41 ただの動物には興味ありません

文字数 2,556文字

誰の話をしているかと思って来たら、私のことか。

モンキよ。

なんだよ!

ボスモンキーが、食べ物がないことの逆恨みで、動物を争いの魂こもった植物に変えようとしたって話、全部お花の妖精から聞いたんだからな!

私だって、ボスモンキーのやっていることは許せないです。


いきなりですが、覚悟してください。

アリス、いつから会話が始まって30秒で銃を向けるキャラだったのか。

まさか、この期に及んでまた銃を向けるとはな。


だが、この剣で斬るまでだ。

アリスが勢いよく引いた引き金。

その動きに、ボスモンキーが全く動じることはなかった。


解き放たれた銃弾に、一度モンキを串刺しにした剣を一気に振り下ろす。

あっ……!

ピキン……と小さな音を立て、銃弾がお花のお城の床へと砕け散った。

アリスは息を飲み込み、呆然とした表情で一歩、また一歩と下がっていく。

しゅーりょー……。

おい、アリス。

そんな簡単に気を抜いちゃうのかよ!

どうやら、お前たちに私は倒せなさそうだな。


もう少し強い剣士と、もう少し強いスナイパーだと思ったのだがな。

何を言ってるんだ!

オイラは、偶然に突き刺さっただけだ!


こいつの場違いな言葉で。

モンキは、目を細めたまま、右手の人差し指だけをアリスに向ける。


すると、ボスモンキーは軽く首を横に振って、アリスとモンキにそっと告げた。

お前たちが何と言おうと、「動物の植物化計画」は成功した。


そして、これから数多くの手下を、私は引き入れることになるだろう。

数多くの手下……。
もしかして、後ろにいる……、オイラと一緒に暮らしていたサルたちじゃないだろうな。

仲間は、仲間だ。

特に手を出したりはしない。


ただ、モンキ。お前だけは例外だ。

植物になって、人の楽しみを奪われればいい。


ついでに、そこの少女もな。

その時、アリスはキョトンとした表情でモンキの顔を見た。

あのー、ボスモンキーさん……?


私もモンキも、あの機械装置の非常停止ボタンの場所、知ってますよ。

だから機械の中に入っても、植物になんかなりっこないです。

まさか、あの機械装置から脱出したとでも言うのか。

そうだそうだ!


サルっていうのはな、手先は器用でも、そこまで知能があるわけじゃないんだからな!

万一の時のために、そんなものを用意するなんて、簡単に思いつくさ!

サルが言うな。

ほぉ……。


なら、死んだ状態で機械装置に入ってもらおうじゃないか。



今度こそ、息の根を止めてやる……。

ちょっと待ってください。


話、全部聞かせてから私たちを狙ってもいいじゃないですか?

そうだったな……。


数多くの手下。

それは、私たちを人食いサルとか言って、本当はなめている人間どもだ。

特に、戦闘力の高い冒険者とかは、「動物の植物化計画」にとってはうってつけの存在だ。

人間を、植物にするんですね。

勿論だ。


獰猛な植物になった人間どもは、その生みの親である私を、深く感謝することになるだろう。

人を憎む気持ちだけで生きていけるんだからな。

その時、モンキが一歩前に出て、ボスモンキーの前に立った。

そして顔を突き出し、じっとボスモンキーの顔を見つめる。

そんなの、オイラたちのやることじゃない!

その口で何が言える。


モンキだって、人食いサルじゃないか。

たしかに、オイラは人食いサルの中の一匹だよ。


でも、それはオイラたちが生きていくために、人の肉を仕方なく食べてるだけじゃないか。

それも、たぶん……山全体で1年に数人ぐらいなものだろう。


そういう自然の摂理と、ボスモンキーの欲望は、180度違うと思う。



考え直してくれよ……、ボス!

モンキの言う通りですよ……。

本当に……。

だが、ボスモンキーは首を横に振って、モンキを掴もうとするような手を、ゆっくりと伸ばした。


顔は笑っていた。

ボスと言うのなら、ボスの考えに従うがいい。

それが、全ての生命の常識だ。


群れからはぐれた動物が、ただ孤独の中で死んでいくようにな。

やっぱり、根からそんなボスだったのかよ……。

モンキの足が、いよいよ逃げようとする態勢に入った。

その時、アリスが大きく手を叩き、叫ぶようにボスモンキーに告げた。

えっと……、自治区のほうに行けば、たくさんの強い剣士たちがいます。

剣術大会をやってるんです。


そんな剣士たちを、この城まで連れてきて、植物にすればいいんじゃないですか。

……アリス?


それ、本気で言ってるのか?

私たちが狙われるより、いいじゃないですか。


少なくとも、私たちは。

アリスの妙案に、モンキも小さくうなずくしかなかった。

さらに、ボスモンキーもその言葉に大きくうなずいた。

面白そうだな。


人間の剣士なんて、所詮あんなような弱い存在ばかりだろうから、私の剣でいくらでも植物候補を積み重ねることができる。

じゃあ、自治区に行ってください。

もし、一人も剣士が見つからなかったら、その時は言った責任を取りますから。

責任……。


まぁ、な……。

オイラも受けるよ。

分かった。


なら、アリス。

自治区というのは、どっちの方角だ。

あっちです。

アリスは、ここは悪ふざけすることなく、正しい「オメガピース」自治区の方向をはっきりと指差すことができた。

ボスモンキーも、鼻と目でアリスの指差した方角を確かめながら、そっとうなずいた。

大量の獲物に免じて、今回は見逃してやろう。

次会ったときが、モンキたちの命日となるだろう……。

ボスモンキーの手が大きく上がり、サルの群れがお花のお城を出ていく。

最後の一匹が外の光の中に消えていくと、アリスは安堵の表情を浮かべ、モンキの顔を見つめた。

あぶなかったー。

アリス……、悪い意味で賢いよ。

オイラなんかよりも、ずっと。

そうですね……。


だって、ソードマスターに怒られないようにするために、いろいろ考えないといけないじゃないですか。

ダメなことをやっていると、自然と賢くなっちゃうんです。

で……、自治区に行けば本当に剣術大会が開かれてるんだろうな?


モンキが一歩詰め寄ろうとすると、アリスは軽く笑いながらこう告げた。

あれ?ソフィアさんがさっき言ってませんでしたか?


明日、剣術大会があるからソードマスターに声を掛けるって。

そこにサルたちがやってくれば、ソードマスターがこっちに来る必要ないです。

ソードマスター……。


もしかして、アリスの話に何度も出てくる、あの剣士か?

そうです。

アリスは、得意げな表情でそう返したのだった。
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登場人物紹介

アリス・ガーデンス


15歳

軍事組織「オメガピース」にいるのに、戦いもせずにお菓子ばかり食べる女の子。何かとお騒がせなことをやってしまうドジっ娘。一応、銃使い兼魔術師。アッシュに片思い中!

モン・キホーテ(モンキ)


人食いサル。ひょんなきっかけからアリスの冒険に付いて行くことに。

アッシュ・ミッドフィル


23歳/ライフルマスター

冷静な判断力と圧倒的な銃の腕を持つ、絶対の銃使い。自らの誤射で家族と家を失い、モンスターの潜む森で1年間生き抜いた過去を持つ。暗い性格が仇となり、イケメンなのに恋愛経験がほぼ皆無。

ソフィア・エリクール


25歳

女剣士。今回、何故かアリスの保護者として不思議な世界について行くことに。

トライブ・ランスロット


25歳/ソードマスター

女剣士。またの名を「クィーン・オブ・ソード」。最強。

ケーキの妖精 パティスリー


5歳

お菓子のお城に住む妖精。クリームとブルーベリーとクランベリーでできている。

デビルラフレシア


草なのに兜をかぶっている、奇妙な植物「ラフレシア」のトップ。

竜巻を起こして、ある一定の生命を襲っているらしい。

ボスモンキー


その名の通り、サル山のボス。

言うまでもなく、モンキのボス。

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