11 ばったんばったんおおさわぎ
文字数 2,625文字
そう言うと、アリスはふるい落とされたときに付いた土を振り払おうと、スカートを軽くはたいた。
どうやら、運悪く土ではなく、雨が乾いていないような泥の上に着地してしまったようだ。
スカートに触れたアリスの右手に、泥がいっぱいついている。
アリスは、ただでさえ変なことをするからじゃないか。
アリスがそう言うと、モンキは再びアリスの前に立ち、背を向けて乗るように手招きした。
アリスは、モンキの背中を先程よりも強く掴み、まだ先の長い山頂までの道をじっと見つめた。
モンキは、再び急な坂道を一気に駆け上がる。
今度もまた、アリスはモンキのスピードに手を離しそうになるが、なんとか食らいついた。
そのうち、モンキのスピードにも慣れると、アリスはかつてないほど快適な移動に、徐々に胸がゾクゾクしてくるように思えた。
とにかく、風が気持ちいい。強いくらいがちょうどいい。
坂道を蹴るモンキの足にも、いっそう力が入る。
アリスにも、それははっきりと感じていた。
そして、目の前に飛び込んでくる木々がほとんど見えなくなると、そこがゴールだった。
だが、その瞬間、モンキが突然息を飲み込み、これまで飛ばしていたのが嘘であるかのように立ち止まった。
アリスは、モンキからまっすぐ投げ出されそうになったのを、何とか体を掴んで耐えようとした。
だが、アリスどころかモンキも、物理の法則に逆らうことができなかった。
痛い。
アリスは、背中を襲う痛みで、ようやく目を覚ました。
どうやら、モンキのほうが遠くに投げ出されているようだ。
アリスとモンキは、山頂に広がっている景色に向かって、同時に右腕を伸ばした。
突然止まったとき、既にモンキには分かっていたことだが、そこにはモンキにとって、あってはならない光景が広がっていた。そして、その惨状は、山頂にある「モンキのいる国」を知らないアリスにも、はっきりと伝わった。
人間の暮らすような、レンガ作りの家が立ち並んでいたところは、全て何者かに焼かれており、家と家とを隔てる通りには、その残骸が散乱していた。
しっかりとした形で残っている建物は一つもなく、その代わりにところどころ煙が立ちこめている。
呆然と立ち尽くすアリスの横で、モンキは前足を地面に強く叩きつけた。
そう言うと、モンキはアリスを呼ぶことなく、力なく焼け跡に向かって歩き出した。
アリスも、その後ろから付いて行く。
時折、煙がアリスの目に入り込むが、モンキはそれでも前に進んでいく。
せめて、仲間だけでも残っていれば。
だが、全ての通りを歩いた後、モンキはようやくアリスの気配に気が付き、力なく首を振った。
この山頂に住んでいたのがみなモンキの仲間だと思うと、アリスは掛ける言葉に悩むしかなかった。
まるで、「オメガピース」からみんないなくなってしまうのと、状況としては一緒だった。
しばらく言葉を選んだ後、アリスはそっとモンキに言った。
アリスは、モンキに向かってはっきりとうなずくと、今度はアリスの目で焼け跡をじっくり見た。
すると、ところどころに紫色の花びらが落ちていた。
アリスは、ラフレシアという言葉を咄嗟に思いつき、十中八九推測で言った。
そこまで焼き払うことなど、本来は人間の手でしかできないことではあるが、どうしてもお菓子のお城のピンチと重なって仕方がなかった。
だが、そんなアリスの言葉に、モンキは何度も首を縦に振った。
アリスは、お花のお城に指差して、はっきりとうなずいた。