先生の言われた事を信じられないのですか？」
「まぁまぁ、バルトロマイはん…」
「だから、こうしてみんなでガリラヤに向かってるじゃない」

「アタイ、信じてるよ。きっと、イエッさんが待ってるって」
「…そうですネ。イェース様は、必ず」
「…」
「うん…」

「みんな」
「ん？どうしたのペテロ」
「そんな、不安にならなくったって」

「イエス様の仰った事は、いつだって間違ってませんでしたよね？」
「…うん、そうだよね」
「だから、今度も。きっと仰っていた通りになりますよ」
「…ああ、そうだね。イエスさんがそう言ってたんだしな」

「それと…。ガリラヤに着いたら、イエス様のお父様とお母様に…」
「ああ…。そうやなぁ、辛い思いさせてしまうかと思うと、本当に…」
「胸が、苦しいでありますね…」













「ああ、君達は」
「今日は…。イエス様のお父様」
「あの…。そのイエスは、その…」

「ああ…。聞いてるよ。イエスは…何も逆らわずに、十字架にって…」
「うっ…イエス様…」
「グスッ…」
「イエスさん…」

「こんな…。みんなに心から慕われて」

「イエスも、きっと幸せだっただろう…」
「そんな…」
「イエス…」
「うっ、うっ…」

「あの…。お母様は…」
「ああ…。それじゃ中へ入って」

「あ、それと済まないがイエスの事は、内緒に…」
「…はい」






「あら、お弟子さん達。いらっしゃい」
「お邪魔しま…あれ？」
「もしかして、生まれたんですか？」
「赤ちゃんが？」
「わぁー、可愛いー」

「そう。二日前に生まれたんだ」
「ふふ…。よーしよし…」
「わぁー、おめでとうございますー」
「やー、愛らしいなあ」
「小さくって可愛いらしいのだー」

「…それにしても、イエスったら。母さんが大変だったのに顔も見せないで」
「あ…」
「えっと…」
「その…」

「ん？どうかしたの？」
「その…イエス様は…」
「忙しくて…その…」

「…ええ。わかってるわ」
「え？」
「マリア？」

「あの子は、黙って刑を受けにいったんでしょう？ガリラヤの、みんなの為に…」
「え？」
「お、お母さん？」
「マリア…」

「…わかるわよ。だって…あの子は」

「わ、私の…息子、だもの…うっ…」
「お母様…」
「うっ、うっ…イエスさん…」
「うっ…」


「だから…名づけましょう。この子に」

「あの子の、名前を」

「イエス、と…」



「…こういう、事だったんだ」
「イエスが、復活するって言ってたのは、こういう…」
「イエス、様…」

「イエス様ぁーーーーーっ…！」
「イエス…イエス…」
「イエスさんっ…」
「イエスさまぁー…」

「イエスはん、全部わかってたんやろなぁ、グスッ…」
「本当に、本当に…不思議な人であります…」
「これが…イェース様が私達に示してくれた奇跡…」
「…こうして、姿を見せてくれたんだね、グスッ…」
「イエスしゃん、ほ、本当に、本当に復活したのだ！」
「言っただろ…イエッさんは、絶対待ってるって…うっ…」
「確かに。先生は、確かに復活されました。…うっ、うっ、イエス先生…」