43 剣術大会が乱闘大会に変わる
文字数 2,835文字
「オメガピース」自治区のコロシアムで繰り広げられる、剣術大会の熱いバトル。
世界中の兵士が集う、年2回の大会よりは規模が小さいとは言え、オメガ国内から数多くの剣を操る者たちが、リングの上でその腕を見せつけていた。
一人、また一人と力なき剣士が敗れ去り、準決勝の戦いが始まった。
ソフィアは、一般客席の入り口からコロシアムに足を踏み入れた。
ちょうどその時、会場全体が大きな悲鳴に包まれた。
負けるはずのない剣士が、準決勝で姿を消す。
そんなことを予感させる悲鳴だった。
悲鳴がようやく静まったとき、ソフィアは観客席に出た。
そこでソフィアの目に飛び込んできたのは、ボロボロの姿でリングを去る、トライブの姿だった。
ソフィアは客席に座ることなく、すぐに1階にある出場剣士の入退場口に急いだ。
そこに着いたとき、ちょうど姿を現したトライブと目が合った。
「クィーン・オブ・ソード」の異名を持つトライブの体は、その名前もかすむほどに疲れ果てているように、ソフィアには見えた。
もっとも、トライブがボロボロになってまで戦う姿、そしてその状態で相手を打ち砕く場面をソフィアは何度も見てきているので、この体のトライブに違和感は覚えなかった。
それでも、強敵に跳ね返されて決勝に進めなかったという事実だけが、ソフィアの脳裏に重くのしかかる。
ソフィアは、アリスのことを思い出しながらトライブに告げた。
その目の前で、トライブは小さくうなずいた。
アリスらしいじゃない。
アリスは、のびのびしているほうが、居心地いいんじゃないかって、私は時々思うことがある。
ダメなところはダメって言わなきゃいけないけど、それでアリスの成長を止めちゃいけないと思うのよ。
ソフィアは、事細かにボスモンキーの姿や態度などについて説明しようと思ったが、少し考えてそこで言葉を止めた。
すぐさまトライブがソフィアの話に食いつく。
強い。
鋭い剣を振り回したり、突き刺したり……、サルの知恵で持っている剣を自由に操っているような気がする。
率いているサルたちは特に剣とか持っていないけど、やっぱり私もアリスも、ボスモンキーだけに苦戦しているの。
そこまで言うと、ソフィアはトライブに軽く頭を下げた。
ちょうど、リングでは準決勝第2試合が終了し、勝者を称える大きな拍手が二人の間にも鳴り響く。
その拍手が止まった頃を見計らって、ソフィアはトライブに告げた。
ソフィアの目に映るトライブは、ピロウに敗れた直後の硬い表情から、再び強敵に挑む情熱的な表情へと変わっているように思えた。
相手が強ければ強いほど、「剣の女王」の心は熱く燃え上がる。
そう言って、ソフィアはコロシアムの出口へと進んだ。
トライブも、やや早足になってソフィアの横に付く。
その時だった。
決勝のゴングが鳴っていないにもかかわらず、リングから悲鳴が上がった。
それと同時に、あたり一面に鳴り響くサルの鳴き声が、ソフィアたちの耳に飛び込んできた。
アリスがボスモンキーを剣術大会に向かわせた、ということを知ったら、絶対にトライブからお説教される事案だぞ、これ。
二人は、剣士の入退場口へと急いだ。
サルの乱入で、2階や3階の観客席から洪水のように観客が押し寄せ、それに逆流するように二人は進まなければならなかった。
もはや収拾のつかなくなっている受付を通り、二人はリングへと急いだ。
リングの見える位置にやって来たソフィアは、思わず足を止めた。
リングでは、ピロウと、同じく準決勝を勝ち上がったニコラスに向かって、ボスモンキーがその剣を激しく振りかざしていた。
決勝まで残った二人の剣士を前にしても、ボスモンキーはその実力で二人を寄せ付けない。
ニコラスは簡単にリングの外に弾き飛ばされ、そしてピロウは――
ボスモンキーの剣が、ピロウの体を鋭く貫き、串刺しにした状態で背中からリングに叩きつけた。
見るからに、瀕死もしくは死の瞬間が訪れたようだった。
その様子をはっきりと見たトライブは、ついに自分の剣――アルフェイオス――を手に、リングへと駆け上がった。