47 今夜も生でラフレシア

文字数 2,693文字

最初、遠くに見えたはずの竜巻は、みるみるアリスたちに近づいてくる。


トライブもソフィアも、そしてモンキも、最初は剣を竜巻に向けていたが、直撃コースとなることが分かると、一歩、また一歩と後ずさりを始めた。

あの高さじゃ……、私にだって厳しいわよ。

トライブは剣の力でジャンプできるが、高度1000mにもなる竜巻の高さまで上ることはできるはずがなかった。


その能力すらないソフィア、そしてモンキは、ひたすらアリスの顔を見つめるだけだった。

どうするんだよ、アリス。

ボスモンキーが元に戻って、楽しい空間を襲う生命が出てこねぇと踏んでたのに、一体これは何なんだよ……。

モンキ。


私にも分からないです。

デビルラフレシアの考えていることが……。

そこまで言うと、アリスは竜巻をちょうど受けるかのような位置に立ち、上を見上げてデビルラフレシアに告げたのだった。

私たちの仲間を襲うのは、やめて下さい!

せっかく、ボスモンキーを元通りにしたのに……、その私たちを襲ってしまうんですか。


私とモンキは、ラフレシアの戦士ですよね……?

アリスが真剣にそう言うのを見ながら、トライブは思わずソフィアに尋ねる。

ラフレシアの戦士……?


ソフィア、どういうこと?

アリス、あの草みたいな生物と友達になっちゃったの。

そこまで悪い生物じゃないように見えたんじゃない。アリスの目には。

ソフィアがそう言った瞬間だった。

デビルラフレシアの目が、トライブとソフィアに鋭く向けられたのが、アリスの目に分かった。

たしかに、アリスとモンキはラフレシアの戦士だ。


だが、そこの女剣士二人は……、明らかに違う。

上から説教しては、よそでは楽しいことをしてそうな女どもだ。

そんなことありません。

真面目です。



ところで、今日は何をしに来たんですか?

やりたい放題襲えるようになったからな。

暴れまくっているんだ。

そう言うと、デビルラフレシアはその葉を軽く揺らし、コロシアムの中に竜巻を進めていった。

客席に残された食べかけのドーナツが、竜巻に吸い上げられていく。

やめて下さい!


というより、ラフレシアは本当はお菓子のお城を襲いたいんじゃないんですか?

それとも、もうお菓子のお城は滅んでしまったんです……か?

そうだそうだ!

オイラだって、お菓子のお城に行けると思ったから、今でもラフレシアの戦士をやってるんだ!

アリスとモンキは、言葉だけでデビルラフレシアの暴挙を止めようとする。


すると、デビルラフレシアが勢いよく降りてきて、二人に向けて葉を伸ばした。

たしかに、お前たちの言うとおりだ。

お菓子のお城こそ、ラフレシアの復讐の原点だからな。

そう言うと、デビルラフレシアは再び竜巻に飛び乗って、アリスとモンキを天高く連れて行く。

そして、トライブやソフィアが見えなくなると、アリスはそっとデビルラフレシアに告げた。

どうして……、ボスモンキーがマンドレイクから解放されたのに……、ラフレシアたちは人の快楽を嫌がったままなんですか?
それはな……。

デビルラフレシアは、すぐに答えを思い浮かべたにもかかわらず、そこで躊躇した。

それを見て、アリスはその顔をデビルラフレシアにそっと近づける。

それは、どういうことですか?

ボスモンキーがいなくなったからこそ、邪魔者がいなくなった。


パティスリーという極悪なお菓子の妖精をも食い散らかし、復讐を完遂させたい。

それが、「動物の植物化計画」を受けたラフレシアの当然の使命だからな。

ということは、お菓子のお城を滅ぼしてしまうんですか?


パティスリーがいなくなったら、もうお菓子のお城は再生できなくなってしまうような気がします。

お前だって、あんなパティスリーを許してはおけないだろう。


正しい道を少しだけ踏み外したかも知れないが、そこまでブラックリストに入れられるようなことをアリスはしていないはずだ。

たしかに、パティスリーは……、私をまだ許してはないでしょう。



でも、私がお菓子を食べたい魂は、そんなこと気にしません。

気にしろ。

普通、そこは


私だってパティスリーを許せません!


だろう。

言われてみれば、そうですよね。


私はお菓子のお城に行って、お菓子を食べたいんです。

でも、それを作ってくれるパティスリーとケンカ別れしたままで終わりたくないんです。


できるなら、パティスリーと仲直りして、パティスリーが許してくれる限りお城のお菓子を食べたいんですよ……。

アリス。


思い通りにならないことをことごとく拒否するような生命を、信じない方がいい。

その態度だけで、生命は強くなり、凶暴になる。

デビルラフレシアは、アリスに向けて静かに言った。


すると、その言葉を聞いたモンキが、思わず口を挟んだ。

オイラの勝手な推測なんだけどさ、言っていい?
どうした、モンキ。
モンキ、推測でもいいから聞きたいです。

その輝いた目をモンキに向けながら、アリスははっきりとそう言った。


その視線に圧倒されたのか、モンキは一呼吸置いてから、思い浮かべたことを口にした。

ボスモンキーの剣に、マンドレイクが埋め込まれてただろ?


もしかしたら、パティスリーのどこかにもマンドレイクが埋め込まれてるような気がする。

だから、オイラたちにずっと高圧的な態度をとり続けてきたんだと思う。

ラフレシアに対しても、か。

おそらく、そうだろうな。

モンキがそう言うと、アリスがその横から何かを思い出したように口を挟む。

たしかに、和菓子と洋菓子は相反する存在かも知れません。


でも、食べたら甘くておいしいことには変わりないと思うんです。

それを、パティスリーが認めようとしなかったのは、きっとパティスリーに取り憑いたマンドレイクのせいなんじゃないかな、って思っちゃうんです。

そうか……。


だが、もしその仮説が合っていたとしたら、ラフレシアはそのマンドレイクのせいで城を追われ、お花のお城に着いたらボスモンキーの作った機械で植物にされ、パティスリーに悪者呼ばわりされただけの存在になってしまう。

何とも惨めな和菓子だったか、ということだ。

デビルラフレシアさん……。

デビルラフレシアの歯切れの悪い言葉に、アリスは一抹の不安を抱えていた。

最後の戦い次第では、その不安が現実のものになる可能性だってあった。


そう思っていたアリスは、不意に聞き覚えのある声が聞こえ、下を向いた。

そこは、お菓子のお城の真上だった。

お姉ちゃんたち、とうとう気付いちゃったみたいだね。


もう、みんなお菓子にするけどいい?

行くしかないようだな。
分かりました!
お菓子のお城の外壁に横付けするように、竜巻はその場所で回転を止め、デビルラフレシアはアリスとモンキを乗せたままお菓子のお城の中へと入っていった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

アリス・ガーデンス


15歳

軍事組織「オメガピース」にいるのに、戦いもせずにお菓子ばかり食べる女の子。何かとお騒がせなことをやってしまうドジっ娘。一応、銃使い兼魔術師。アッシュに片思い中!

モン・キホーテ(モンキ)


人食いサル。ひょんなきっかけからアリスの冒険に付いて行くことに。

アッシュ・ミッドフィル


23歳/ライフルマスター

冷静な判断力と圧倒的な銃の腕を持つ、絶対の銃使い。自らの誤射で家族と家を失い、モンスターの潜む森で1年間生き抜いた過去を持つ。暗い性格が仇となり、イケメンなのに恋愛経験がほぼ皆無。

ソフィア・エリクール


25歳

女剣士。今回、何故かアリスの保護者として不思議な世界について行くことに。

トライブ・ランスロット


25歳/ソードマスター

女剣士。またの名を「クィーン・オブ・ソード」。最強。

ケーキの妖精 パティスリー


5歳

お菓子のお城に住む妖精。クリームとブルーベリーとクランベリーでできている。

デビルラフレシア


草なのに兜をかぶっている、奇妙な植物「ラフレシア」のトップ。

竜巻を起こして、ある一定の生命を襲っているらしい。

ボスモンキー


その名の通り、サル山のボス。

言うまでもなく、モンキのボス。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色