47 今夜も生でラフレシア
文字数 2,693文字
最初、遠くに見えたはずの竜巻は、みるみるアリスたちに近づいてくる。
トライブもソフィアも、そしてモンキも、最初は剣を竜巻に向けていたが、直撃コースとなることが分かると、一歩、また一歩と後ずさりを始めた。
トライブは剣の力でジャンプできるが、高度1000mにもなる竜巻の高さまで上ることはできるはずがなかった。
その能力すらないソフィア、そしてモンキは、ひたすらアリスの顔を見つめるだけだった。
ソフィアがそう言った瞬間だった。
デビルラフレシアの目が、トライブとソフィアに鋭く向けられたのが、アリスの目に分かった。
そう言うと、デビルラフレシアはその葉を軽く揺らし、コロシアムの中に竜巻を進めていった。
客席に残された食べかけのドーナツが、竜巻に吸い上げられていく。
アリスとモンキは、言葉だけでデビルラフレシアの暴挙を止めようとする。
すると、デビルラフレシアが勢いよく降りてきて、二人に向けて葉を伸ばした。
そう言うと、デビルラフレシアは再び竜巻に飛び乗って、アリスとモンキを天高く連れて行く。
そして、トライブやソフィアが見えなくなると、アリスはそっとデビルラフレシアに告げた。
デビルラフレシアは、すぐに答えを思い浮かべたにもかかわらず、そこで躊躇した。
それを見て、アリスはその顔をデビルラフレシアにそっと近づける。
ボスモンキーがいなくなったからこそ、邪魔者がいなくなった。
パティスリーという極悪なお菓子の妖精をも食い散らかし、復讐を完遂させたい。
それが、「動物の植物化計画」を受けたラフレシアの当然の使命だからな。
言われてみれば、そうですよね。
私はお菓子のお城に行って、お菓子を食べたいんです。
でも、それを作ってくれるパティスリーとケンカ別れしたままで終わりたくないんです。
できるなら、パティスリーと仲直りして、パティスリーが許してくれる限りお城のお菓子を食べたいんですよ……。
デビルラフレシアは、アリスに向けて静かに言った。
すると、その言葉を聞いたモンキが、思わず口を挟んだ。
その輝いた目をモンキに向けながら、アリスははっきりとそう言った。
その視線に圧倒されたのか、モンキは一呼吸置いてから、思い浮かべたことを口にした。
ボスモンキーの剣に、マンドレイクが埋め込まれてただろ?
もしかしたら、パティスリーのどこかにもマンドレイクが埋め込まれてるような気がする。
だから、オイラたちにずっと高圧的な態度をとり続けてきたんだと思う。
たしかに、和菓子と洋菓子は相反する存在かも知れません。
でも、食べたら甘くておいしいことには変わりないと思うんです。
それを、パティスリーが認めようとしなかったのは、きっとパティスリーに取り憑いたマンドレイクのせいなんじゃないかな、って思っちゃうんです。
そうか……。
だが、もしその仮説が合っていたとしたら、ラフレシアはそのマンドレイクのせいで城を追われ、お花のお城に着いたらボスモンキーの作った機械で植物にされ、パティスリーに悪者呼ばわりされただけの存在になってしまう。
何とも惨めな和菓子だったか、ということだ。
デビルラフレシアの歯切れの悪い言葉に、アリスは一抹の不安を抱えていた。
最後の戦い次第では、その不安が現実のものになる可能性だってあった。
そう思っていたアリスは、不意に聞き覚えのある声が聞こえ、下を向いた。
そこは、お菓子のお城の真上だった。