35 ボスモンキーがよじ登る!
文字数 2,574文字
アリスとモンキによるサル掃討作戦が固まり、ラフレシアたちは竜巻に乗って、サルたちが今にも堀を超えようとしているお菓子のお城へと回った。
当然、この状況下で慌てだしたのはパティスリーのほうだった。
ソフィアは、そうさらりと言うものの、表情は引きつっていた。
もし、アリスが竜巻に乗ってお菓子のお城を壊したり、お菓子を食べだしたりするようなことがあれば、パティスリーの手で沼に沈められてしまうかもしれないからだ。
もはや、旅の終わりどころか、誰が敵か味方かも分からなくなっているソフィアにとって、ストリームエッジを手にする原動力は、ただ一つだった。
トライブに勝つまで、死ねない。
その想いだけが、唯一彼女を突き動かしていた。
だが、時間は待ってくれなかった。
ソフィアが剣を構えた、まさにその正面から、サルが城の壁をよじ登ってきたのだった。
ソフィアは、ややジャンプするように、最初に上ってきたサル一匹に剣を真上から叩きつけた。
「キーッ!」と遠吠えを上げて、すぐに落ちていく。
それが、2、3匹続いたとき、今度はソフィアの左手と右手からサルがよじ登ってきた。
上ったはずのサルが落ちるのを見て、ソフィアの正面は危険だと察したのだ。
ソフィアは、3匹同時に床に降りたサルに、ストリームエッジを右に向け、そこから一気に直線を描くようにサルを切りつけていく。
クッキーに手を伸ばしかけたサルが、お菓子に手が届かないまま床に倒れていく。
つい先程は、ここからサルに囲まれて戦闘不能になったソフィアだったが、その反省を生かし、上がってきたサルから次々と倒していた。
サルの倒れた体の上に、またサルが倒れていき、その高さはついにソフィアの膝ほどまでになった。
その時、ほんの一瞬だけ、サルが床から消えた。
上がってこないと察したソフィアは、堀の見えるところまで動いた。
見るからにいかついサル――つまりボスモンキー――が、下からソフィアをのぞき込んでいた。
ボスモンキーの手には、先の尖った剣があった。
斬るための剣ではなく、明らかに突き刺すための剣だった。
ソフィアの目に、かなりのスピードで壁を上ってくるボスモンキーの姿が映った。
剣を右手に持ったまま、左手だけで壁の出っ張りを掴む。
言ってしまえば、片手だけでボルダリングをやっているような感じだ。
その姿にソフィアが見とれていると、ほどなくお菓子のお城の床にボスモンキーが着地し、ソフィアにその尖った剣を向けていた。
ソフィアは、ストリームエッジを前にかざしたまま、ボスモンキーに向かって一気に駆けていく。
そして、ストリームエッジが相手の剣に当たるか当たらないかのところで、真上に剣を上げて、一気に振り下ろした。
だが、ボスモンキーの目がその動きを捕らえる。
ボスモンキーは、ストリームエッジ目がけて、手にした剣の先をまっすぐに伸ばした。
ちょうど振り下ろされたストリームエッジを鋭く叩きつけ、その動きを軽く止める。
ソフィアは、それ以上剣を下ろしたくても、ボスモンキーの剣がちょうどストリームエッジの重心を突いてしまい、やや上方に腕を伸ばしたまま動けなくなってしまった。
少しだけ突き刺さったストリームエッジを、ボスモンキーはソフィアと反対側へと力づくで倒そうとする。
剣の自由が利かないソフィアは、ボスモンキーのとてつもない力に右足を地面から離され、もがく左足も浮き始めてしまった。
剣を動かすこともできないソフィアが宙を舞い、ボスモンキーの力のままに床の上に叩きつけられた。
ソフィアの背中が、重苦しい音を立てる。
床に叩きつけられて動くことのできないソフィアに、ボスモンキーの剣がまっすぐ向けられる。
ソフィアは、苦し紛れの声を浮かべながらも、立ち上がろうとした。
ちょうどトライブがそうしているかのように、決して諦めを許さなかった。
だが、ボロボロのソフィアに、それはできなかった。
ボスモンキーの手に持った鋭い剣が、ソフィアの顔の上に上げられ、剣先は彼女の首に向けられていた。
もはや、ソフィアは怯えるだけで、それ以上何も言うことができなかった。
あれだけの数のサルを倒したはずの兵士が、ボスモンキーにはわずか一撃でその命を奪われてしまう。
ソフィアの目は、いよいよ閉じようとしていた。
しかし、同時にソフィアの体が熱いオーラを感じた。
ソフィアの顔が、その温かな風に向いたとき、その目線の先に見慣れた姿の少女が立っていた。
その少女こそ、アリスだった。
アリスが来ることは分かっていたとは言え、ボスモンキーの前に立ちふさがる存在になろうとは、ソフィアは思っていなかった。
息を飲み込むような思いで、ソフィアはアリスを見た。