1 私の片思いは砕け散りました!

文字数 2,518文字

おはよーございまーす!

おはよう、アリス。

今日は朝からうれしそうね。

はいっ!


ちょっといいことを思い出したので!

ここは、平和と正義を守る軍事組織「オメガピース」の一部屋。


15歳の少女のアリスは、ルームメイト、またの名を保護者ともいうべき女剣士トライブに、朝から笑顔を見せていた。


アリスの体からは、口笛さえ聞こえてくる。

アリス、いいことって何?

ソードマスター、実は……!


夢の中で、アッシュ・ライフルマスターに好かれちゃったんです!

好かれたの!

彼氏いない歴=年齢 のトライブは、アリスの言葉に普段以上に首を突っ込む。


そんなトライブに、アリスは軽く照れたような表情を見せた。

はい!


夢の中で、ライフルマスターにこう言ったんです。


私と一緒にご飯食べましょ~ って!

アッシュはなんて反応したの?

はい!


アリスの作ったご飯なら、な~んでも食べてあげるよ~!


なんて言ってました。

アリスの作ったごはんを食べるなんて、アッシュはありえないわよ。


フライパンしょっちゅう焦がすでしょ。

ギクッ……!

アリスは、思わずおどけたアクションを見せる。

それもそのはず、アリスは人一倍ごはんを食べるのに、料理が人一倍、いやその数倍も下手なのである。

アッシュと結婚して、家庭を持つということは、そんな楽なことじゃないわ。


せめて、手料理の一つぐらい作れるようになりなさいよ。

えー。


でも、これからリアルに告ったら、違う答えが返ってくるかもしれないです!

せっかく片思いの展開がいい感じになってきたので、このまま突っ走っていきたいです。

羨ましいわ……。


まぁ、アッシュに言ってどういう答えが返ってくるかは目に見えているけど。

アリスのいる部屋の一つ上が、アッシュの部屋である。

昼夜関係なしに銃で戦い続ける「絶対の銃使い」が、いつ就寝しているかはわからなかった。


だが、アリスにはわかっていた。

時々聞こえる、アッシュの心臓の音。

アッシュに憧れて銃の世界に飛び込んできたアリスにとって、ほんのわずかな音でも敏感になるのは、銃で戦う者ゆえのささやかなる習性なのだろう。

ちょうどいい感じに、部屋に戻ってきているみたいですね。


ドアをノックしてすぐに出そうなら、ライフルマスターに告ってもいいですか?

構わないわ。

わーい!


たぶん、今日は恋愛運がうまくいきそう!

アリスはそう言うなり、スキップしながら部屋の出口へと向かい、思わずドアノブを握り忘れるほど急いで部屋を出た。


そして、階段を珍しく1段飛ばしで駆け上がって、アッシュの部屋にたどり着く。

ピンポーン!


ピンポンピンポンピンポーン!

アリス、ドアをノックするということを1分で忘れた模様。


透き通っているとは言えない地声により、部屋からアッシュを呼び出す。

近づいてきたー!

ドアノブに手がかけられた。


アリスは、廊下の壁にギリギリ背中をつけないようにして、憧れのアッシュが出てくるのを今か今かと待っていた。


そして、かすかに開いたドアから、青い髪がひらひらと廊下へとなびく。

うるさいと思ったら、やっぱりアリスか……。


今日はなんだ。

はい、告白です!

アリスは、無意識のうちに「告白」の二文字を口にしていた。


そもそも、アリスは「オメガピース」に入ったときから、美形の銃使いアッシュにぞっこんで、アリスが覚えているだけでも1年で30回ぐらい告白している。

そのせいもあり、どうしても事あるごとに「告白」の二文字を使ってしまうのである。

またか……。


今日は俺の心を動かせるといいな。

はい!今日はちゃんとした告白文を持ってきました!


えっとー、ライフルマスター、ちょっといいですか?

あぁ。

私の愛情込めた手料理、食べたいですよね!

私、ライフルマスターのために、一生懸命作ってきますから!

アリスは、別に料理を作ったわけでもないのに、両手で皿を包むようなしぐさをアッシュに見せ、見えない器をアッシュに差し出した。


アッシュの目が、かすかに細くなる。

アリスの作った時点で、どういう味か想像できる。


それを覚悟で作ろうとする勇気だけは、受け取ろう。

えっ!本当ですか?


じゃあ、今度時間があるときに、ライフルマスターのために作ってきま……。

あ、別に作れと言ってるわけではない。


というか、いらない。

え……!

アリスは、次の言葉を言おうとして、思わず口を開けたが、そのまま閉じることができなくなってしまった。


ただ、憧れの人の目だけを見て、アリスはかすかに震えた。

アリス。


俺を好きになってくれるのはありがたい。

ただ、俺はアリスのような、言葉だけ本気になる人を信じることができない。

言葉だけ……。

アリス。


かりにも、お前は銃を使い始めた「オメガピース」の兵士だ。

冒険の一つぐらい、一人前にできたほうがいい。

さすが、オデッサの森で生き残ったライフルマスターは違います……。
そう言うと、アッシュはドアを開けたまま部屋の奥へと向かい、すぐに一枚の世界地図を持ってアリスの前に戻ってきた。

で、アリス。


お前は、食べることに興味を持っているはずだ。

なら、トライブに許可をとってここに行ってこい。

ここって……、うわぁ~!

アリスは、アッシュが地図に指差した場所を見て、思わず舌なめずりをした。



お菓子のお城



地図にはそう書かれてあったからだ。

お前が興味を持ちそうな城だろう。


そこで、本格的にお菓子の作り方を教わってこい。

そこで俺に向けたお菓子を作ってくるまで、俺はもう次の告白を受けない。

告白が……できない……、ということですか?

あぁ。


今のお前のことを考えて、俺はあえてそれを勧める。

あ、お菓子の城まで行くのに、横にトライブを連れて行くな。お前ひとりで敵を倒せ。

そう言うと、アッシュはドアノブを握りしめ、ドアを一気に部屋へと引いていった。


アリスは閉まっていくドアを見つめながら、何も言うことができなかった。

そして、無情にもドアが閉まった。

私、リアルにパティシエになるまで、告白できないんだ……。


なんか、すごい罰ゲームを受けてしまったような感じがする。

アリスは、おそらくしばらくは開かないだろうそのドアを見つめながら、アッシュの部屋の前に立ちすくんだ。


もう何を言っても、憧れの存在には届かない。そんな無力感が、突然アリスには訪れたのだった。

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登場人物紹介

アリス・ガーデンス


15歳

軍事組織「オメガピース」にいるのに、戦いもせずにお菓子ばかり食べる女の子。何かとお騒がせなことをやってしまうドジっ娘。一応、銃使い兼魔術師。アッシュに片思い中!

モン・キホーテ(モンキ)


人食いサル。ひょんなきっかけからアリスの冒険に付いて行くことに。

アッシュ・ミッドフィル


23歳/ライフルマスター

冷静な判断力と圧倒的な銃の腕を持つ、絶対の銃使い。自らの誤射で家族と家を失い、モンスターの潜む森で1年間生き抜いた過去を持つ。暗い性格が仇となり、イケメンなのに恋愛経験がほぼ皆無。

ソフィア・エリクール


25歳

女剣士。今回、何故かアリスの保護者として不思議な世界について行くことに。

トライブ・ランスロット


25歳/ソードマスター

女剣士。またの名を「クィーン・オブ・ソード」。最強。

ケーキの妖精 パティスリー


5歳

お菓子のお城に住む妖精。クリームとブルーベリーとクランベリーでできている。

デビルラフレシア


草なのに兜をかぶっている、奇妙な植物「ラフレシア」のトップ。

竜巻を起こして、ある一定の生命を襲っているらしい。

ボスモンキー


その名の通り、サル山のボス。

言うまでもなく、モンキのボス。

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