46 おしまい?

文字数 2,506文字

すげえじゃん……。


こんなパワーを、人間が出せるなんて思わなかった……。

ボスモンキーがトライブの前にひれ伏した瞬間、モンキはまるで喉が震え上がるかのような声で叫んだ。

私も、初めてその力を目の前で見たときは、すごくそう思いました。

勝つために、全てを犠牲にしてもいいくらいの力の入れようです。


それでも負ける時は負けるんだから、ソードマスターは何度もボロボロになってます。

見た目はメスなのに、美しさが台無しだな。

モンキがそこまで言うと、剣をボスモンキーから離したトライブが振り向いて、アリスたちにゆっくりと近づいてきた。

トライブの表情は、戦いに挑むときとは90度変わって、わずかばかり笑みさえこぼれていた。

アリス。


ボスモンキーと戦わせてくれるなんて、ものすごいシナリオで冒険したじゃない。

おそらく、アッシュの想定した以上のことを、アリスはやってくれたと思う。

えっと……、そうですね……。


偶然が偶然を呼んで……、ソードマスターの目の前に現れることになってしまったというか……。

アリスは、自分自身がボスモンキーを剣術大会に向かわせたことは決して言おうとしなかった。

ただ、トライブの目を見る限り、おそらくアリスがそうさせたのだろうということが、アリスに分かってしまうようだった。

まぁ、とりあえず……、ボスモンキーで剣士が犠牲になったけど……、これで落ち着いてくれると思う。

ちょっと待ってください。


ボスモンキーから剣を奪ったりしないんですか……?

また何かするかもしれないですよ。

私は、強敵から剣を取り上げたりしない。

もう一度戦ってみたいし。


それに、ボスモンキーが剣からこんなの落としたのよ。

トライブは、そう言うと左手をゆっくりと開いて、アリスにその中を見せた。

赤く小さな呪いの人形が、その手には入っていた。

あ、マンドレイク!

ボスモンキーの剣に、これが埋め込まれていたのよ。

思い通りにならない時、敵対する他の生命を呪うという不思議なアイテム。


ほとんど凍結させられたと思ったんだけど、まさかここで見るとは思わなかった。

後で、氷雪の魔女ミシアに氷づけにしてもらうわけね。

オイオイ……、じゃあ、オイラの山が犠牲になったり……、お菓子のお城が食い荒らされたりしたのは、全部そのマンドレイクのせいだったんか……。


なんか、気が抜ける……。

モンキは、我に返ったような目でキョロキョロしているボスモンキーに一歩ずつ近づいていった。

そしてモンキは、腕を組んでボスモンキーの前に立った。

オイラたち、どうするんだよ……。


人食いサルの評判、ボスモンキーたちのせいで最悪なことになっちまったぞ。

住みかだって焼き払ってるから、オイラたちに行く場所も帰る場所もないじゃん。

モンキが鋭くそう問いかけると、ボスモンキーは一度うなずいてモンキに手を差し伸べた。

本当に悪かった。

山がなくても、俺はいつまでも生きていけると思ったんだがな……。


マンドレイクから解放されれば、現実に戻されるということを、少しも考えていなかった。

ボスモンキーの目は、これまでアリスたちが見てきたように険しくはなく、かりにも同じ山で生息してきたモンキに優しく語りかけていた。


その表情のまま、ボスモンキーはモンキの頭を軽く撫でた。

してきたことを償い、山を再生させる。

それが、ボスである俺の使命だ。


そう言えば、人間からモンキという名前がつけられてたんだよな……。

モンキ、お前は俺たちの暴走を止めた英雄だ。

ありがとう……、ございます……。

二匹のサルが言葉を交わしているのを見ながら、アリスは何度もうなずいた。

アリスの波乱に満ちた冒険で、再び友情が結ばれる瞬間まで見ることになろうとは、アリスでさえも思っていなかったのだ。

なんか、ハッピーエンドですね……。


でも、冒険の主人公とサブヒロインは誰だったんだろうって、思いたくもなります。

そうね……。


アリスが主人公、私がその付き人だったはずなのに、いつの間にかトライブが強敵を倒し、ボスモンキーに褒められたのがモンキという……、複雑な形でハッピーエンドを迎えることになりそうね。

何より、ボスモンキーを止めたのが私じゃないから、お菓子のお城からブラックリストに入れられたまま終わるというのが、なんか辛いです。


一度くらい、お菓子のお城でお菓子を食べたかったなぁ……。

アリス、それはちょっと違うんじゃない。


ここまで物語を作ってこられたのは、全部アリスの勇気ある行動のおかげよ。

パティスリーには迷惑をかけ続けたかもしれないけど、違う道をアリスが取っていたら、お菓子のお城だってなくなってしまったかもしれないのに……。

その時、アリスの目にモンキが戻ってくる姿が飛び込んできた。

モンキは、ボスモンキーの持っていた剣の先をトライブに向け、堂々と迫ってきたのだった。

ここでエンディングになったら、オイラが一番戦ってみたい相手と戦えずに終わるからな。


トライブ、オイラは勝負したいんだ。

ボスモンキーから譲られた剣でな。

いいわよ。


その代わり、手加減はしないから。

ソードマスター、早くも本気モードになってる……。


これ、5秒もあれば勝負つきそうですね。

オイオイ、アリス。


いくらトライブが相手だからって、5秒で決着がつくなんてなしだろ。

オイラが5秒で倒すというのならありかもしれないけどさ。

モンキがそう言うものの、アリスはその言葉を聞いて思わず吹き出してしまった。

剣を構える姿からして、両者から感じられる本気度に明らかな差があったからだ。



しかし、その中途半端な空気はソフィアの一言で一変した。

竜巻が来るわ。


デビルラフレシアよ。

えっ?


ボスモンキーがいなくなったのに、まだ楽しみを奪おうとしているんですか、デビルラフレシアは……。

アリスは、竜巻が迫ってくるほうを見ながら、思わず目を細めた。

竜巻の頂上に、ラフレシアたちの姿がはっきりと見える。


ボスモンキーの乱闘騒ぎで剣術大会のコロシアムから半分ほどの人が消えていたが、竜巻を見た瞬間に残った人々もみな屋内に避難してしまった。

リングの近くにいた「オメガピース」の兵士たちの目が、一斉に竜巻を睨みつける。

たぶん、冒険は終わってなんかないんです。

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登場人物紹介

アリス・ガーデンス


15歳

軍事組織「オメガピース」にいるのに、戦いもせずにお菓子ばかり食べる女の子。何かとお騒がせなことをやってしまうドジっ娘。一応、銃使い兼魔術師。アッシュに片思い中!

モン・キホーテ(モンキ)


人食いサル。ひょんなきっかけからアリスの冒険に付いて行くことに。

アッシュ・ミッドフィル


23歳/ライフルマスター

冷静な判断力と圧倒的な銃の腕を持つ、絶対の銃使い。自らの誤射で家族と家を失い、モンスターの潜む森で1年間生き抜いた過去を持つ。暗い性格が仇となり、イケメンなのに恋愛経験がほぼ皆無。

ソフィア・エリクール


25歳

女剣士。今回、何故かアリスの保護者として不思議な世界について行くことに。

トライブ・ランスロット


25歳/ソードマスター

女剣士。またの名を「クィーン・オブ・ソード」。最強。

ケーキの妖精 パティスリー


5歳

お菓子のお城に住む妖精。クリームとブルーベリーとクランベリーでできている。

デビルラフレシア


草なのに兜をかぶっている、奇妙な植物「ラフレシア」のトップ。

竜巻を起こして、ある一定の生命を襲っているらしい。

ボスモンキー


その名の通り、サル山のボス。

言うまでもなく、モンキのボス。

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