20 お花のお城の姿なき妖精たち
文字数 2,542文字
モンキが困惑した表情を浮かべて、アリスの仮説に小さく首を横に振る。
それでもアリスは、最後まで聞いて、と言ってこう続けたのだ。
お花の妖精は、花なんです。
花だったとしたら、今まで通ってきたお花畑のように、花だけ食べられちゃってるじゃないですか。
動物の植物化計画をするような妖精たちが、そもそも花を食べてしまうラフレシアに取って変わられた。
そんなイメージでいいと思うんです。
アリスは、ここまで話した後にすぐ口を押さえた。
得意げになって仮説を話しているうちに、アリスの声がどんどん大きくなり、気が付くとお花のお城の壁に反射して、その声がリフレインしていたのだった。
アリスは、聞こえてもいない音をあえて口にして、説明を終わらせた。
目を左右に動かすモンキは、半ばアリスの仮説に納得しているような表情だった。
お花のお城の扉を開けると、外からの光が差し込むだけで、花どころか枝も葉もほとんど残っていない部屋が広がっていた。
地面はタイルが敷かれている通路を除けば、植物を植えたと思われるような土だが、その土からももはや雑草程度の小さな草しか生えていないのだった。
ラフレシアを倒すこと以外、特に目的もなくなってしまったアリスは、タイルの上にペタンと座り込んでしまった。
そして、眩しいばかりの光が差し込む天井を見上げた。
モンキのツッコミに、アリスは小さなため息でしか返すことができなかった。
だが、数秒の間を置いて、アリスの耳に聞こえてきたのは、モンキの声からは考えられないような、高いトーンのツッコミだった。
お花になれば、全て解決するんじゃない?
だって、このお城には豊富な栄養と、地下にはたくさんの水路がある。
ごはんはいっぱい食べられるし、花を咲かせても、また来年には花を咲かせられる。
これほど幸せな場所はないよ。
突然、モンキがアリスの右手を掴み、城の出口へと体を向けた。
驚いたアリスのほうが、逆に声が裏返ってしまった。
モンキは、アリスの言葉に息を飲み込み、掴んでいたアリスの手を離した。
そして、アリスの正面に立つと、やや下を向いてアリスの足下を見つめた。
その様子をこっそり見ているのか、お花の妖精の声は一呼吸置いて、こう告げた。
私はいま、声だけしか聞こえない存在なのかも知れない。
でも、よく見たら、私を見ることができるかも知れない。
アリスは、お花の妖精の声と同時に、目を左右に動かす。
左から右に目を移そうとすると同時に、同じ方向に向かって小さく白い光が流れていくのが分かった。
私は、死んでなんかいない。
いま見えたと思うけど……、今の私は花粉の姿。
でも、みんなラフレシアに食べられて、植物に宿ることもできない。
だから私は、この姿でいるしかない……。
そういうこと……。
だから、ここに少しでも植物が増えてくれれば……私はまた、その姿を取り戻せるのです。
その通りです。
特に、いま正義の味方みたいなことを言ってくれた、そこの茶色い髪の女の子は、私の素晴らしい理解者ですから……。
アリスは、お花の妖精がそう告げた瞬間、全身を軽く震わせた。
嫌な予感しかしなかった。