20 お花のお城の姿なき妖精たち

文字数 2,542文字

私、思うんです。

モンキをいじめた悪い妖精たちが、ラフレシアに食べられたんじゃないかなって。

ラフレシアに……食べられた?

そうだと思うんです。

もしそうじゃなかったら、そんな悪いことをする妖精たち、イコールラフレシアってことになってしまうじゃないですか。


ものすごく単純な話ですよ。

アリス。それ、ホントの話か?


ラフレシアと言わなくても、同じような悪さをするお花だったという可能性もあるかもな。

モンキが困惑した表情を浮かべて、アリスの仮説に小さく首を横に振る。

それでもアリスは、最後まで聞いて、と言ってこう続けたのだ。

お花の妖精は、花なんです。

花だったとしたら、今まで通ってきたお花畑のように、花だけ食べられちゃってるじゃないですか。


動物の植物化計画をするような妖精たちが、そもそも花を食べてしまうラフレシアに取って変わられた。

そんなイメージでいいと思うんです。

アリスは、ここまで話した後にすぐ口を押さえた。

得意げになって仮説を話しているうちに、アリスの声がどんどん大きくなり、気が付くとお花のお城の壁に反射して、その声がリフレインしていたのだった。


ラフレシアに気付かれたのか?

かも知れませんね。

いま、何かガサッという音が耳に響いた気がするんです。

アリスは、聞こえてもいない音をあえて口にして、説明を終わらせた。

目を左右に動かすモンキは、半ばアリスの仮説に納得しているような表情だった。

中が反応したのなら、アリスの言った通りなのかも知れないな。


それなら、オイラは安心して城の中に入れるよ。

たぶん、オイラの知ってるお花のお城じゃなくなってると思うけど。

そうですね。


それじゃお城の中に、レッツゴー2匹!

アリスはどうして、元ネタがものすごく古いギャグを口にできたのだろう。
やっぱり、城の中にもお花が残ってないな。

そうですね……。


なんか、ものすごく空っぽの空間って感じがします。

お花のお城の扉を開けると、外からの光が差し込むだけで、花どころか枝も葉もほとんど残っていない部屋が広がっていた。

地面はタイルが敷かれている通路を除けば、植物を植えたと思われるような土だが、その土からももはや雑草程度の小さな草しか生えていないのだった。

アリス。


本当だったら記憶を呼び戻したいんだけど……、中身が全く変わっちまって、オイラにはもう何も考えることができないんだ。

私だって、最後までメルヘンな場所だと信じていたのに、ショックです。


それに、モンキの言ってた機械も見えないし……、ラフレシアも戻ってきていないみたいだし……。

何も残ってないから、部屋の隅々まで見えるよ。


入口以外、この城の中にドアが一つもないことも……。

オイラとアリスの期待は、消えそうだな……。

つまり……、お菓子の貯蔵庫なんてものは……、見えないですね……。



あぁ~……。

せっかくお菓子が食べられると思ったのに~!

ラフレシアを倒すこと以外、特に目的もなくなってしまったアリスは、タイルの上にペタンと座り込んでしまった。

そして、眩しいばかりの光が差し込む天井を見上げた。

お菓子が……、食べたい……。


もしそれができなくても……、お花でもいいから食べたい……。

お花を食べてどうするんだよ。


食べられるものもありそうだけどさ。

モンキのツッコミに、アリスは小さなため息でしか返すことができなかった。


だが、数秒の間を置いて、アリスの耳に聞こえてきたのは、モンキの声からは考えられないような、高いトーンのツッコミだった。

お花になれば、全て解決するんじゃない?

えっ……?


モンキ、いま声がひっくり返らなかった?

別に……。

特に変な声は出さなかったと思うんだけどな。

じゃあ、空耳なんですかね……。
アリスがそう言って、一応背後を振り返るようなしぐさを見せたとき、再びアリスの耳にその声は聞こえた。

だって、このお城には豊富な栄養と、地下にはたくさんの水路がある。

ごはんはいっぱい食べられるし、花を咲かせても、また来年には花を咲かせられる。

これほど幸せな場所はないよ。

アリス。


逃げたほうがいい。

えっ……?


ええっ……?

突然、モンキがアリスの右手を掴み、城の出口へと体を向けた。

驚いたアリスのほうが、逆に声が裏返ってしまった。

どうしたのよ、モンキ。

これからラフレシアがやって来るのに。

思い出しちまったよ!


オイラを機械の中に入れた妖精は、こんな声でオイラを奥の方に誘い出したんだ。

ということは、モンキ。

この声が、お花の妖精ってこと?

そういうこと……!


オイラ、またあんなことされるの嫌だ……。

でも、姿は見えないですよ……。

花もないし、どうやって私やモンキをいじめるのか、私には分からないです。

……っ!


た……、たしかに、こんな明るいのに妖精の姿は見えないな。

モンキは、アリスの言葉に息を飲み込み、掴んでいたアリスの手を離した。

そして、アリスの正面に立つと、やや下を向いてアリスの足下を見つめた。



その様子をこっそり見ているのか、お花の妖精の声は一呼吸置いて、こう告げた。

私はいま、声だけしか聞こえない存在なのかも知れない。

でも、よく見たら、私を見ることができるかも知れない。

よく見たら……、見える存在……?

アリスは、お花の妖精の声と同時に、目を左右に動かす。


左から右に目を移そうとすると同時に、同じ方向に向かって小さく白い光が流れていくのが分かった。

私は、死んでなんかいない。

いま見えたと思うけど……、今の私は花粉の姿。


でも、みんなラフレシアに食べられて、植物に宿ることもできない。

だから私は、この姿でいるしかない……。

そうなんですか……。


やっぱり、お菓子のお城でもお花のお城でも、悪いのはラフレシアってことなんですね。

そういうこと……。


だから、ここに少しでも植物が増えてくれれば……私はまた、その姿を取り戻せるのです。

お花の妖精が、優しそうな声でそう言うと、突然モンキがアリスの横に立ち、口を挟んだ。

本当か?


またオイラのように、動物を植物にするんじゃないだろうな。

その通りです。


特に、いま正義の味方みたいなことを言ってくれた、そこの茶色い髪の女の子は、私の素晴らしい理解者ですから……。

理解者……。


ま、まさか……!

アリスは、お花の妖精がそう告げた瞬間、全身を軽く震わせた。

嫌な予感しかしなかった。

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登場人物紹介

アリス・ガーデンス


15歳

軍事組織「オメガピース」にいるのに、戦いもせずにお菓子ばかり食べる女の子。何かとお騒がせなことをやってしまうドジっ娘。一応、銃使い兼魔術師。アッシュに片思い中!

モン・キホーテ(モンキ)


人食いサル。ひょんなきっかけからアリスの冒険に付いて行くことに。

アッシュ・ミッドフィル


23歳/ライフルマスター

冷静な判断力と圧倒的な銃の腕を持つ、絶対の銃使い。自らの誤射で家族と家を失い、モンスターの潜む森で1年間生き抜いた過去を持つ。暗い性格が仇となり、イケメンなのに恋愛経験がほぼ皆無。

ソフィア・エリクール


25歳

女剣士。今回、何故かアリスの保護者として不思議な世界について行くことに。

トライブ・ランスロット


25歳/ソードマスター

女剣士。またの名を「クィーン・オブ・ソード」。最強。

ケーキの妖精 パティスリー


5歳

お菓子のお城に住む妖精。クリームとブルーベリーとクランベリーでできている。

デビルラフレシア


草なのに兜をかぶっている、奇妙な植物「ラフレシア」のトップ。

竜巻を起こして、ある一定の生命を襲っているらしい。

ボスモンキー


その名の通り、サル山のボス。

言うまでもなく、モンキのボス。

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