36 さるさる合戦

文字数 2,582文字

お菓子のお城のピンチ、私が許しません!

アリスは、ボスモンキーに銃を向けることなく、言葉だけではっきりとそう言った。

その瞬間、それまでソフィアに向けられていた、ボスモンキーの鋭い剣がアリスに伸びたように見えたが、アリスは怯えなかった。

ほぅ。


さして強そうには見えない少女が、私に何をしようとする。

まさか、その口で体全体を食べるとかじゃないよなぁ。


アリスならやりかねない気がしてならない。

私は、ソフィアさんを守るだけです。


ボスモンキーと戦うのは、お猿さんです。



モンキ、出ておいで。

ボスモンキーが、こんなことになっちまうなんて、オイラには受け入れられないよ!

アリスに手招きされるように、モンキはお菓子の陰から出てきた。

モンキの目は、じっとボスモンキーを見つめている。


敵対するような鋭い目と、それにも劣らぬ、何かを語りかける目だ。


だが、ボスモンキーの目は、より鋭くなる一方だ。

サル山の生き残りめ……。


まさか、あの山から生き残りが出るとは思わなかったな……。

しかも、モンキという名前まで呼ばれてか……。

オイラが山を下りてる間に、オイラたちの住処がなくなっちまったんだ!



なぁ、ボスモンキー。

これだけは信じたくないんだが、戦う前に答えてほしいんだ。

モンキの右手は、かつてサルの楽園が広がっていた山に向かって、まっすぐに伸びていた。

一度その目を山にやったモンキは、すぐに目を元に戻し、ボスモンキーを睨みつけた。

今更何を聞く。


まさか、私たちがお前の住処を焼き払ったことでも聞くつもりか?

焼いたわけだな、サル山を。

勿論だ。


あんなサル山は、私たちにとって無用で、害だけがある。

そんな場所だ。

だから、早く消さなければならなかった。

ボスモンキーは、軽く笑うような目でモンキにそう告げた。

その瞬間、モンキがその手に持った剣をより強くのが、アリスの目にもはっきりと分かった。

どういうつもりだよ。


ボスモンキーは、あのサル山で一番力があって、オイラを含めてサル山をまとめてきたじゃないか。

そんな大切な場所を、どうして焼き払っちまうんだよ!

故郷とか、もともとの住処とか、そんな目障りなものを残しておけると思うか。


あの場所は、快楽に満ちていた。

そんな快楽を、早くやめさせること。そうするためには、残ったサルたちを犠牲にしてまでも、あの山を焼き払うしかなかった。

快楽……。

アリスは、「快楽」という言葉を口でリピートした時、背筋が凍るような思いがした。

それはどこかで聞いた言葉だった。


だが、モンキはその言葉を深く考えることなく、剣を真っすぐボスモンキーに向けた。

頼むよ。

もう、そんな血生臭いマネはやめて欲しいよ!


オイラたちサル同士が、お互いを傷つけあってるだけなんだぜ。

だから、できればオイラはボスモンキーと戦いたくないんだ。


この剣は、どうしてもというときにしか使いたくない。

きれいごとめが。


モンキ、お前を殺す。

かかってこい。

サル山で、オイラはかなり道具の扱いに長けていたからな!

モンキの足が、お菓子のお城の床を力強く蹴り、剣を高く上げたままボスモンキーに駆けていく。

ボスモンキーも、モンキの足の動きに合わせるかのように、その足を前に出して、襲い掛かる剣を受け止めようとした。

ボスモンキー、覚悟おおおお!
モンキが飛び上がった!

モンキは、右足を力強く踏み込んだ瞬間、その力をバネにして高く飛び上がった。

一般的なサルよりもはるかに高いジャンプ力を頼りに、モンキは上からボスモンキーに襲い掛かる。

そう来たか。


なら、下から串裂きにするまでだ!

もしかして、串焼きですかー?

アリス、何てこと言い出すの……。

ギャグやめなさいよ。

バトルの雰囲気をぶち壊すように呟いたアリスの一言で、ソフィアが思わずアリスに振り返った。

完全に外野の少女が、思い付きの一言をつい口にしてしまったのだ。


その声は、鋭い剣を高く上げるボスモンキーの集中力にも、そして高いところから一気に剣を振り下ろすモンキにも影響を与えているのは言うまでもなかった。

串焼きじゃねぇよ!

ボスッ……!



その瞬間、アリスは嫌な音を耳にした。

サルの体が鋭く貫かれていくように聞こえ、アリスはすぐに目を閉じた。


そして、現実に目を向けようと、そっと目を開くと、そこには落下のコントロールを失ったモンキが、機先を制されたボスモンキーの、やや向ける位置を反らした剣に、偶然にも突き刺さってしまったのだ。

モンキ!

偶然にもほどがああああああ!

苦し紛れに言葉を発するモンキの体が、アリスには痛々しく見えた。

完全に事故でも起きたかのように、本当に串刺しにされてしまったモンキを、アリスはただ呆然と見つめるしかなかった。


そして、ソフィアの手がゆっくりとアリスに伸びるのを見て、アリスはついに事の重大さに気が付いたのだった。

アリス、何やってるのよ……。


アリスの一言で、逆の奇跡が起きちゃったじゃない……。

あちゃー……。


わ……、私はあくまでもボスモンキーを笑わせたくて……というつもりでした。

みんなの集中力が、その一言で切れてしまったのよ。


アリス、銃で止めたほうがいい。

分かりました……。


できる限りやってみます!

アリスは、モンキを串刺しにしたまま手前に引き寄せようとするボスモンキーに、鋭く銃を向けた。


その先では、まるで何かを計算しているかのように、ボスモンキーは剣を少しずつ抜いていく。

手に集中力がいっているようだ。今しかなかった。

ボスモンキー、覚悟してください!

だが、アリスがそう叫んだ瞬間、ボスモンキーはアリスの銃弾の正面に、剣から抜け出そうともがくモンキを突き出した。

モンキの苦しそうな表情が、より真っ青になった。

オイラを撃つことにな……!

次の瞬間、アリスの銃弾がモンキの腹に直撃し、その衝撃でボスモンキーの剣から引き離され、銃弾と一緒に投げ飛ばされた。


その先に待っていたのは……。

あっ、竜巻が……!
そう言えば、竜巻が回ってるんだった……!

ボスモンキーの一味を逃がさないために、堀のチョコレート、または泥を巻き上げる作戦が、ここで一気に裏目に出た。

竜巻に向かって宙を舞うモンキをうまくキャッチすることができず、モンキの体はさらに遠くへと飛ばされてしまったのだ。


その様子を、アリスはモンキの投げ出されたベランダごしに見るしかなかった。

だが、彼女の後ろから、一歩、また一歩と足音が聞こえていた。

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登場人物紹介

アリス・ガーデンス


15歳

軍事組織「オメガピース」にいるのに、戦いもせずにお菓子ばかり食べる女の子。何かとお騒がせなことをやってしまうドジっ娘。一応、銃使い兼魔術師。アッシュに片思い中!

モン・キホーテ(モンキ)


人食いサル。ひょんなきっかけからアリスの冒険に付いて行くことに。

アッシュ・ミッドフィル


23歳/ライフルマスター

冷静な判断力と圧倒的な銃の腕を持つ、絶対の銃使い。自らの誤射で家族と家を失い、モンスターの潜む森で1年間生き抜いた過去を持つ。暗い性格が仇となり、イケメンなのに恋愛経験がほぼ皆無。

ソフィア・エリクール


25歳

女剣士。今回、何故かアリスの保護者として不思議な世界について行くことに。

トライブ・ランスロット


25歳/ソードマスター

女剣士。またの名を「クィーン・オブ・ソード」。最強。

ケーキの妖精 パティスリー


5歳

お菓子のお城に住む妖精。クリームとブルーベリーとクランベリーでできている。

デビルラフレシア


草なのに兜をかぶっている、奇妙な植物「ラフレシア」のトップ。

竜巻を起こして、ある一定の生命を襲っているらしい。

ボスモンキー


その名の通り、サル山のボス。

言うまでもなく、モンキのボス。

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