1 私の片思いは砕け散りました!
文字数 2,518文字
ここは、平和と正義を守る軍事組織「オメガピース」の一部屋。
15歳の少女のアリスは、ルームメイト、またの名を保護者ともいうべき女剣士トライブに、朝から笑顔を見せていた。
アリスの体からは、口笛さえ聞こえてくる。
彼氏いない歴=年齢 のトライブは、アリスの言葉に普段以上に首を突っ込む。
そんなトライブに、アリスは軽く照れたような表情を見せた。
アリスは、思わずおどけたアクションを見せる。
それもそのはず、アリスは人一倍ごはんを食べるのに、料理が人一倍、いやその数倍も下手なのである。
アリスのいる部屋の一つ上が、アッシュの部屋である。
昼夜関係なしに銃で戦い続ける「絶対の銃使い」が、いつ就寝しているかはわからなかった。
だが、アリスにはわかっていた。
時々聞こえる、アッシュの心臓の音。
アッシュに憧れて銃の世界に飛び込んできたアリスにとって、ほんのわずかな音でも敏感になるのは、銃で戦う者ゆえのささやかなる習性なのだろう。
アリスはそう言うなり、スキップしながら部屋の出口へと向かい、思わずドアノブを握り忘れるほど急いで部屋を出た。
そして、階段を珍しく1段飛ばしで駆け上がって、アッシュの部屋にたどり着く。
アリス、ドアをノックするということを1分で忘れた模様。
透き通っているとは言えない地声により、部屋からアッシュを呼び出す。
ドアノブに手がかけられた。
アリスは、廊下の壁にギリギリ背中をつけないようにして、憧れのアッシュが出てくるのを今か今かと待っていた。
そして、かすかに開いたドアから、青い髪がひらひらと廊下へとなびく。
アリスは、無意識のうちに「告白」の二文字を口にしていた。
そもそも、アリスは「オメガピース」に入ったときから、美形の銃使いアッシュにぞっこんで、アリスが覚えているだけでも1年で30回ぐらい告白している。
そのせいもあり、どうしても事あるごとに「告白」の二文字を使ってしまうのである。
アリスは、別に料理を作ったわけでもないのに、両手で皿を包むようなしぐさをアッシュに見せ、見えない器をアッシュに差し出した。
アッシュの目が、かすかに細くなる。
アリスは、次の言葉を言おうとして、思わず口を開けたが、そのまま閉じることができなくなってしまった。
ただ、憧れの人の目だけを見て、アリスはかすかに震えた。
アリスは、アッシュが地図に指差した場所を見て、思わず舌なめずりをした。
お菓子のお城
地図にはそう書かれてあったからだ。
そう言うと、アッシュはドアノブを握りしめ、ドアを一気に部屋へと引いていった。
アリスは閉まっていくドアを見つめながら、何も言うことができなかった。
そして、無情にもドアが閉まった。
アリスは、おそらくしばらくは開かないだろうそのドアを見つめながら、アッシュの部屋の前に立ちすくんだ。
もう何を言っても、憧れの存在には届かない。そんな無力感が、突然アリスには訪れたのだった。