チョコの海岸物語

文字数 1,898文字

海岸で若い二人が恋をする物語。
まさか、お前にプライベートビーチまで誘われるとは思わなかったな。

こんな素敵な日に、ライフルマスターとデートがしたかったんですもの。

オメガピースから離れた南の島に飛んで、二人以外誰もいないデートスポットを予約したんです。

まぁ、厳密に言えばすぐそこにトライブがいるはずだよな。

お前がプライベートビーチを持てるような奴ではないと、よく分かっている。

まぁ、そこはいつものことなので……。


でも、いつかライフルマスターと結婚して、ものすごく稼げるようになったら、ミッドフィル家のプライベートビーチを持ちたいですね。

アリスは、眩いばかりのサンゴ礁に自分の将来を重ねた。

片想いが、いつか両想いになり、そして愛しのアッシュとゴールイン。

それ以外の道を、アリスは思い浮かべることができない。


アリスが握りしめる右手には、アッシュに渡したい愛のかけらが、その時を待っていた。

その夢を実現する、第一歩となるはずの、大切なプレゼントだ。



しばらく経って、アッシュがアリスを見つめながら口を開く。

俺が、プライベートビーチか……。


悪くはない。

森で生き抜いた俺が、その正反対の場所に安らぎを求めるのはいいことだと思う。

たしかに、ライフルマスターが一番似合っている場所は、オデッサの森ですものね……。

そうだな。


だからこそ、喧騒の森から抜け出し、ただこうして波の音が聞こえるビーチに、俺は身を寄せたいんだ。

できれば、その隣に誰かがいて欲しい。

じゃ、約束しましょう!


今日、このバレンタインという素敵な記念日に、二人の永遠を誓いあうのです!


心から好きだよ、って。

そう言うと、アリスは握りしめた手をアッシュに伸ばした。


そして、アッシュの手のひらが反射的に開くと、そこにプレゼントを優しく置いた。

今日という日に、お前がチョコを忘れるはずはないと、元から思っていた。

渡すのが、かなりストレート過ぎるような気がするが、それもまたお前らしくていい。

ありがとうございます!



もしよかったら、私の渾身の一粒、食べてください!

アッシュは包みを開き、アリスのお手製チョコを眺めた。


においも色合いも、決して悪くなかった。

それだけに、アリスは祈るような気持ちでアッシュの表情を伺っていた。

この香ばしいにおい、ビターチョコだな。


食べるぞ。

お願いします!

アッシュは、アリスの魂込めて作ったチョコを、一気に口の中に入れた。


噛んだ。



……ガリッ!

えっ……。

何だこれは……。


まさか、スイカの種を入れたんじゃないだろうな。

どう見ても、この色はスイカの種だと思うが。

あ、チョコチップを入れるつもりが、1年間熟成させようとしたスイカの種を入れちゃってた……。

スイカの種を熟成するというのは、そもそも聞いたことがない。

いくらここが海岸だからと言って、スイカの季節とは真逆だ。


アリス、半年以上前に捨てられた種を、今こうして俺の口に入れようなどということは、やって欲しくなかったな。

うわああああん、ごめんなさああああい!

その時、プライベートビーチの先にある別荘のドアが開いて、中からトライブが二人に向かって駆けてきた。

その手には、アリスの渡したものよりも一回り大きめのチョコが握られていた。

アリスが、部屋のキッチンにチョコチップを置きっぱなしにしてたから、私も簡単なものを作ってみたわ。

あぁ。


さっき、アリスの激マズチョコを食べさせられたから、口直しに食べてみたい。

えっ……?


私のは、もう激マズ認定ですか?

当然だ。


チョコチップとスイカの種を間違えるようでは、俺に本当の気持ちを伝えられるとは思えない。

アッシュは、そう言うなりトライブの作ったチョコを口に持っていった。


噛んだ瞬間、その顔は大きくうなずいた。

トライブ。

なかなか口にできないようなおいしさだ。


特に、チョコチップがいい味や食感を出している。

俺好みのチョコを作ってくれて、ありがたい。

そうね。


アッシュが私のプライベートビーチに行くと聞いたときから、ずっとアッシュ好みのものを作ろうとは思っていたけど、ここまで褒められるとは思わなかった。

なら、トライブ。


今日はここで、二人だけの愛を誓おう。

毎度ドジをやらかすようなアリスは置いて、岩が遠くに見えるところで、抱きしめたい。


愛してるよ、お前だけを。

えぇ……。

銃と剣、二人の「最強」が同時に砂浜を歩き出した。

少しずつ遠ざかっていく二人の背中に、アリスは付いて行くことすらできなかった。

私の、ライフルマスターへの愛はどうなるんですか……。
せめて、まともなチョコを作ってから言いなさい。

浜辺の剣士が見つめたのさ。


浜辺の剣士が見つめたのさ。



ザザーン……、ザザーン……。

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登場人物紹介

アリス・ガーデンス


15歳

軍事組織「オメガピース」にいるのに、戦いもせずにお菓子ばかり食べる女の子。何かとお騒がせなことをやってしまうドジっ娘。一応、銃使い兼魔術師。アッシュに片思い中!

モン・キホーテ(モンキ)


人食いサル。ひょんなきっかけからアリスの冒険に付いて行くことに。

アッシュ・ミッドフィル


23歳/ライフルマスター

冷静な判断力と圧倒的な銃の腕を持つ、絶対の銃使い。自らの誤射で家族と家を失い、モンスターの潜む森で1年間生き抜いた過去を持つ。暗い性格が仇となり、イケメンなのに恋愛経験がほぼ皆無。

ソフィア・エリクール


25歳

女剣士。今回、何故かアリスの保護者として不思議な世界について行くことに。

トライブ・ランスロット


25歳/ソードマスター

女剣士。またの名を「クィーン・オブ・ソード」。最強。

ケーキの妖精 パティスリー


5歳

お菓子のお城に住む妖精。クリームとブルーベリーとクランベリーでできている。

デビルラフレシア


草なのに兜をかぶっている、奇妙な植物「ラフレシア」のトップ。

竜巻を起こして、ある一定の生命を襲っているらしい。

ボスモンキー


その名の通り、サル山のボス。

言うまでもなく、モンキのボス。

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