44 うちのボスモンキーしりませんか

文字数 2,532文字

意外と距離あるな、自治区まで。

1時間くらいで着くと思っていたのに、なんか話が違いますね……。

お花のお城からの距離感覚が、全然つかめていませんでした。

剣術大会のリングにボスモンキーたちが迫っていたその頃、アリスたちはようやくお花のお城を出て、「オメガピース」自治区へと走っていた。


夜明けにはスタートするつもりだったが、アリスはおろかモンキまで寝過ごしてしまい、斜めから日が差し込むのを肌で感じて、ようやく起きるくらいだった。

加えて、アリスが自治区までの距離を誤って認識していたので、間に合うはずだったバトルから完全に後れを取る形になってしまったのだ。

とりあえず、遠くに大きな街とか城とか見えてきた。

あそこが自治区ってことでいいんだよな。

勿論です!


たしか、剣術大会の会場はこっち側だったと思うので、自治区の中に入ったら、コロシアムがすぐに見えてくると思います。

そうか……。


けどさ、ボスモンキーはその場所にいるのか?

行って、ボスモンキーに会えなかったら、それこそオイラたちの命が危なくなるぞ。

前足と後ろ足を巧みに使いこなし、自治区までの道を駆け抜けるモンキは、かすれた声になりながらもアリスに尋ねた。


その問いかけに、アリスは少し首をかしげ、それから思いついたように言った。

ボスモンキーとか、デビルラフレシアとかって、どうしたら楽しんでいるというのが分かるんでしょう……。


少なくとも、近くに行かないと人間の感情って分からなくなると思うんです。

それに、イルカだってあんな場所から狙う対象にしてましたよね。

まぁな……。


でも、それは風の噂みたいなもので分かるんじゃないか?

あそこに行けば、楽しいことが繰り広げられているとか。

きっと、ボスモンキーもそれで動いていると思う。

ならいいんだけど……。



もしコロシアムにいなかったら、この貼り紙を自治区のあちこちに貼ろうかと思うんです。

どういう貼り紙だよ。

サルをさがしています


何月何日、お菓子のお城近くにあるサル山動物園から、こんな顔のサルが逃げ出しました。

見つけた方は、自治区警察、電話番号。


こんな感じです。

夜、100枚くらい手書きで書いてました。

アリスは、それで寝坊したのですね。

まさか、オイラの寝顔を見ながらその貼り紙を書いたんじゃないだろうな。

オイラ、ボスモンキーとは全然顔違うじゃん。

勿論、モンキの顔を見てイラスト描きました。


適当なサルがそれしかいなかったんですもの。

少なくとも、ボスモンキーのイメージを思い出してから描くべきだっただろ。


まぁ、コロシアムにボスモンキーがいれば問題ないけどな。

モンキは、軽く首を横に振りながら、「オメガピース」自治区まで走り続けた。


そして、自治区の入口に着くとその場で止まり、アリスを下ろした。

ここから先は人が多い。

アリスが案内しながら、歩いてコロシアムまで行ったほうがいいだろうな。

分かりました……。


でも、おかしいですね。

貼り紙が私の手から見え隠れしているのに、誰も反応してくれないような気がします。

そりゃ、そのイラストじゃ「アリスの隣にいるサル」がお尋ね者になってしまうのだが。
じゃあ、ボスモンキーはまだこの場所に来ていな……。

モンキが言いかけたその時だった。

ちょうどコロシアムの方角から、一人の男性が息を切らしながら自治区の出口に向かって走り出した。

世も末じゃー!


剣術大会の決勝戦を、サルが、サルがぶち壊したーっ!

ボスモンキーが、コロシアムにやって来たみたい。



あぁ、よかった。

私、ボスモンキーに怒られなくて。

アリス、この状況なら逆にトライブに怒られるぞ。

一番本気で戦えるはずの決勝で、ボスモンキーに殴りこまれたわけだからな。

そうですね……。


きっと、決勝に出たソードマスターと、もう一人の強い剣士が、いまボスモンキーと戦ってるんですよ。


モンキ、行きましょ!

そう言うと、アリスは家と家の間に入り込み、コロシアムへの最短ルートまで走る。

ものの1分もしないうちに、アリスたちの前にコロシアムが現れた。

ここが、剣術大会の会場です!

とんでもないルートを通ったな……。


でも、どうするだこれ。

人が外に逃げてきているぞ。

モンキは、少し飛び跳ねながらコロシアムの出入口を見る。

大量の観客があふれ出し、出入口に続く道はパニックに包まれていた。


中には、突然やってきたモンキに対して、過剰に怯える観客までいるほどだ。

たしかに、モンキにも近寄らないですね……。


でも、そのことをここは上手く使いましょう。

私がモンキに乗って行けば、人は怖くて道を開けてくれると思います!

悪い考えだな……。


でも、それも決して悪くない。

早くリングまで向かわないと。

モンキの言葉が終わるか終わらないかのうちに、アリスはモンキの背中に飛び乗った。

その瞬間、出入口まで続く道から、恐怖のあまり人の群れが割れた。

さぁ、ボスモンキーに向かってレッツゴー!

そのままの勢いで、アリスたちは出場剣士の入退場口を、いい意味で言えば顔パスで通り、リングの見える位置まで急いだ。


そこに、ソフィアが立っていた。

アリス……、それにモンキ。

戦いは、これから始まろうとしている。


トライブは本気よ。

間に合ったーっ……。


ソフィアさん、ボスモンキーにやられた人はいるんですか?

そうね……。


決勝まで残った剣士が一人、ボスモンキーによって命を落とした。

あとは、観客にもかなりケガ人が出ているような気がする。

アリスは、リングに目をやった。

トライブを破り決勝まで進んだ剣士ピロウが、既に動かぬ体になっていたのだった。


その亡骸の前に立ち、トライブはボスモンキーにアルフェイオスを向ける。

あれが……、トライブという女剣士か……。

なんか、立ち姿を見ているだけで剣士ぽく思えてくる……。

ソードマスターは、そういう人なんです。

剣を持ったら、完全に別人。そう言ってもいいくらいです。

アリスたちがそのように話していることに、トライブもボスモンキーも全く気にしない。

ただ、強い剣士同士が、勝負を決する時間を待っていた。


やがて、ボスモンキーの体がかすかに動いた。

人間のメスのくせに、何ができる。

そんなお前は、私の前で砕け散るだけだ。

そうはさせないわ。

にらみ合う目。同時に踏み出したその足。


勝負は、始まった。

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登場人物紹介

アリス・ガーデンス


15歳

軍事組織「オメガピース」にいるのに、戦いもせずにお菓子ばかり食べる女の子。何かとお騒がせなことをやってしまうドジっ娘。一応、銃使い兼魔術師。アッシュに片思い中!

モン・キホーテ(モンキ)


人食いサル。ひょんなきっかけからアリスの冒険に付いて行くことに。

アッシュ・ミッドフィル


23歳/ライフルマスター

冷静な判断力と圧倒的な銃の腕を持つ、絶対の銃使い。自らの誤射で家族と家を失い、モンスターの潜む森で1年間生き抜いた過去を持つ。暗い性格が仇となり、イケメンなのに恋愛経験がほぼ皆無。

ソフィア・エリクール


25歳

女剣士。今回、何故かアリスの保護者として不思議な世界について行くことに。

トライブ・ランスロット


25歳/ソードマスター

女剣士。またの名を「クィーン・オブ・ソード」。最強。

ケーキの妖精 パティスリー


5歳

お菓子のお城に住む妖精。クリームとブルーベリーとクランベリーでできている。

デビルラフレシア


草なのに兜をかぶっている、奇妙な植物「ラフレシア」のトップ。

竜巻を起こして、ある一定の生命を襲っているらしい。

ボスモンキー


その名の通り、サル山のボス。

言うまでもなく、モンキのボス。

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