11 ばったんばったんおおさわぎ

文字数 2,625文字

オイラ、速く走り過ぎちゃって、本当にゴメン……。

ケガとかしてない?

大丈夫です。

少し尻餅をついただけですので……。

そう言うと、アリスはふるい落とされたときに付いた土を振り払おうと、スカートを軽くはたいた。


どうやら、運悪く土ではなく、雨が乾いていないような泥の上に着地してしまったようだ。

スカートに触れたアリスの右手に、泥がいっぱいついている。

あーー、汚れてるーー……。


これじゃ、お菓子のお城にもお花のお城にも、変質者扱いされちゃうかも……。

アリスは、ただでさえ変なことをするからじゃないか。

命の恩人、アリスが変質者には見えないよ。


それに、この山の上にはオイラたちの宿があるから、手洗いにはなるけど、スカートを洗って乾燥することならできるさ。

モンキの住処って、なんだか人間顔負けのところなんですね。

そりゃ、ほとんど同じ進化を辿っているからな。


でも、オイラ人食いサルにとっては、人間の生活の方がよっぽど羨ましいんだ。

そうね……。

アリスがそう言うと、モンキは再びアリスの前に立ち、背を向けて乗るように手招きした。

アリスは、モンキの背中を先程よりも強く掴み、まだ先の長い山頂までの道をじっと見つめた。

それじゃ、もう一度出発進行!

モンキは、再び急な坂道を一気に駆け上がる。


今度もまた、アリスはモンキのスピードに手を離しそうになるが、なんとか食らいついた。

そのうち、モンキのスピードにも慣れると、アリスはかつてないほど快適な移動に、徐々に胸がゾクゾクしてくるように思えた。


とにかく、風が気持ちいい。強いくらいがちょうどいい。

日が差してきた!

おーーっし!

山頂はもうすぐだ!

坂道を蹴るモンキの足にも、いっそう力が入る。

アリスにも、それははっきりと感じていた。


そして、目の前に飛び込んでくる木々がほとんど見えなくなると、そこがゴールだった。

だが、その瞬間、モンキが突然息を飲み込み、これまで飛ばしていたのが嘘であるかのように立ち止まった。

おーーっとっとっとっと……!

アリスは、モンキからまっすぐ投げ出されそうになったのを、何とか体を掴んで耐えようとした。

だが、アリスどころかモンキも、物理の法則に逆らうことができなかった。



痛い。



アリスは、背中を襲う痛みで、ようやく目を覚ました。

どうやら、モンキのほうが遠くに投げ出されているようだ。

ねぇ、モンキ……。


乗っている人は急に止まれないですよ……。



って、えーーっ!

いたた……、アリス、どうした……?


あ……っ!

アリスとモンキは、山頂に広がっている景色に向かって、同時に右腕を伸ばした。


突然止まったとき、既にモンキには分かっていたことだが、そこにはモンキにとって、あってはならない光景が広がっていた。そして、その惨状は、山頂にある「モンキのいる国」を知らないアリスにも、はっきりと伝わった。

お猿さんの楽園が……、滅んでる……。
やっぱり、登り切ったときの異様な感触は、間違ってなかったか……。

人間の暮らすような、レンガ作りの家が立ち並んでいたところは、全て何者かに焼かれており、家と家とを隔てる通りには、その残骸が散乱していた。


しっかりとした形で残っている建物は一つもなく、その代わりにところどころ煙が立ちこめている。



呆然と立ち尽くすアリスの横で、モンキは前足を地面に強く叩きつけた。

オイラの……、オイラの楽園がっ!!!

モンキ……。


他のお猿さんは、大丈夫なのですか……?

アリス……。


オイラ、見てくるよ……。

仲間が生きているかどうかを……。

そう言うと、モンキはアリスを呼ぶことなく、力なく焼け跡に向かって歩き出した。

アリスも、その後ろから付いて行く。


時折、煙がアリスの目に入り込むが、モンキはそれでも前に進んでいく。

せめて、仲間だけでも残っていれば。



だが、全ての通りを歩いた後、モンキはようやくアリスの気配に気が付き、力なく首を振った。

みんな、焼け跡の中で消えていった。


生きているサルは、一匹もいない。

そんな……。


もしかすると、さっき見かけた人食いサルは……、この山で居場所を失って、暴れるしかなかったのかも知れないですね……。

言われてみれば……、そうだよな……。


オイラの目の前で、あんなに暴れるんだもの……。

普通は、仲間どうしはそこまで攻撃し合ったりしない。

そうね……。


私、ものすごく心が痛む……。

この山頂に住んでいたのがみなモンキの仲間だと思うと、アリスは掛ける言葉に悩むしかなかった。

まるで、「オメガピース」からみんないなくなってしまうのと、状況としては一緒だった。



しばらく言葉を選んだ後、アリスはそっとモンキに言った。

そういつまでも悲しまない方がいいです。


気持ちは分かるけど……、モンキという希望がいるのですから。

アリス……。


オイラ……、こうして偶然生き残ったんだよな……。

アリスのおかげかも知れない……。

そうですよ。


こんなことをするのは、たぶんモンキの仲間じゃないです。

部外者です。きっと。


その部外者を……、モンキの楽園をこんなふうにしてしまったモンスターが、私でも許せないです。

本当に……、そう思ってくれるのか……。

勿論です……!

アリスは、モンキに向かってはっきりとうなずくと、今度はアリスの目で焼け跡をじっくり見た。

すると、ところどころに紫色の花びらが落ちていた。

モンキ、ちょっと聞いていいですか……?
いいよ。
モンキが小さくうなずくと、アリスは焼け跡に落ちていた紫色の花びらを、その手にいくつか取って、モンキに見せた。
こんな気味悪そうな色の花、このあたりで見たことありますか?

この色……。


悪い、オイラも見たことないんだ。

そうですか……。



今のモンキの言葉で、私、何か分かったような気がします。

え……っ?


どういうことが分かったんだ?

たぶん、これをやったのもお花のお城だと思うんです。

ラフレシアという、悪い集団……じゃないか、って思うんです。

アリスは、ラフレシアという言葉を咄嗟に思いつき、十中八九推測で言った。

そこまで焼き払うことなど、本来は人間の手でしかできないことではあるが、どうしてもお菓子のお城のピンチと重なって仕方がなかった。


だが、そんなアリスの言葉に、モンキは何度も首を縦に振った。

アリスの言う通りだね。間違いなく。
そう言うと、モンキは力なく歩きだし、山頂の開けた一角からかすかに覗かせる、一つの城を指差した。

次に行くべきは、あそこだね。

お花のお城。

もちろん!

アリスは、お花のお城に指差して、はっきりとうなずいた。

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登場人物紹介

アリス・ガーデンス


15歳

軍事組織「オメガピース」にいるのに、戦いもせずにお菓子ばかり食べる女の子。何かとお騒がせなことをやってしまうドジっ娘。一応、銃使い兼魔術師。アッシュに片思い中!

モン・キホーテ(モンキ)


人食いサル。ひょんなきっかけからアリスの冒険に付いて行くことに。

アッシュ・ミッドフィル


23歳/ライフルマスター

冷静な判断力と圧倒的な銃の腕を持つ、絶対の銃使い。自らの誤射で家族と家を失い、モンスターの潜む森で1年間生き抜いた過去を持つ。暗い性格が仇となり、イケメンなのに恋愛経験がほぼ皆無。

ソフィア・エリクール


25歳

女剣士。今回、何故かアリスの保護者として不思議な世界について行くことに。

トライブ・ランスロット


25歳/ソードマスター

女剣士。またの名を「クィーン・オブ・ソード」。最強。

ケーキの妖精 パティスリー


5歳

お菓子のお城に住む妖精。クリームとブルーベリーとクランベリーでできている。

デビルラフレシア


草なのに兜をかぶっている、奇妙な植物「ラフレシア」のトップ。

竜巻を起こして、ある一定の生命を襲っているらしい。

ボスモンキー


その名の通り、サル山のボス。

言うまでもなく、モンキのボス。

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