15 お花は誰が食べた
文字数 2,576文字
アリスとモンキは、お花畑の植え込みの手前で足を止め、花ひとつないお花畑をじっと見つめていた。
目の前だけではなく、遠くまで広がっている数多くの植物を確かめたが、やはり花だけが見当たらなかった。
そう言いながら、アリスは腰をかがめ、目の前にある植物を手に取った。
よく見ると、茎はしっかりと伸びているが、茎から花にかけてかじられた跡がある。
何者かの歯形が、細い茎にしっかりと刻まれていた。
アリスは、一つ、また一つと植物を手に取る。
根こそぎ取られたように見えたのも、葉だけが残っていて、やはり花に近いところから葉で食い散らかされているようだ。
そして、アリスは軽く手を叩いた。
モンキが目を丸くして、アリスを見つめる。
アリスの言う「食べる」という言葉が、何やら違ったニュアンスの言葉に聞こえているかのようだった。
その中で、アリスは言葉を続ける。
お花には、食べられるものがあるじゃないですか。
ここのメルヘンなお花は、みんな食べられるわけです。
で、おなかを空かせた誰かがお花畑のお花をみんな食べちゃった。
私みたいなことをやっちゃう人がいたんですよ。
アリスと一緒になった以上、モンキはツッコミのポジションです。
アリスは、一度うなずくと、何かを思いついたかのように、すぐ話を転換させた。
今度は、アリスの表情に悪ふざけの色は見えなかった。
モンキは、そう言い残すと、風の通り過ぎて行った方向に目をやった。
やはり、風の通った道は、変わり果てたお花畑と、通りから巻き上げられた食べ物のゴミ以外にほとんど変わっていないように見えた。
その時、じっと景色を見つめるモンキの背中から、アリスが言葉を続けた。
そう言って、モンキが首を縦に振った。
アリスは、その様子を見て、決して喜んだ表情を見せなかった。
おそらく、そうであると確信しているからだ。
だが、その竜巻の中にいた「もの」が何であるのかをアリスたちが知るのは、もう少し先の話だった。
アリスとモンキは、お花畑からさらにお花のお城に向けて進み始めた。
問題の城まで、まだ5キロはあるだろうか。
だが、花を食い散らかされたお花畑を目の当たりにしたアリスには、この先も何かがあるとしか思えなかった。
アリスは、モンキの表情をほんのわずかの時間だけ見るが、その一瞬だけモンキがうつむいているように見えた。
しかし、すぐに元の表情に戻ったモンキを見たため、アリスは特に異変を感じなかった。
アリスが、そうモンキに微笑んだときだった。
声が聞こえた。
お姉ちゃん……。
聞こえてる……?
アリスとモンキは、聞き覚えのある声に耳を傾ける。
だいぶ、寂しそうな声のように聞こえる。
それでも、お菓子のお城の近くで聞いた声は、こうして遠くに離れているときでも、その耳にはっきりと聞こえていた。
そして、不思議な声ははっきりとこう言った。
やられたんだ……。
竜巻に……。