12 お菓子は食い荒らされた

文字数 2,542文字

アリスが、モンキと一緒にお花のお城に向かう中、一足先に堀の前から飛ばされたソフィア。


背中から叩きつけられたような感じだったが、目覚めると背中に全く痛みを感じなかった。

そして、同時にその目に見慣れない生物の姿が飛び込んでくる。

ここは……。

ソフィアの目に飛び込んできた生物は、床で仰向けになっているほとんど無防備なソフィアに手を出す様子もない。

ただ、じっとソフィアを見つめているだけだった。

あなたは……。

私?


パティスリーって言うんだ。

パティスリー……?


なんか、スイーツショップみたいな名前ね。

だって、私はお菓子の妖精だもん!


この城でずっと暮らしている、お菓子の国の妖精だよ!

ソフィアは、パティスリーのその言葉を聞いて、即座に自分が送られた場所が本当にお菓子のお城であることを確信した。


改めてパティスリーを見ると、背丈は新生児のような50センチほど。そして、頭の上にブルーベリーとクランベリー、その下にクリームのようなものがゼリー状のものに挟まれている。



まさに、全身ケーキのようなものだ。

それゆえ、手も足も生えていない。

パティスリーは、飛び跳ねながら動いているのだった。

今もこうして、仰向けになっているソフィアの横で、ピョ~ンピョ~ンと跳ねながらソフィアの顔を伺っているのだった。

なるほどね……。


ところで、私だけどうしてこの場所に送られてきたの?

たしか、アリスじゃ力不足って言ってたみたいだけど。

そうだねー……。


お姉ちゃんは、剣を持ってて強そうだったから呼んだんだ。

ラフレシアという悪いやつらから、城を守ってほしいんだ。

ラフレシア?


なんか、花の名前に聞こえるんだけど……。

そう。

お花のお城にいる悪い集団のことなんだ。


ラフレシアって、もともと嫌な花とかそういうイメージがあったけど、やっていることはまさにその通り。

お姉ちゃん、ちょっと立ち上がってこの城の中を見てほしいんだ。

まさか、もう城の中に入られている……?

そう……。


しかも、お菓子をいっぱい食べられちゃって……。

パティスリーのその声に誘われるように、ソフィアは起き上がり、首を左右に動かした。


お菓子のお城の妖精が言う通り、壁はところどころ剥がされており、あちこちに飾られた装飾も、その大半が上の部分から切り取られている様子だ。


詳しく調べようと、ソフィアは高く伸びる柱の前に立った。

その後ろからパティスリーが付いてくる。

これ……、すごくひどいじゃない……。

ソフィアが柱を触ると、ふわふわとした触り心地をその手に感じた。

真っ白な柱は、食べなくてもマシュマロのように見えた。


だが、その柱もソフィアの顔のあたりから上はところどころ食べられ、下のほうで厚さ10センチほどはあった柱も、場所によっては2センチくらいの幅しか残っていないところもあった。

ねぇ、パティスリー。聞いていい?
どうしたの、お姉ちゃん?
この柱、上まで全部マシュマロとかでできてるの?

そうだね。


結構硬いマシュマロを作ったつもりだけど、この柱、実は全部食べられるんだ。

城、壊れちゃうじゃない……。

普通は壊れないよ……。


ここにやってくるみんなも、柱までは食べようとしないもの。

だいたい、奥の部屋のスイーツパラダイスでおなかいっぱいになって帰っていくよ。

じゃあ、柱まで食べるということは、よほど悪い生物ってことになるわけね。

そう……。


まさか、お姉ちゃんは柱を食べたりしないよね。

さすがに、そんなことはしない。


というより、柱をお菓子だと思っても、柱は食べちゃいけないって思うもの。



そうなると、床も壁も、みんなお菓子ってこと?

ソフィアは、そう言いながらも、お菓子のお城の中を見渡した。

幾重にも積み重なってできたクッキーの壁は、ところどころで今にも穴が開きそうになっている。

フルーツが束ねられている天井も、ところどころかじられていて、大雨が降れば天井ごと落ちてしまいそうな感じだった。

勿論、そういうことだよ。


床は、ウエハースの下にスポンジを敷いてあるよ。

さすがに、靴でみんな踏んでるから床は食べられないけど、壁とか天井とかも、みんなお菓子だよ。

そうなのね……。



アリスがこの場所に来なくてよかった……。

アリス、聞いてるか。

お菓子のお城からブラックリスト入りされそうになってるぞ。

アリス?


誰それ……。

アリスは、さっき私の横にいた、ちょっと太った女の子。

スイーツとか、普通のごはんとかもそうだけど、食べることがものすごく好きでしょうがない子なの。


まだ堀のところにいると思うんだけど……。

そうなんだ……。


お姉ちゃんなら、さっきお花のお城のラフレシアを倒してきてって言ったばっかりなんだけどなー……。

アリスが一人で……。


大丈夫?

大丈夫だと思うよ。


やりますって言ってたし、兵士をやっているわけでしょ。

兵士をやっている時間より、食べている時間のほうが長いような気がするけど。

ソフィアは、一人で戦うアリスを少しだけ想像して、思わず目線を下に傾けた。


これまで、ソフィアですらもアリスが一人で冒険する姿を見たことがない。

「オメガピース」の決まり上、それはあってはいけないことのはずだ。

私、アリスが一人で冒険したがってるって聞いて、友達のトライブから一緒に付いてってと頼まれたの。


そうじゃないと、アリスはたぶん生き残れないから。

決して、アリスと一緒にスイーツを食べるために出たわけじゃないの。

そうなんだ……。


そうなると、アリスという人はもうここには来ないね……。

たぶん、お姉ちゃんの話を聞いている限り、一番来たがってたような気がするけど……、こんなときに、食べるだけの人なんていらない。

それは言える。

アリスにラフレシアを倒してきて、って言うのも間違っていないかもしれない。


でも……待って。私はここから出られないってこと?

すると、パティスリーは残念そうに、やや体を傾ける。

心なしか、クリームの部分がソフィアには小さく見えた。

ラフレシアに入られないように、城の周りに深い堀を掘っちゃったからね……。


それに、お姉ちゃんを私の魔術で外に出しちゃうと、この城を守れる人がいなくなっちゃう……。

そうね……。


なら、仕方がないわ。

この城を守るしかない。

ソフィアは、パティスリーの表情を見つめながら、きっぱりとした口調でそう言った。
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登場人物紹介

アリス・ガーデンス


15歳

軍事組織「オメガピース」にいるのに、戦いもせずにお菓子ばかり食べる女の子。何かとお騒がせなことをやってしまうドジっ娘。一応、銃使い兼魔術師。アッシュに片思い中!

モン・キホーテ(モンキ)


人食いサル。ひょんなきっかけからアリスの冒険に付いて行くことに。

アッシュ・ミッドフィル


23歳/ライフルマスター

冷静な判断力と圧倒的な銃の腕を持つ、絶対の銃使い。自らの誤射で家族と家を失い、モンスターの潜む森で1年間生き抜いた過去を持つ。暗い性格が仇となり、イケメンなのに恋愛経験がほぼ皆無。

ソフィア・エリクール


25歳

女剣士。今回、何故かアリスの保護者として不思議な世界について行くことに。

トライブ・ランスロット


25歳/ソードマスター

女剣士。またの名を「クィーン・オブ・ソード」。最強。

ケーキの妖精 パティスリー


5歳

お菓子のお城に住む妖精。クリームとブルーベリーとクランベリーでできている。

デビルラフレシア


草なのに兜をかぶっている、奇妙な植物「ラフレシア」のトップ。

竜巻を起こして、ある一定の生命を襲っているらしい。

ボスモンキー


その名の通り、サル山のボス。

言うまでもなく、モンキのボス。

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